天女と魔年 前編 第十五話 日常
リシテキアと出会ってから、既に2年が過ぎた。
彼女は時がたつと、ますます美しくなっていった。
サラサラとしたプラチナブロンドの髪、月を思わせる金の瞳。
いつかは離れていくと分かっているのに、私は彼女に会い、話し、戯れることをやめられなかった。傍から見れば、私は確実に彼女に溺れているように見えるだろう。
正直、天仕の住む地に関する情報は得られていない。
調べつつも私はこのまま帰り道が判明しなければいいと思っている。彼女がこのまま私の側にいればいいと願っている。口にはしないけれど。
私の周りにはこれまで同年代の魔人がいなかった。彼女は私にとって、初めての同年代の異性であり、異種族の者だった。そして、唯一の私にとっての薬であり、美酒でもあった。
私は大いに興味を引き付けられた。そして、彼女に対する反応には、自分のことながらいつも驚かされる。今までの生活に色がついたような心地だ。
私の病を治める方法は判明した。他の魔人や魔獣の血では効果がなかったが、森の奥深くに自生していた果実をつぶして、果汁を飲むことで自傷行為が抑えられることが分かったのだ。果実は無味無臭であったため、他の魔獣や虫に食われることもないようだった。ただ、数は多くなかったので、一部を館の庭に移し、育てることができるかどうか試している。
リシテキアにはそのことは話していない。果汁と違って、彼女の血は本当に美味だ。言ってしまえば、もう味わえなくなる。
彼女の生活は以前の私と似ている。外に出るときに私がついていくことくらいが違うところか。本や資料を読みつくしてしまいそうだったので、定期的に他の地から借り受けて写本して増やしている。私も読むので、このところの会話では、お互いが読んだ本に関する感想や意見を交換することが多い。それらの本に天仕に関するものがあればとも思っているが、今のところ見つかっていない。
そして、今日もこうして向かい合って、お互い本を読んでいる。
「ねぇ。マクシミリアン。」
「何だ?」
「魔人にも双子は産まれるのね?」
「双子?」
彼女が読んでいる本の題名は、『目が覚めたら夢の中』だ。その中に双子の魔人でも出てきたのだろうか?
「魔人間では、双子は忌み子だ。」
「忌み子?」
彼女は頬に手を当てて、首を傾げる。プラチナブロンドの髪がサラリと前に流れた。
「禁忌の子。魔人は魔力量の多さがその強さを表すのは知っているだろう?」
彼女は私の言葉にコクリと頷く。
「双子は、元々一人が保有する魔力を分け合ってしまうから、一人一人が保有する魔力が通常の魔人に比べても少なくなってしまう。つまり、弱くなる。」
「それで?」
「魔人の住む地では、弱い者は生きていけない。」
「つまり・・双子は魔人の住む地では生きられないの?」
「だから、後から生まれた兄に、弟を捕食させる。」
私の言葉に彼女の顔は青ざめた。怖がらせただろうか、だがこれは真実だ。
「魔人でも双子を産むことはあるが、その後一人になる。もしかしたら、私も双子で生まれたかもしれぬ。物語の中では双子もそれぞれ生きられるのかもしれないな。」
私の言葉に、彼女はぎこちなく微笑んだ。
後でその本を私も読んでみようと思ったのに、いつの間にか日常に紛れて忘れてしまった。まぁ、題名から察するに、創作物語だったのだろう。
私は、創作物語はあまり好んでいない。創作物語には人の感情が詳しく書かれているのだが、私が登場人物に全く感情移入というものができないからだ。特に人を好きになるという感情は良く分からなかった。
彼女が、自分が読んだ物語を語ってくれる時は、その声に彼女の感情が載る。それは聞いていて心地いいと思うのだが。自分で進んで読んでみたいとは思えなかった。
そんな彼女と過ごす些細な日常が壊れたのは、ある報告がきっかけだった。




