65.開眼
Side: 府谷恭平
昨日はほうとうで鍋パーティーをやった。
寒い季節は鍋が一番だ。
大林さんも気に入ったようで何杯もおかわりしていた。
さて、朝食後に早速、大林さんに博多のトラックターミナルの図面を見て貰った。
「これは城でござるか?」
「いえ、物流拠点。車が入れる蔵と言えば分かりますか?」
「全く、皆目検討も付きませぬ。」
流石に物流の概念から説明するのはちょっと手間だ、なので防衛面に絞ってアドバイスして貰うか。
「それではこれを城と見立てて意見をお願いします。」
「この部屋割りの図面だけではなんとも。もう少し分かり易い物はごさらんか?」
「それなら良いのがありますよ。」
ここで死村くんがトラックターミナルの模型を出してきた。
「ふむふむ、この城を攻めると見立てれば良いのでござるな。」
お。いきなり顔付きが変わった。
「先ず馬だしがござらんな。出入口は最も狙われ易いところ、ここに小さな砦を築き出入口を固めるべきでござろう。」
「馬だしとは何ですか?」
「出入口の前に作る曲輪の事にござる。」
要は入口前広場は掘りで囲めということか。
「あと壁に張り付く敵兵を横から攻撃する為に、城の四隅に張出櫓を設けるべきであろう。」
うん、確かに西洋の城でも張出櫓は基本だな取り入れよう。
「この城の水の手はどうなっているのでござるか?」
「屋上に貯水槽を付ける予定です。」
「それは水汲みが毎日大変であるな。」
横の川まで取水口を引いてポンプで汲み上げるので、そこら辺は大丈夫なんだけどね。
「厠はどうなっておるので?」
「ここの印が厠になっています。」
「長期の籠城戦に備えて棄てる場所を何処かに確保した方がいいでしょうな。」
「なら入口前広場を広めに取って菜園でも作りますか。」
たしかにコンポストの収集場所は必要だ、家庭菜園を併設しよう。
それからもいろいろと有益な意見が聞けた。
得意分野が築城というのは本当みたいだ。
「それにしても何故このように石で固めた城を?」
大林さんはコンクリートを石だと認識しているみたいだ、まあ間違ってはいない。
とりあえずは相手が納得しそうな理由を述べておくか。
「一つは火攻め対策ですね。燃えにくくする為です。もう一つは鉄砲ですね、狙撃されるのを防ぐ為です。」
「鉄砲ですか・・・、実は某、鉄砲を使った事が無くてよく分からんのでござるよ。」
えっ?鉄砲製造に関わっているのに、それが何か分からないで作ろうとしていたの?
うーん、ここは実際に体験して貰うか。
「それでは実際に鉄砲を使ってみますか?」
「おお、よろしいので?是非お願いしたい。」
という訳で射撃場まで案内して実際に撃って貰うことに。
射撃場には一般会員の先客が数人いた、射撃練習用の弾は無料配布しているからね。
そして、一般会員が撃っているのを見て大林さんが固まっている。
「これは凄い音ですな。そして、あんなに遠くまで届くとは思いもせなんだ。」
結構驚いているのでもっとビックリして貰おう。
「だいたいあそこ迄一遠矢(約100m)あります。的に胴丸を置いて撃ってみようと思います。」
丁度射撃練習をしていた小次郎くんがいたので的当てをお願いした。
小次郎くんは鉄砲隊の隊長で、いまや100mくらいなら確実に当てられる筈だ。
大林さんが興味深そうに見ている。
小次郎くんが撃った弾は見事に胴丸へ命中した。
そして、穴の空いた胴丸を見て大林さんが唸っていた。
「これ程のものとは。」
丁度、別のレーンが空いたので大林さんにも撃って貰った。
何発か撃って30m迄は当てる事が出来たみたいだ。
「何となく見えて来ましたぞ。鉄砲の長所と短所が。」
大林さんも結構鉄砲が気に入ったみたいで段々と饒舌になって来た。
短所は何かと聞くと、弾込めに時間が掛かること、狙って撃つには技量がいる事を挙げられた。
なので、1人4挺で補助を付けて間断なく撃ち続けている動画や、筑紫氏相手に200挺の一斉射撃で面制圧する動画を見せてあげた。
すると大林さんは一度絶叫をあげると、何処か一点を見つめて何かブツブツ言い始めた。
暫くして戻って来た大林さんは、何処か憑き物が落ちたかの様な穏やかな顔をしていた。
「いかがでした。鉄砲は?」
「我が身の未熟さが知れました。兵法者を名乗っていたのが恥ずかしい。」
なんかRPGなんかで呪縛が解けて仲間になるキャラのように清々しい目をしている。
「これからは鉄砲の数が戦の趨勢を決め申す。某の兵法も練り直しにござる。」
良かった、どうやら売り込みは成功したらしい。
これで沢山の鉄砲を買ってくれることだろう。
こうして大林さんは帰って行った。
大林さんが削った砲身の鉄砲はお土産として渡してあげた。
これで大内さんの説得、よろしく頼みますよ。




