天女と魔年 前編 第十四話 我儘
それからは、ほぼ毎日自室で過ごした。
マクシミリアンは、魔王として活動している間以外、基本私と一緒に行動している。
ユグレイティの地での生活は思った以上に快適だ。
魔王マクシミリアンと将来を共にすると告知はされているため、私に危害を加える者がまずいない。天仕と判明してしまったら、一気に危険な地となるが、天仕の羽を出さなければまず判明することはなく、魔力が極端に少なくなることなどない限り、羽が表に出てしまうことはない。それに天仕の羽を出さないでいることにおける不具合は、今のところ特にない。
外にはマクシミリアンが付き添える時しか出られないが、それもそれなりに頻度があり、部屋に閉じ込められっぱなしでもない。また、館に保存されている本や調査資料の類は読み放題で、一人の時は専らそれらを読んで過ごしている。
天仕の住む地へ帰る方法を見つけ出すのには難航している。
彼が前に私に語った通り、天仕の住む地を知っている者は、魔人の中にはいないのだろう。
マクシミリアン自ら、地図を片手に遠出をしたりもしているようだ。それでも、見つかったという話は聞かない。
寝るときは常に2人一緒に寝ている。
ここに来た初日に2人で寝てからは、自然と寝る前にマクシミリアンがこちらの寝室に来るようになった。周りの魔人たちも何も口を挟まないし、いつかは結婚するものと思われているから、そうするのが自然なのかもしれない。
ちなみに、彼の目的は、実験と称して、私をからかって遊ぶことである。
お酒の口移しもよく行うが、結局、お酒の度数は彼には関係ないので、用意するお酒の度数を大分下げてもらった。度数が高いと私が酔ってすぐ寝てしまうため、彼もつまらなかったのか、割と容易に了承してくれた。
他にも、私は彼に抱きしめられながら眠ることを要求した。
彼の腕の中の方が温かくて私がよく眠れるというのもあるが、一番の理由は彼が毎晩悪夢に魘されていることを知ったからだ。
離れて寝ていると、大抵私は夜中に目が覚める。そして、彼は隣で魘されている。
彼を起こさないように、その身体に腕を回し、背中を軽くさすってみた。しばらくすると、うめき声が止まり、呼吸音も安定する。何度かそれを繰り返すうち、最初から抱き合って眠ればいいのでは、と気がついたのだ。
それからは、彼の顔色も良くなった。と思っている。
彼が魔王として活動している間に、私は侍女のクラーラ、従者のヴェルナー、執事のイーヴォ、宰相のアシンメトリコ等に、マクシミリアンのことを尋ねている。
彼は意外と自分のことを話さない。特に自分が思っていることを語るのが苦手だ。そして、質問をしても微妙にはぐらかされて終わる。仕方がないので、彼の周りから情報収集をすることに決めた。私が将来結婚する相手のことを知りたいと言うと、彼らは屈託なく話してくれた。
マクシミリアンは実は皆に愛されていると思っている。
マクシミリアンの養親であった魔王は、強くはあったが放浪癖があり、妻もいなかったので、マクシミリアンは引き取られた時からこの館内で他の魔人によって育てられた。オーレリアンが魔王についてからは、オーレリアンが親として先生として面倒を見てくれたらしい。彼の周りに同年代の魔人は一人もいなかったから、遊ぶときは常に一人で遊んでいたそうだ。外に出られるときは専らユグレイティの地を回り、時には外泊をして戻ってくる。館にいるときは、本や資料を読んで過ごす。つまり今の私のような生活をしていたらしい。
特に物を欲しがることもなく、人に甘えることもなく、物事を淡々とこなし、子どもらしくない子どもであったようだ。その上、病も発症し、週に一度は部屋にこもって苦しんでいた。魔王を継承しても問題のない優秀な資質。だけど、その精神はどこか不安定。魔力量が多いせいか成長も遅い。その内病で亡くなるか、または元魔王のようにこのユグレイティの地を出て行くのではないか、と周りの魔人は気にもんでいたそうだ。
だから、私を連れてきて魔王を継承すると言ったときは、皆かなり驚いたが、それでも安堵したのだという。
魔人は自分の欲望に忠実な者が多い。特に魔王は力があるせいかその傾向が顕著に現れる。彼はそういう意味では魔王らしくない魔王だ。欲がないのだから。
オーレリアンが言ったように『何かを欲しいと思わず、独占欲も執着欲もない』人。
私を助けたのは、たまたま自分の病を治せる要素だったから。私を生かすのは、自分の病を治す手段を得るため。私に唇を寄せるのは、一時の酩酊を得るため。私と一緒に寝るのは、その方がよく眠れると気づいたから。私と結婚すると装ったのは、他の魔人の手を封じるため。
そこに少しでも私への感情をこめてほしいというのは、単なるわがままなのだろうか。




