天年と人女 前編 第一話 出会い
高い白い天井は、なぜか少しも曇りがなかった。
カーテン越しに差し込んでくる光はとても柔らかだ。
私、フェリシアは、また体調が悪くなり、院の救護室の寝台の上に横たわっている。
ようやっと、院に来られたのにな。。
私は大きく息を吐いた。
元々、幼いころから虚弱だった。少し季節が変わると熱を出し、少し無理をすると寝込んだ。院は8歳から通っているが、多分休んでいるほうが多いだろう。それは12歳になった今でも変わらない。送り迎えはいつも4歳上の兄が付き添ってくれる。私が休みの時は、家で勉強する課題や手紙を持ち帰ってくれ、院の話をよく聞かせてくれた。
兄は今年が院の最終学年で、来年の春には卒業する予定だ。
その兄が話してくれる院の話の中に、度々特定の人の名前が含まれるようになった。
その名前はアルフォンス。
兄と同級生で、しかもこの一年しか院に通わないという新入生だった。
院に学年の途中から転入してくる生徒はたまにいるが、一年しか通わない中途半端な転入は珍しい。
しかも、剣の腕がとてもたつ方だそうだ。院の実技でも先生と引けを取らなかったらしい。兄が嬉しそうに話していた。兄とはとても馬が合うようだ。
兄を取られてしまうようでちょっと心が痛いが、女性でないだけ、いい方だと思おう。
彼は、兄と帰りを一緒することも多いようだが、私はこのところ院を休んでいたので、まだ彼に会ったことはない。
そういえば、同じ学年の子たちも彼のことを噂していたな。
少し年上の男性は、私たちから見ると、とてもあこがれの存在なのだ。
そう思っていると、救護室の扉がノックされた。
たしか、先生は職員室に行っていて、不在だったような。。
私が寝る前には、いらっしゃったのだが、扉を代わりに開けた方がいいだろうか?
「失礼します。」
私が身体を起こす前に、扉はノックした相手が開けたらしい。カーテン越しに扉を開く音と、カーテンの向こう側を歩く人影が見えた。入ってきたのは一人のようで、声からすると男子生徒のようだ。棚の扉や机の引き出しなどをガタガタと開ける音も聞こえてくる。
私は寝台の上で上半身を起こしてみた。眩暈はなさそうだ。
寝台から出て、靴を履くと、カーテンを開けて、目の前にいる人物に声をかけた。
「あの、手伝いましょうか?」
私の言葉に驚いたようにこちらを振り向いたのは、兄と同じくらいの男子生徒だった。
明るく晴れた空の色の髪。金色の瞳がこちらを見つめている。
「君は?休んでいたのではないか?」
「大丈夫です。だいぶ体調は良くなりましたので。怪我されたのですか?」
「あぁ、練習をしていたらちょっと失敗した。」
右の上腕をタオルで押さえていて、そのタオルには血がにじんでいた。
私は消毒液やガーゼ、包帯などを机の上に出していく。
救護室の常連となっている私は、大体の物のしまわれている場所は知っていた。
「利き手は右ですか?」
「そうだ。」
「では、包帯を巻くのとかも難しいと思うので、代わりに行いますよ。」
「そこまでしてもらうのは・・先生はいないのか?」
「職員室に行かれたと思いますが、それほど難しいことでもないので、すぐ終わりますよ。先生のお手を煩わせなくても、大丈夫です。」
私は今日、授業は受けられませんので、気にしないでください。と続けて言うと、彼は観念したように身体の右側を私に向け、椅子に腰を下ろした。
「助かる。ありがとう。」
私は机の上の鋏を手に取った。




