64.見学
Side: 府谷恭平
センターと博多の往復便は、先導車のワゴン1台、トラック6台で編成される。
本当は別々に走らせた方が効率がいいのだが、通行手形が1つしか無いのと安全を考慮してこのようなキャラバンを組む事になった。
「な、なんとこれは?」
車が動き出すと大林さんがビックリしている。
やっぱり初見さんに車は不思議の塊に見えるのだろう。
「この荷駄隊は鉄砲で武装しているのでござるか?」
そう、この世界の常識では輸送隊が武装するのは珍しいらしい。
護衛は付けるくせに不思議だ。
「ええ、我々は鉄砲荷駄隊と呼んでいます。」
嘘だよーん。そんな呼び方していないがここは悪ノリしておこう。
「て、鉄砲荷駄隊・・・」
なんか衝撃を受けているみたいだが放っておこう。
島井さんの方は涼しい顔をしている。流石、博多の大商人だ。
二日市を過ぎるとコンクリートで舗装された道が見えてきた。
「あの白い道は何でごさる?」
「ああ、あれはコンクリートですよ。」
不思議そうに見ている『こんなもの見た事がない。』なんて呟いているし。
コンクリート舗装道路に入ると途端に揺れが無くなったのでスピードも上がる。
これにも大林さんは衝撃を受けたらしく『そうか、疾きこと風の如く・・・』と言った後ずっと黙ったままだ。
到着後、巨大な配送センターを見た時は、ムンクの叫びみたいなポーズをとっていた。
なかなか愛嬌のある人だ。
「着きましたよ。大林さん。ようこそ、天尊配送センターへ。」
「・・・・」
返事が無い、ちょっと休憩を入れた方が良さそうだ。
「それでは島井さん、準備が出来るまでフードコートでお待ち下さい。」
「ええ、ゆっくりさせて貰いますよ。」
とりあえず大林さんは島井さんに引き取って貰い、フードコートへ案内して貰った。
唐西さんと事前打合せのため兵器工房へ来た。
「鉄砲製造の見学ですか?」
「ええ、それで困った事が一つ有りまして。」
「それは何でしょう?」
「技術者を招聘したいみたいなんですよ。」
唐西さんも、えっ?それはって顔してる。
そうですよね、技術者と言ったら唐西さんのことになっちゃいますもんね。
「それは断れないんですか?」
ああ、明らかに嫌そうだ。
場所も期限も分からない長期出張になるかも知れませんからね。
「もちろん断るつもりです。なので協力をお願いします。」
「分かりました。でもどうやって?」
要は技術を教えてもらう為に先生となる人を招聘するのである。
なので大林さんに技術を覚えていって貰えば、わざわざ派遣する必要は無いよね。ということにする作戦だ。
「それで種子島モデルについてはオートメーション化がかなり進んだと伺ってますが?」
「ええ、この頃ではバイトのあゆちゃんでも作れるようになりました。」
「それはいい、8才の子供にも出来るところを見せて、大林さんにも同じ工程で鉄砲を1挺作って貰いましょう。」
「了解です。」
一応段取りが付いたので、フードコートへ大林さんを迎えに来た。
「この "じゃがばたー"なるものはとても美味いですな。」
「おでんに入っている大根も味が染みて実に美味い。」
大林さんは口一杯にじゃがバターを頬張って食べていた。
島井さんも鼻の頭を赤くしておでんで一杯やっている。
「気に入って頂いたようで何よりです。じゃがいもと大根は採れたてなんですよ。それはそうと準備が出来ました。見に行かれますか?」
「是非」
「是非にっ!」
ということで最初は金属加工所へ。責任者は八幡正徹さんだ。
「こんにちは、八幡さん。今日は見学に来ました、よろしくお願いします。」
「あ、お疲れ様です。見学ですね、伺ってますよ。」
八幡さんに大林さんと島井さんを紹介し、砲身鋳造の説明を行って貰う。
「要はこの電気炉で溶かした鉄を鋳型に流し込むだけですね。」
そう言って円柱の鋳型に溶かした鉄を流し込んでいく。
この鉄は炭素の含有量を調整して程よい強度にした物だ。
溶かした鉄に石灰石などを入れて作るらしい。
「穴は空いていないが良いのか?」
大林さんが当然の疑問を口にする。
そこで俺が1本の別の円柱を取り出す。
「これが同じ鋳型で作った円柱です。これを今から砲身に仕上げていきます。」
次に兵器工房へ案内する。
事前に見せたくないものはこの場からは撤去済みだ。
そして唐西さんに来客2人を紹介した後、砲身作成をお願いする。
「それでは唐西さん砲身への仕上げをお願いします。」
「わかりました。今回はこのバイトの子が作業を行います。それじゃ、あゆちゃんよろしく。」
「ご指名を受けましたあゆです。よろしくお願いします。」
お、今回はちゃんと言えたみたいだ。成長のあとが見られておじさんは嬉しいよ。
あゆは唐西さんから受け取った鉄の円柱を旋盤に取り付け、ポチッとボタンを押した。
すると旋盤がグルグル円柱を回転させながら外側を綺麗に整えた後、自動的に銃口を削って行った。
約30分で穴が開き終わると、ドリルの刃をタップに取替えて、またポチッとボタンを押した。
数分後、空いたネジ穴を見て大林さんが吠えた。
「うぉー、これでござる。これが見たかった。」
なんか満足して貰った様で良かった。と思っているとぐりんと此方を向いて来た。
「もう一つの!止め具の方も見せて下され!」
なんか興奮しながら言って来るのを宥めて、あゆに差し込む方のネジも作って貰った。
要はダイスを取り付け旋盤でゆっくり削るだけだ。
大林さんの方を見ると、何かワールドカップで優勝したような格好で喜んでいる。
彼を現実に引き戻し「大林さんもやってみます?」みたいに聞いたところ「是非」と言われたのでやって貰った。
途中、あゆから頭をペシペシ指導されながらも何とか一発で上手く作れたようだ。
「こんなに簡単に作れるとは思いもせなんだ。」
大林さんが感謝しきりに言って来る。
これで目標達成かなと思ったら大林さんがさらりと一言。
「でもこれってこの道具が無いと作れないんじゃ?」
あちゃー、やっぱり気付いちゃいましたか。まあ普通気付くよね。
「それでどうされますか?流石に道具はお譲り出来ませんが。」
うーむと大林さんが悩んでる、もう少し内情を探ってみるか。
「そもそも自前で作ろうとしていると思いますが、1挺いくらで作るお積もりですか?」
「今のところ1挺100貫が目標にござる。」
何だそれならウチから買えば済む話じゃ無いか。
「ウチなら1挺20貫でお売りする事が出来ますよ。」
「20貫でござるか!」
結構悩んでるみたいなのでちょっと追い込んでみる。
「もちろん、大内様以外のお客様にも1挺20貫で販売します。大内様が買わなければ、その分他所が鉄砲を揃える事になりますね。」
お、ちょっと同様してる。さらにトドメを刺そう。
「島井さん、あなたにも1挺20貫でお売りするとしたら、大内様が買う時はいくらになりますか?」
「そうですなぁ、その時の相場にもよりますが50貫は固いでしょうなぁ。」
「我々もチマチマ売り歩くのも面倒なので、島井さんに全部引き受けて貰うのも手ですよね。」
「これは有り難い。卸して頂ければ全て買い取りましょう。」
大林さんも意味が分かったらしく降参して来た。
「参りました。お屋形様を説得いたします故しばし猶予を。」
その日は鉄砲の話はここ迄で終わった。
島井さんは博多へ行く便に乗って帰って行った。
大林さんは今日はお泊まりだ、もう一つ仕事が残っている。
先ずは外部拠点の図面を見て貰おう。




