天年と人女 前編 第二話 診察
しばらくして、処置の終わった部分をしげしげと眺めながら、彼はぽつりとつぶやいた。
「処置が素早いな。しかもとてもきれいだ。慣れているのか?」
「・・私はここにいることが多いので、先生のお手伝いをしていたら、慣れてしまったようですね。」
私の言葉に、彼は私の方を見つめる。
「具合が悪いのか?」
「生まれつき身体が強くなくて。院に来ても体調を崩して救護室で寝ていることも多いのです。」
「簡単な診察ならできるが、診ようか?」
彼の言葉に、私は首を傾げる。
「医学を専攻されていらっしゃるのですか?珍しいですね。魔法士でいらっしゃるとか?」
「・・家系的に医学の知識が豊富で、父からも一通り医学に関する事は学んでいる。魔法士ではないのだが・・。」
魔法士は、魔法を使うための資格のことをいう。この世界では、人が魔力を持つ。人は皆魔力を持って生まれ、魔力は日々を生きる力となる。一定の魔力量と免許を持つ者は、魔法を使うことができ、彼らは魔法士と呼ばれる。
魔法は、人間の手で負えない仕事(建築分野、物流分野、医療分野等)で用いられることが多い。だから、医学専攻者にも、魔法士は多く存在する。
「今、かかりつけの医師もいなくて、ちょっと困っていたところだったのです。お願いしてもいいでしょうか?」
私は正直に告げた。小さいころから面倒を見てくれていた医師が、ついこの間亡くなってしまったのだ。とはいえ、元々身体が弱いから、病のように治るものではないのだが。
「肌に触れないといけないが、大丈夫か?服をめくったりなどはしないが。」
「大丈夫です。お願いします。」
私が答えると、彼は額、手首、耳下、下瞼裏を順に確認していく。そして、再度耳下に指先を置き、目を伏せた。
私は、目の前の彼の姿をしげしげと眺める。他にすることもないので。
サラサラとした水色の髪は、私がよく寝台から見上げていた窓の外の青空の色。兄よりは顔立ちが中性よりで、たぶん女性の衣装を着ても、それなりに映えるかもしれない。
私より当然大人っぽくて、見つめている内に鼓動が早くなるのを感じた。
こんなに近くで、兄以外の同年代の男性の姿を眺めたことはないな。
きっと彼が聞いたら、かなり失礼なことを考えていると、彼が触れていた指先から温かいものが流れ込んでくるように感じた。
それが全身を巡って、湯浴みの後のように、身体全体が温かくなっていくのを感じる。
目を瞬いていると、彼がゆっくりと目を開け、私から指先を外した。
「魔力の流れがよくないな。それに伴って体温が低い。」
「でも・・何だか身体が温かくなってきました。」
「気分が悪くなったりはしていないか?」
「いえ、普段より良くなったぐらいです。本当にありがとうございました。」
私が笑いかけると、彼は動きを止めて、呆けたようにこちらを見つめる。その後、何も言葉を発さず、黙ってしまった。
「あの・・。何か、お礼をさせていただきたいのですが。」
恐る恐る言葉をかけると、彼はハッとしたように自分の口に手を当てた。
「私は医師ではないし、診察といっても真似事でしかないから、お礼をされるほどのことではない。」
彼は私から視線を外し、早口で礼を断った。でも、それでは私の気が済まないのだ。
「・・甘いものはお好きですか?」
「嫌いではない。」
「では、今度お菓子をお持ちします。美味しいですよ。兄にもお菓子作りの腕は認めていただいたのです。」
「いや、しかし。」
「私からの感謝の気持ちですから、是非受け取ってくださいませ。」
少し目を潤ませて、上目遣いに言ってみる。彼は、私の顔を見た後、軽く息を吐いた。
「わかった。いただこう。」
兄にはよく行っているおねだりの技だ。彼にも、効いたようで何よりだ。




