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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天年と人女 前編 第四話 研究室

 私が研究室の扉をノックすると、中から応答の声が上がる。

 扉を開けると、奥に座っていた男性が立ち上がって、こちらに向かってきた。

「上級L2アルフォンスです。研究生のリシテキアはいますか?」

「ちょっと待ってて。呼んでくるから。」

 彼は、奥の部屋に続く扉を開けて、中に向かってリシテキアの名を呼んだ。名前を呼ばれて、こちらの部屋に入ってきたのは、プラチナブロンドの髪、金色の瞳を持つ女性だ。

「アルフォンス。ここに来るなんて珍しいわね。」


 彼女は私の方へ歩み寄りながら、私の腕に巻かれた包帯を見て、顔をしかめる。

「どうしたの?その怪我。」

「剣義の練習をしていて、失敗しました。」

 私の言葉を聞きながら、私の腕を取って、包帯部分をしげしげと眺める。

「救護室で手当てしてもらったの?でも、先生いなかったでしょう?」

「たまたま、休んでいた子が助けてくれました。」

 救護室のエステル先生は、ここの研究室を担当している。そして、姉のリシテキアはこの研究室に所属する研究生だ。だから、先生の予定も把握しているのだろう。


「綺麗に手当てしてもらったのね。後でお礼しないといけないのでは?」

 逆に相手からお礼をしたいと言われているのだが、何と説明すればいいのだろう。

「詳しくは後で話します。この傷だから今日はもう帰りますが、姉様はどうされますか?」

「今日は急ぎの件もないから、一緒に帰るわ。お茶でも飲んで待ってて。」

 部屋の中央には、大きな卓があり、その上には自分でお茶を入れられるように、飲み物やお菓子が置いてある。

 窓際には、いくつか机が置いてあり、今は一人の男性-先ほど姉を呼んでくれた人が、書物を手に何か書き物をしていた。

 私は卓に向かって用意された椅子に腰かける。


 今日妹に会ったことは、エルキュールに言っておいた方がいいのだろうか?

 エルキュールは私が院に来て初めてできた学友だ。同い年で、私が住んでいるエステンダッシュ領の次期領主でもある。

 どうも父がエステンダッシュ領の領主と面識があるようで、エルキュールは私が院に入ることを知っていたらしい。私にすぐに話しかけ、それからも何かと融通を利かせてくれている。

 今日も一緒に帰ろうと誘われたが、怪我のこともあったし、多分体調の悪い妹を迎えに行くだろうと思ったので、断ったのだ。

 妹がいることは初めて知った。

 今までも、エルキュールと一緒に帰ることはよくあったが、顔を合わせたことはなかったし、エルキュールも妹がいると言及したことはなかったし。

 でも、私もエルキュールに姉が研究生として在籍していることを言っていないから、お互い様と言えばお互い様かもしれない。ただ、エルキュールは、領主経由で知っている可能性もあるのだが。

 金に近い山吹色の髪に、深い青い瞳。肌の色が青白いのが気になったが、とても、愛らしい子だった。


「リシテキアはいるか?」

 扉が大きな音をたてて開き、茶色の髪を後ろで一つにまとめ、紫の瞳を持った女性が、凛とした声を発する。

 扉の前に座っていた私が振り返ると、彼女は私の顔をまじまじと見つめた。

「なんだ。アルフォンスではないか。」

「お世話になります。エステル先生。」


 彼女はここの研究室を担当しているエステル先生だ。私も何度か顔を合わせている。私が研究生リシテキアの弟であることももちろん知っている。

「アルフォンスがいるということは、リシテキアもまだいるな。」

「どうされました?先生。」

 帰り支度をしたリシテキアが、奥の部屋から出てくる。

「リシテキア。君に頼みがあるのだが。」

 エステル先生が、私の隣の椅子に腰を掛けたので、リシテキアもそれに向かい合う椅子に座る。そのまま、卓の上の飲み物に手を伸ばし、3人分のお茶を用意していく。


「実は、領主様の娘であるフェリシア嬢が、かかりつけ医を探している。」

 先ほどまで考えていた彼女の名が出たので、私は軽く咳をして、表情を何とか繕おうとした。

「大丈夫か?アルフォンス。」

 エステル先生が私の咳を聞きとがめて、声をかけてくる。私は首肯してそれに応えた。

「話を続けるぞ。だが、女性医師を希望されていて、なかなか希望に沿うのが難しい。そこで、リシテキアに期間限定でかまわないからお願いしたい。」

「・・私は医師ではないですよ?」

 リシテキアは軽く首を傾げた。プラチナブロンドの髪が動きに合わせて、横に流れる。


「君は、本来医師になってもおかしくない知識と技術を持っている。できれば、医師になってほしいくらいだが、そう遠くない内にここを離れると聞いている。その旨も先方に話したが、期間限定でも構わないから、かかりつけ医になってほしいと希望を受けた。」

「フェリシア様がかかりつけ医を探す理由は何かあるのですか?」

「フェリシア嬢は生まれつき虚弱体質だ。院もほとんど来られてないし、来ても途中で体調が悪くなって、救護室の寝台で休んでいることもある。」

 リシテキアの顔が曇る。


「さすがに虚弱体質を治すことはできませんよ?」

「向こうもそれは分かっている。これ以上ひどくならないように診てくれるだけでいい。」

「本人にお会いしてから決めてもいいですか?」

「いいだろう。日程は後で伝える。」

 エステル先生は、隣に座っていた私を振り向き、口を開いた。

「アルフォンス。君はフェリシア嬢を診察したそうじゃないか?」

 エステル先生の言葉を聞いて、リシテキアも驚いたような顔を見せている。これはまずい。

「なぜ、それを?」

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