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天女と魔年 前編 第二話 捕食

 目を開けると、洞窟のような岩に囲まれた空間に寝ていた。

 身体の下には、藁や何か魔獣の羽毛らしきものが敷いてある。

「目が覚めたか?」

 先ほど私に水をくれた少年が、こちらを振り返った。

「本当は館に連れて行ってやりたいが、他の魔人に見つかるので、ここに運んだ。回復薬も飲ませたので、大分身体は楽になっていると思うがどうだ?」

 言われてみると、身体は動かせそうだ。上半身を起こしてみる。


「大丈夫そう。ありがとう。」

 彼は私の前に膝をつくと、私の額に手を当てた。

「熱が出ているな。傷の影響か。」

 さっきから思うけど、顔が近い。意識しすぎると顔が赤くなりそうなので、弟だと思ってやり過ごす。

「その傷はすぐには治らないと思う。しばらくここで休んだ方がいい。飲み物や食べ物、回復薬などは用意した。回復したら飛んで帰れるだろう?」

 視線を合わせながら尋ねられて、私は口ごもる。


「どうした?」

「襲撃を受けたときに攪乱されて、ここがどこかはよくわからない。魔人の住む地であることは教えてくれたからわかるけど。帰る方向もよくわからない。」

「・・それは、困ったな。私も天仕が住む地がどこにあるかは知らない。まぁ、知っていたら、確実に乗り込んでいるだろうが。私は天仕に会うのは、初めてなのだ。」

 それはそうだろう。魔人にとって天仕は彼が言う通り、ごちそうなのだ。普通であれば、天仕はこの地に近づくことすらしないはずだ。


「ここに他の魔人が来ないとは限らないのでしょう?それに魔獣だっているだろうし。」

「結構森の奥だからあまり魔人は近づかないが、一応認識阻害の結界は張っている。魔獣には結界は効かないが、火を焚くわけにもいかないので、しばらくは私がここに滞在して、来たら蹴散らす。」

 そこまでして、私を助ける理由がわからない。彼にとって、私はある意味餌だ。ここで怪我を負ってしまった私が不運なだけだ。私の回復のために骨を折る必要はないだろうに。変わり者なのだろうか?


「貴方も魔人なんでしょう?貴方は私のことを食べたりしないの?」

 私の言葉を聞いて、彼は動きを止めた。私の顔を見て、ゆっくりと視線を絡めてくる。赤い瞳に光が宿って、私は身体を震わせた。

「・・食べていいなら、食べるけど。」

 彼は淡々と告げる。

 あっさり肯定された。自分で言い出しておいてなんだけど。今までの行為を考えると、否定してくれると思ったのに。


 彼は左の指先で、私の顔の輪郭をなぞる。

「天仕の肉は柔らかくて、美味だと聞いた。その命や魔力は天仕本人が与える意思がないと、例え食べても捕食者のものにはならないけど。でも持っている魔力量が多いから、捕食すると少しはその者の糧となる。」

 彼は私を見ながら、その口の端を上げた。

 彼の笑みは外見に似つかわしくなく、とても大人びていた。

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