天女と魔年 前編 第十八話 必要
目の前にいる彼は、目元や頬が上気していて、私の一部を摂取したときの酩酊した様子を見せていた。でも、首に回していた私の腕を外して、身体を離されてしまった。
彼の機嫌を損ねてしまったのだろうか?
「魔力を与えたのは、駄目だった?血の方がよかったかしら?」
「いや、そうではない。悪くはないが・・。」
彼は私を見た後、視線をそらす。いつになく、余裕がない感じだ。
私がいなくなってしまったら、彼の病を治す手立てがなくなってしまうのが心配だった。私がせっかく戻ってきても、彼の病が発症して、そのせいで彼が死んでしまっていたら、意味がないからだ。
私の居場所を作ってくれたのも、私を守ってくれたのも、理由はともあれ彼なのだ。私は、彼が私に与えてくれたものに応えたかった。
「私が心配しているのは、貴方のことなの。私がいなくなったら、また病が発病してしまうでしょう?」
「まぁ、そうだな。」
彼は歯切れが悪い様子で呟く。
「ちゃんと聞いている?貴方のことなのだけど?」
私が彼に身体を寄せると、彼は掌を前にかざして、私を留めようとした。
「マクシミリアン?」
「わかったから。ちょっと待ってくれ。」
彼は目をつぶって軽く頭を振っている。普段よりも顔が赤いように思う。やっぱり魔力を与えたのが良くなかったのかもしれない。
悲しくなって、目の前がにじんでくる。目を開いた彼は、そんな私の様子を見て、また困惑したように顔をしかめた。
「だから、なぜまた泣くのだ。いつも以上に不安定だな。君は。」
「よくわからないけど、貴方を困らせているような気がして、つらくて。」
彼は私の言葉を聞いて、大きく息を吐いた。
「私のことは心配しなくていい。病を抑えるものについては、心当たりがある。元々君が帰るために協力する。そして、私の実験に付き合うという協力関係で、それらは満たされたのだから、君が気にする必要はない。」
「やっぱり、私は必要ない・・。」
「だから、なぜそういう考えになる。先ほど君は必要ではないわけではないと、言ったではないか。」
必要ではないわけではない。つまり、必要ってこと?
私がその言葉に首を傾げると、彼は大きな枕を自分が胡坐をかいている上に載せた後、私の身体を抱え上げて、その上に横にした。私の身体は枕と彼の膝に支えられた。
「マクシミリアン?」
「まったく君は・・。」
上から見下ろしている彼の顔は、まだ赤くはあったが穏やかだった。呆れを含んだような笑みが浮かんでいる。
「戻ってきたら、私と結婚しなくてはならないが。分かっているのか?」
「分かっているわ。」
「結婚するからには、私は君を、病を治す薬としてではなく、異性としてみるが。」
「今までは見ていなかったと言いたいの?」
「見ていると思うか?」
彼は、私を見ながら軽く首を傾げてみせた。私は彼の言動を思い返してみる。ここに来て着替えた時は褒められたけど、それ以降は実験対象っぽくって、確かに異性としては認識されていなかったような気はする。
「よくて、妹扱いかしらね。あとは、お酒代わりかしら。」
「今まで妹がいたことはないが、いたらこのように手がかかったのであろう。」
「・・なんとなく、その言葉は不服だわ。」
彼は柔らかく笑って、私の頭を撫でて、髪をすいた。
「リシテキア。」
彼の唇が下りてきて、私の額に当たった。
「君が戻ってくるのを待っている。」
私の耳に彼の優しい声が響いた。




