63.視察
Side: 大内義隆
「菅助(大林菅助)鉄砲は作れそうか?」
「それが鍛治師達が申すには、銃底部の止め具がどうしても作れぬと申しまして、直ぐには無理かと。」
「止め具とはどの様な物だ。」
「これにございます。」
ふーん、ってこれ螺子じゃん。こんなのが作れないの?て、あれ?螺子ってどうやって作るんだっけ?
「な、なるほど、確かにこれは難しそうじゃの。して何か策はあるか?」
「は、しからば。これを作った者に直接教えを乞えばよろしいかと。」
んー、まぁそうなるよね。
「よし!菅助(大林菅助)その方に申し付ける。この螺子が作れる技術者を連れて参れ。」
「ははー、必ずや。」
Side: 大林菅助
さて、主命を仰せつかったは良いが如何したものか?
鉄砲は博多の豪商島井次郎右衛門から買ったと聞いておる。
先ずはこの商人を訪ねてみるか。
「これ、菅助。」
「これは陶様(陶隆房)如何なさいました?」
「お屋形様はこのところ鉄砲が出来上がらぬ事をよく気にしておられる。そなた精進が少々足りぬのでは無いか?」
「は、懸命に努力はしているものの何分未知の物にございますれば如何ともし難く。」
「兵法者を名乗るのならば早々にかたをつけよ。」
去り行く陶様を見送りながら、新参の悲哀を感じてしまう己がいた。
いかんなこんな事を考えては。
このお役目を果たせばきっと武功を上げる機会も訪れよう。
武功さえ上げれば自ずと道は開ける筈だ。
今はお役目を果たす事だけを考えるとしよう。
Side: 府谷恭平
「気に入って頂けましたかな?」
「ありがとうございます。神屋さん。こんなに良い空家を譲って頂いて。」
博多に空家を都合して貰った。
湊にも近くて良い場所だ。
早速、お店を出す準備をしなくては。
先ずは掃除をして、いろいろ内装を整えていく。
ウチは硝子屋として店を開くため、屋根の上に太陽光パネルが乗っていてもおかしくは無い筈だ。
天高く聳えるアンテナも、宗教的な物としておけばそんなに突っ込まれる事もないだろう。
商品はビー玉だけだと目新しさが無いので、クリスタルガラスにレーザー彫刻で仏像を彫ったものを並べてみた。
ガラスの中に彫刻なんて他では出来ないので高く売れるだろう。
種類は奈良の大仏や阿修羅像、不動明王、涅槃大仏、ガネーシャなんかもある。
後は龍や鷲、虎、鯨なんかも忍ばせておく。
さらに奥にはアイドルやアニメのキャラクターのも用意してみる。
さらにビー玉を使ったアクセサリーをこの頃作り始めたのでこちらのコーナーも作った。
元々は安里川くんがあゆ達に作ってあげた玩具のペンダントや髪飾りだったが、もう少し年上の女子学生達に広まって各々が作るようになったものだ。
素材は商品に出せないビー玉を使っているので彼女達でも手に入るという訳だ。
出来の良いものは買い取って、こちらで売ることにした。
手鏡や櫛と併せて女性をターゲットにした感じだ。
眼鏡や望遠鏡、双眼鏡も扱う事にした。
眼鏡は決まった度数の物を何パターンか揃えた簡易な物だ。
専門の眼鏡屋みたいな対応は流石に出来ない。
それから硝子食器類も品数豊富だ。
江戸切子っぽいグラスや皿、水差しなどを主に置いてある。
あと何故か硝子関連と認識されているワインや一升瓶の酒なんかも並べていく。
こちらは冷蔵庫に入れてあるので温度管理もバッチリだ、味に違いが出るからね。
冷蔵庫を入れた関係でドリンク類も多数用意した。
夏になったら冷凍庫も準備してアイスやカキ氷なんかも売ってみるか。
そんな感じで作業をしていたら、島井さんがひょっこり現れた。
「府谷さんはいらっしゃるかな?」
「ああ、こんにちは島井さん。どうされました?」
「実は大内様からお客様が参られまして。」
「客ですか?」
やっと鉄砲の依頼が来たかな?
「お初にお目に掛かる、大内家臣大林と申す。」
「初めまして。天尊配送センターの所長をやっています、府谷です。」
「今日は鉄砲の事で相談が有りまして。」
お!やっぱり鉄砲か、販売出来るだけの量はちゃんと用意してますよ。
「はい、毎度あり。如何ほどご入用で?」
「いや、実は買うのでは無くて、、その、何というか、作り方を教えて欲しくて参ったのでござるよ。」
あれ?大内家では鉄砲を作る方へシフトしましたか。まあ、いいですけどね。
「こちらとしましても対価無しではお教えする訳には参りませんが。」
「そこを何とかこの通り!お願いするでござる。」
頭を下げてお願いされるとは驚いた。
今まで会った武士は意味もなく居丈高で、お前の物は俺の物的な人ばかりだった。
なので、こういう態度の武士は武辺さん以来かな。
結構好感度は高いが、さて、どうしたものか?
うーん、何とかしてあげたいが他の人への手前、やっぱり無料だと厳しいな。
「ちなみに貴方は何か得意なものがありますか?あれば教えて下さい。」
「よくぞ聞いて下された!諸国を渡り歩いて練り上げた兵法こそ我が最も得意とするところ。中でも築城に関しては誰にも引けは取り申さん!」
要は建築関係か。
今検討している外部施設の図面を見て貰って、この時代なりのアドバイスでもして貰おうか。
「分かりました。貴方の知見と引き換えに鉄砲の作り方をお教えしましょう。」
「いや、お願いしたいのは鍛治師の招聘なのだが?」
「ウチには鉄砲鍛治なんていませんよ。」
お、何かビックリした顔してる。
まあ、そこら辺はセンターで実際に見て話し合って貰おう。
「所長、センターへ帰る便が出ますけど乗って行きますか?」
呑家くんが呼びに来てくれたか丁度いい。
「それでは大林さん一緒に行きましょう。鉄砲の作成工程をお見せしますよ。」
「よ、よろしいので?」
「ええ、ここから一刻(2時間)ほど離れた場所になります。」
と車を停めてある資材置場まで大林さんと向かおうとすると、何故か島井さんもついて来る。
「どうしました?島井さん。」
「・・・ワシも・・・、見たい。」
「しょうがないなぁ、島井さんは。」
アハハハハハと笑いながら島井さんも一緒に車へ乗り込んだ。




