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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天年と人女 前編 第六話 放課後

「どうした?空中を見て呆けているぞ。」

 私の目の前を掌が横切った。視線を横にずらすと、紺色の髪、橙色の瞳の少年が、楽しそうな表情で、私を見つめていた。

「エルキュール。」

「勉強しすぎて疲れたのか?」

 大分詰め込んだ内容だしな。と彼は何度か頷くように首を振った。


「よかったら、今日も一緒に帰らないか?」

「いいけど。テオファーヌは?」

「今日は研究室に行くと言っていた。」

 テオファーヌは、エルキュールの親友だ。エルキュールが領主になったら、自分は領主の補佐をする摂政役になると、常に明言している。テオファーヌも私たちと同学年だ。

 通学かばんを持って立ち上がる。


「悪いが、もう一人一緒に帰る者がいるのだが。」

「誰?彼女?」

 私の言葉にエルキュールは顔をしかめる。

「だったらいいのだけど。違うよ。君ももう知っている人物だ。」

 彼が向かうのは低学年の教室だった。その行き先に思い当って、そういえば直接本人に非礼を詫びていないなと思い、彼の後を続く。


「フェリシア。」

 彼はある教室の前で立ち止まり、中に向かって呼びかけた。

 一人の少女がこちらを振り向く。金に近い山吹色の髪に、深い青い瞳。

「兄さま。」

 彼女は私たちの姿を見とめると、ニッコリと笑った。既に帰り支度は済ませているようで、近くにいた級友に別れの挨拶をし、こちらに歩いてくる。


 エルキュールの後ろにいた私を見て、その青い瞳をわずかに見開き、頭を下げて挨拶をする。

「アルフォンス様。この間は本当に申し訳ございませんでした。」

 彼女の言葉に、私は目を瞬かせる。謝ってもらうことなど、何もないはずだ。それどころか、私の方が謝らなくてはならないのに。

「いえ。私の方こそ申し訳ありません。異性に申し出ることではございませんでした。」

 エステル先生にも叱責いただきました。と続けると、彼女は顔を青くさせる。

「まぁ、いいじゃないか。フェリシアもエステル先生の追及を躱せずに色々話してしまったことを反省しているのだよ。」

 エルキュールが取り成すように口を挟む。


「いや。すまない。いくら何でも異性の肌に触れる等、許可があっても避けるべきだった。」

「それに関しては、フェリシアにも言ったよ。今回はアルフォンスだったし、良かれと思って申し出てくれたのだろうけど、他の者がつけ込んで言ってくることもあるだろうから、軽々しく同意をしないようにとね。」

「本当に申し訳ありません。アルフォンス様。」

 彼女が深く深く頭を下げてきて、逆に私が慌ててしまう。


 教室の扉近くで話をしていたら、教室の中の生徒がこちらを見て盛り上がっていた。

 たぶん、上級生が来るのが珍しいのだろう。

「兄さま。教室から離れましょう。少々騒がしくなってきました。」

 フェリシアが小声で私たちに告げ、教室に背を向けて、私たちを促した。


「元々兄さまは院で人気があるのです。」

 フェリシアは私たち2人に向かって、人差し指を立てた。

「その上、剣の腕がたつと噂になっている新入生のアルフォンス様が一緒なのですから、盛り上がるのも仕方ないでしょう。」

「え、そんなに噂になっているのか?」

 私が思わず問い返すと、エルキュールが隣で当然だというように頷いている。

「1年だけ院に在学される方も珍しいですしね。」


「ところで体調は大丈夫か?」

 エルキュールがフェリシアに問いかける。フェリシアが薄く笑みを浮かべる。

「今のところは、大丈夫ですよ。アルフォンス様に診察をしていただいてから、身体の調子もいいのです。」

 彼女の顔色を見る限り、初めて会った時と比べても頬に赤みがさしていて、体調がいいことがうかがえる。診察して確かめたくもなったが、さすがに自重した。

 フェリシアの言葉を聞いて、エルキュールが私の方に橙色の瞳を向ける。

「アルフォンスに医学の知識があるとは知らなかった。」

「知識があるとはいっても医師ではないし。真似事でしかない。」

「それでも正直助かった。今はかかりつけ医がいないので、まったく診察を受けられていなくてな。家で臥せっていることが多かったのだ。」


 エルキュールがフェリシアの頭を撫でて、軽く息を吐く。

「今、かかりつけ医をエステル先生にお願いして探してもらっているのだ。ようやく一人紹介してもらえそうなのだが。」

「明日の放課後だろう?私も同席するよう言われている。」

 私の言葉に、エルキュールとフェリシアが共に首を傾げた。色合いは違うが、2人並んでみると、兄妹だなと感じる。

「なぜ、アルフォンスが同席することになったのだ?エステル先生に何か言われたとか。」

「今回紹介される研究生に、私が一度診察しているのなら、情報を共有しておきたいから同席しろと命令された。」


「命令?その研究生と知り合いか?」

「・・姉だ。」

 私の言葉に、2人が目を見開いたのを見て、思わず吹き出しそうになった。ここまでしぐさが似ていると見ていて楽しい。

「君の姉がエステル先生の研究室所属だったのか。」

「領主様から話はなかったのか?」

「父上からは、君のことしか聞いていない。研究生だから関係は持たないと思ったのかもしれぬ。・・でも、君の姉であれば、こちらも安心だ。」

「?」

 私が軽く首を傾げると、彼は苦笑してフェリシアの方を見つめる。


「フェリシアはこの間のことで君を大変信頼している。その姉であれば、妹が心を開くのも早いだろう。」

「に、兄さま。」

 彼女が慌てたように、兄の服を引いた。エルキュールはフフッと笑って、フェリシアに問いかける。

「フェリシア。アルフォンスに渡すものがあったのではなかったか?」

 彼女はその頬を膨らませて、兄に抗議するように口を開きかけたが、やがて思い直したように口を閉じると、通学かばんから紙に包まれたものを取り出して、私に差し出した。

「アルフォンス様。この間はありがとうございました。お礼のお菓子です。受け取ってください。」


 私はためらいながらもその包みを受け取った。包みからは甘いような香ばしいような香りがする。

「ありがとうございます。」

 私の言葉に、彼女はいつもの私の目を離さない幸せそうな笑顔を見せた。

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