69.救済米
Side: 府谷恭平
醸造班の上野さんより酒が出来たと報告があった。
なので今日は試飲会を開いている。
そうか、あれから2ヶ月も経つのか。
結局、15kgの米で1升瓶18本分が作れたそうだ。
「普通に美味いですな。甘口ですが酸味が効いていてコクがある。」
「そうですね。女性でもクイクイ行けそうです。」
「これなら普通に売れますよ。」
皆んなからの評判も上々である。
上野さんもまんざらでもなさそうにしている。
「やっぱり酵母が良かったからですかね。」
今回使った酵母は花酵母の一種でちょっと珍しいらしい。
というよりセンターにあった酒粕からたまたま選ばれただけなのだが、うまい具合にマッチしてくれたみたいだ。
という訳で本格的な酒造りが始まることとなった。
今は酒蔵の建設中だ。
それと醸造樽となるデカい木桶を作っている。
上野さんも本格的にやりたいらしく、精米した米をさらに削って精白率を60%くらいにもっていくそうだ。
原料となる米は、朝日氏が攻めて来た時に沢山置いて行ってくれた分があるので、これを使ってじゃんじゃん精米していた。
そんなところへ呑家くんからある報告が入る。
「所長、近隣の村の飢餓状況がかなり酷いみたいです。もうすぐ種蒔きの時期ですが種籾すらない人も結構いるみたいですね。」
あれ?もしかして朝日氏が置いて行ったお米って・・・。
流石にちょっとだけ悪いと思ったので全体会議を開いた。
議題は近隣農民の救済についてだ。
「現在、門前町の前で炊き出しを行っているが、そこに来る人達は春に蒔く種籾すら持っていない人も多いそうだ。そこで種籾を無利子で貸し出そうと思う。皆んなの意見を聞きたい。」
「確認なんですがウチに米ってどれくらいあるんです?」
たしかに舟酒さんの疑問ももっともだ。
「死村くん、在庫状況ってどんな感じ?」
「在庫的には全く問題ありません。博多の売上が好調なので食糧の調達も順調です。米に関してはむしろ増えてるくらいです。」
「それじゃ問題なさそうなのでどうだろう皆んな?」
「あのぅ、すみません。」
おや?珍しい。馬猪さんからだ。
「調理班からの意見なんですが、どうせ種籾を配るなら美味しいお米にしませんか?」
「それはいったいどういう事でしょう?」
「食堂で出すご飯は現地の米だと人気が無くて、結局皆さんコツヒカリやアシタコマチを食べがちなんです。」
たしかに現地の米はあまり美味しくはない。
なので、ご飯のジャーごとに銘柄を書いてくれという事件が過去にはあった。
そしてセンターでも米の作付けはやるが4haだけと心元ない。
どうせなら現地の人にも配って、作付け自体を増やせということか。
となると農業班の意見も聞かないとな。
「園田さん、農業班としてはどう思われますか?センターにある種籾の量にもよると思いますが。」
「籾米については余裕があります。正直、4haだけだと全然農地が足りない感じです。この際、植えれる所には全部植えて、美味しいお米を再生産した方がいいと思います。」
うん、農業班もOKみたいなので種籾の無料貸し出しは問題無さそうかな。
「あのー、いいっすか?」
おや死村くんからだ。
「どうしたの?」
「いや、種籾の状態で渡したら食べちゃうんじゃないかと思いまして。ほら、アフリカとかではそんな感じだったじゃないですか?」
確かにそうだ、アフリカに農業が根付かない理由の一つに挙げられていたっけ。
「それじゃどうした方がいい?」
「苗にして渡しませんか?それだと流石に植えると思いますので。」
「そしたらさ、せっかくだから正条植えまでやらせたらどうかな?」
呑家くんが正条植えなんて言葉を知っているとは驚いた。
「田植えについて良いですか?」
お、園田さんからだ。
「なんでしょう?」
「センター分の田植えをするのに人手が必要です。苗の対価にウチの田植えを手伝って貰う事って出来ませんか?」
なるほど、それはそれでアリかも。
「それでしたら正条植えのやり方も覚えられて一石二鳥ですね。」
呑家くんも賛成のようだ。
「どうだろう?他に意見が無ければ田植えを手伝って貰ってお礼に苗を渡すという事で。」
「いいっすか、言い方を少し変えませんか?」
おや?死村くんからだ。
「どんなふうに?」
「救済の為、神米を分け与える。ついては神の作法に則った植え方をしないと育たない。という具合で。」
「それは何の為に必要なの?」
「なんらかの縛りをかけないと正条植えなんてしないと思いますよ。適当に植えて終わりです。酷いのになると棄てられる可能性も有りますね。」
「そう言われてみればそんな気がして来た。それじゃ神の米という体でやってみようか。」
この後は特に反対も無く救済方針が決まった。
そして、炊き出しに来ている人達に、田植えが出来なかった者が申し出れば、救済の苗を分け与えると伝えた。
反響は物凄く、500人ほどの農民が申し込んで来た。
1人1律50a分の苗と決めた、なので250ha分の苗になる。
それだけの苗を準備する農業班は大変だと思う。
「苗については水耕栽培の施設が使えましたので割と自動化が出来ました。なのでそれほどでも無かったですよ。」
まあ、無理をしてはいなさそうなのでよかったみたいだ。
農民達には、毎年これだけの人数に来られても困るので、1人1度切りだということを念押しした。
よく分かってなさそうな顔だったが、アカウントで照会すればすぐ分かる。
2度目は断られるだけだ。
センターの田植え当日集まった農民達は皆悲壮な顔をしていた。
言葉を信じて来ては見たが、本当に苗が貰えるまでは安心出来ないというところか。
もし嘘だったら餓死確定の人もいたりするのだろう。
先ずは農民達に苗がある所を見せた、少し落ち着いたみたいだ。
そしてこれは救済の為なので返す必要は無いと告げるとボルテージは一気に上がった。
続けてこの米は神の米なので、神の作法に則って植えないと育たないと脅した。
「今から植え方を説明するので覚える様に。」
農民達の顔付きが真剣そのものだ、必ず覚えるぞという気概が伝わって来る。
人数が多すぎたので半分は見学だが、各1haの田んぼ毎に横1例に並んで田植えをしていく。
真っ直ぐに植えられるよう縦の線には糸が張ってある。
そして稲と稲の間は30cm、苗は1株3〜5本というのを叩き込んだ。
帰りには1人1本30cmの定規を渡す念の入れ様だ。
そして農民達は渡された苗を背負って帰って行った。
今回は米だったが、他にも広めたい作物は幾つもある。
広めた農作物が欲しければ買えばいいだけの話だ。
幸い金はガラス玉を売れば入って来る。
やっぱり作物を作らせるのが先だなと思った。
次は何がいいかな。
じゃがいも、薩摩芋、綿花、菜種あたりが欲しいな。
皆んなに相談してみよう。
お知らせ
大変申し訳御座いませんが、ストックも尽き仕事も忙しくなって来ましたのでしばらくお休みさせて頂きます。
いつも読んで下さる皆さんには本当に感謝です。
次に再開した時にもまた読んで頂けると嬉しいです。
それではまた。




