天女と魔年 前編 第一話 襲撃
あぁ、失敗した。
私は痛む身体を動かせず、木の根元に横たわっている。
狩りに出たところを他の天仕に襲撃された。
私には人間の血が流れている。
血統を重んじる天仕の中で私は生きにくい。事あるごとに嫌がらせのようなことをされている。弟よりも私を狙ってくるのは、単に性別の違いによるものだろう。
女だから侮られている。純血統種でないから弱いと思われている。それだけ。
でもどうしよう。まったく身体が動きそうもない。
持ってきた回復薬も取り上げられてしまった。
身体はしばらく休めば回復すると思う。でも、血を流してしまったから、血の匂いに引き寄せられて魔獣が来なければいいのだけれど。
そんなことをつらつらと考えていると、頭の側から影が落ちた。
「怪我をしているのか?そなた。」
自分の目に上下逆に人の顔が映る。
金色の前髪の間から赤い瞳が覗いている。
自分の弟と同じくらいの年かさの少年だった。
「水を飲むか?」
彼は自分の腰につるしてある水筒の蓋を取って、口を私の方に向けた。
私は軽く頷いて、水筒に口を付けた。
彼が水筒本体を傾けて、私が水を飲むのを補助してくれた。
「ここは?」
「ユグレイティの地。」
名前からすると魔人が住む地のようだ。たしか、人間の住む地をめざして飛んできたはずなのに。襲撃された時に誘導されたのだろうか。
「水をくれてありがとう。」
「傷がひどいから、まだ起き上がらない方がいい。そなたは・・。」
彼は私の背中で押しつぶされている白い羽を見て、少し口ごもった。
「そう。私は天仕。」
「血も出ているし、この地では天仕はごちそうだ。どこか休めるところに移動した方がいいだろう。」
彼は私の身体を横抱きに抱え上げた。
「ちょ、ちょっと。」
私よりも年下のように見えるのに、軽々と抱き上げられて、私はあわてて降りようと身体をひねる。
「暴れるな。傷が余計開く。」
彼はそんな私に向かって淡々と告げる。
「でも・・。」
彼は私の顔に自分の顔を近づけて、彼は口の中で何かを呟いた。赤い瞳が近づく。思わず吸い寄せられるようにその瞳を見つめた。
すると、急激に眠気に襲われる。瞼を開けていられなくなる。
「しばらく寝ていてくれ。」
彼の言葉を最後に私の意識は途切れた。