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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天女と魔年 前編 第十六話 迎え

「天仕を捕らえただと?」

「はい。森の中にいるのを数名で奇襲して捕まえたそうです。是非マクシミリアン様に献上したいと。」

 アシンメトリコが私に向かって礼をして報告する。


 この魔人の地に天仕がいるなど、リシテキアを探しに来たのではあるまいな。

 そもそも天仕は魔人にとって美味しい餌でしかない。何か理由がなければ、魔人の地に来ようとさえしないだろう。

「分かった。捕まえた魔人等には相応の報酬を持たせよ。天仕は傷をつけないようにして、この館に連れてこい。傷をつけると味が落ちる。」

「報酬を持たせるのですか?献上品ですが。」

「天仕はなかなか手に入らない。報酬を渡しても問題はなかろう。」


「かしこまりました。それと、魔人等は天仕の抵抗にあって、深手を負ったそうです。命に別状はないようですが。」

「では、回復薬を報酬と共に持たせよ。いいか、くれぐれも傷はつけるな。」

「かしこまりました。」

 アシンメトリコが下がるのを見送りながら、私は軽く舌打ちをする。


 とうとう天仕の住む地の情報が降ってきてしまった。彼女と離れなくてはならないかもしれない。

 私は頭を大きく振った。

 彼女は他の天仕にうとまれている。捕らえた天仕が、彼女のことを知っているのか、どのような関係にあるのか、確認しないと彼女には会わせられん。

 ここに来るまでには数刻かかるか。

 私はひとまず自分の思いはさておき、天仕を迎える手はずを調えることにした。


 そして数刻後、玉座に座った私の前には、白い羽を持った少年が両膝を床につき、俯いていた。

 水色の髪、彼女と同じ金の瞳、簡易鎧を付けており、全身はだいぶ汚れていた。血痕が飛んでいるように見えるのは、魔人等と交戦した時についたものであろう。剣も所持していたが、武器の類は前もって取り上げてある。目に見えた大きな傷は負っていないようだ。後ろ手に両手首は縛られている。

 彼に話を聞くにあたり、人払いをし、かつ内容を聞かれないよう防音の結界を張っている。

 何を口走るかわからないからな。


「そなたの名は?」

「・・アルフォンスと申します。」

「では、アルフォンス。そなたがここに来た目的は?ここは魔人の住む地。天仕であるそなたにとっては忌むべき土地であると思うが。」

「・・行方不明になった姉を探しに来ました。」

 アルフォンスに怯えの色はない。きっと質問をしているのが、自分と歳があまり変わらないように見える私だからであろう。ただ、私が玉座についていることから身分が高いものと踏んだようだ。言葉遣いは丁寧なものだった。口を噤んでいても暴行を受けるのを分かっているからなのか、私の質問には素直に答えているようだ。

 そして、彼が言った目的は、私が想定していた通りのものだった。


「姉だと?この地にそなた以外に天仕がいると申すのか?」

「姉はこの地の近くで襲撃を受け、墜落したとの情報を得ましたので。」

「それが本当だったとしても、ここは魔人の地。生きているとは思えないが。」

 私の言葉に、アルフォンスは諦めたように目を更に伏せた。

「そうは思いましたが、自分の目で確認しないと、諦めきれなかったもので。」

 瞳に映る光は真剣な色をたたえていた。


「姉の名は?」

「・・リシテキアです。知っていますか?」

 彼が彼女と同じ金の瞳で私を見つめる。私がその視線にうっすらと笑って応えてやると、彼はその顔色を変えた。


「姉様は無事ですか!」

「そなたはもし私が解放したら、天仕の住む地に戻れるのか?」

 彼の質問には答えず、私は別の質問をした。彼は不服そうな顔をしたが、今の自分の立場を分かっているのだろう。返事を返す。

「ここに来たのは姉様を見つけて、天仕の住む地に連れ帰るため。帰る道筋は分かっています。それより、姉様が無事なのであれば、会わせてください。」


 私は、彼のことを、目を細めて見つめる。

「そなたの姉は、天仕の住む地でとても虐げられているようだが、連れて帰っても問題ないのか?」

 私の言葉に、彼ははっとしたように目を見開き、私を見つめる。

「それは・・姉からお聞きになったのですか?」

「そうだが?」

「・・それでも、ここにいるよりはいいのではないでしょうか。」

 否定はしないのだな。私は口の端を上げる。


「血統などという馬鹿げたものに縛られていないこの地の方が、彼女にとっては安全とは言えないか?」

「確かに私たち家族は迫害を受けています。特に姉はその容姿からかその被害がひどかった。ですが、家族は人間の住む地への移住を決めました。これ以上姉が被害にあうことはありません。」

「決断が遅かったな。既に彼女は歪んでいる。」

「・・・。」

「自分のことを軽視しすぎだ。」

 私が軽く息を吐くと、彼はその身体を震わせた。


「彼女は、ここでは天仕であることを隠して過ごしている。そして、私の庇護下にある。もし、彼女がそなたと帰ることを望むなら、そなたと共に解放するよう努めよう。」

 私の言葉に、彼は不思議そうに私を見た。

「姉様が天仕であることを知りながら、それを隠してかくまっているのですか?なぜ、そのようなことを?しかも、姉様が行方不明になってから、もう2年もたっているのに。。」

『なぜ、そこまでしてくれるの?』

 以前彼女に聞かれた問いに、私は分からないと答えた。今の私はこの問いに何と答えるだろうか?


「その質問に答える必要性は感じない。後日、リシテキアには会わせてやる。それまでは、すまないがそなたは私の餌としてこの館に滞在してくれ。」

 私の言葉にぎょっとしたように彼は動きを止めた。

「そなたは私に献上されたのだ。そなたを食べる気はないが、そのように見せなければ、この館に留まれないし、リシテキアにも会えない。まぁ、味が落ちると言って、そなたに傷をつけるのは禁じているし、時機をみると言ってこの館にいることは可能だ。滞在する部屋から出ることはできないが、衣食住は保証してやろう。」


「姉様に会うまでは、待てということですね。」

「そうだ。」

 私は彼の後ろに回ると、両手首を繋いでいた縄を切った。

「あと、羽を一旦収めてくれないか?ここ以外の部屋はそれほど大きくはないのでな。」

「分かりました。」

 彼が身体の中に羽を収めるのを見て、私は執事のイーヴォを呼ぶ。

「私はここユグレイティの地を治める魔王マクシミリアンだ。私に逆らおうとはするな。時を待て。」

「・・・ありがとうございます。」

 彼が小さな声で呟いた後、扉をノックする音が部屋に響いた。

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