61.南部戦線
Side: 府谷恭平
昨日は早めにセンターへ帰還し皆んなには休んで貰った。
早ければ今日にでも出ることになるだろう。
朝日山城にはまだ動きは無い。
豊令さんの報告では今のところ、だいたい600人くらい集まっている感じだそうだ。
あとは三根郡の方でも兵を集めているみたいだ。
「所長、ちょっといいですかい?」
「何でしょう?」
「敵が集結する前に叩いてしまいませんか?」
「まあそうですよねぇ、明らかにこちらを攻める兵だと思いますし。やりますか。」
舟酒さんとの軽い朝の会話で侵攻が決まった。
編成は昨日と同じだが一つ問題が。
「途中の川はEVトラックだと渡れませんな。」
そうなのだ川にも橋は架かっているが、人が通る用の丸木橋程度だ。車だと渡れない。
「でも置いていくとなるとかなりの戦力ダウンになりますね。」
「となると、誘い込んで殲滅しませんか?」
舟酒さんがちょっと悪い顔になってる。
「でもどうやって誘います?言っておきますけど我々は戦闘の素人ですよ。あまり高度なテクニックは使えないと思いますが。」
「そこは少人数で攻撃を仕掛ければ追って来ると思いますよ。」
「そんなもんですかね。」
という事で遊撃隊が敵に近づいて、数発撃って敵の気を惹きつける作戦にした。
でもそのままだと大勢の敵に追いつかれる危険もあるので、ドローンで催涙爆弾を投下してから銃撃を仕掛けることになった。
遊撃隊以外は川の手前で伏兵として待機して貰う。
そして出発しようとした時に偵察班から連絡があった。
「三根郡で召集された兵が移動を開始しました。朝日山城へ合流すると思われます。」
「所長、急ぎませんと。」
「そうですね、急ぎましょう。」
ドローン隊と遊撃隊には作戦決行を指示し、残りを率いて出発した。
Side: 木村備前
殿より朝日山城での兵の召集を任されたが集まりが悪いのう。
まあ夏から戦続きで百姓達もまいっておろう、気持ちが分からんではない。
しかし、わしにも御役目というものがある。手は抜けん。
「これは木村殿。」
「おう立石殿かいかがされた。」
「殿より使いが来ました。あちらを出発したとのことです。」
「承った。こちらも迎える準備をせねばのう。」
と、ここで何か違和感を覚えた。
なんだろう?微かに聞こえそうで聞き逃してしまいそうになるこのブーンという音は?
次の瞬間、空から何かが降って来た、ように思う。
同時に凄い轟音と火に包まれ、そして。
「目が、、、目がぁーーーっ!」
その後は息をする事も出来なくなるくらい訳が分からなくなった。
これが百姓達が言っていた天罰というものだろうか?
しばらく転げ回っていると、パーン、パーンという音が鳴ったが何も考えられん。
周りでは「天罰じゃ」「天罰じゃ」という声がしきりに聞こえる。
立石殿の「静まれっ!静まらんかっ!」と言う声も聞こえだが、パーンという音を最後に聞こえなくなった。
そして暫くたって、ようやく目が見えて来たと思ったら。
・・・百姓達がいなくなっていた。
百姓共は皆逃げ帰ったらしい。
殿へ何と説明しよう。
Side: 府谷恭平
「すいません、敵の誘導に失敗しました。」
下平さんが謝って来る。
朝日山城に集まった兵達は、催涙爆弾だけで壊乱し逃げ散ったそうだ。
いくら銃撃で挑発しても誰も乗って来ず、そのうち誰もいなくなったので帰って来たとのこと。
「これは想定外ですな所長。」
「全くです。これからどうしましょう。」
恐らく推察するに、朝日氏が攻めて来た時の農民達で催涙爆弾のトラウマになった者が多かったのだろう。
二度目は対処されてしまう事もあれば、こういう別の方に転ぶこともあるのか。
全く勉強になる。
「とりあえず、あと一部隊残っています。こちらを誘導する作戦に切り替えますか。」
ドローンで確認したところ、800人ほどがこちらへ進軍しているようだ。
「了解しました。今度こそうまい具合に誘導して来ます。」
下平さんが済まなそうに言って出発して行った。
気にしないで下さい。あなたのせいじゃないですから。
Side: 下平兵
先程は失敗した。
ただ闇雲に撃ってもダメだな。
敵の指揮官を狙わないと挑発にならない。
遊撃隊は8人ずつ2隊に分けた。
1隊が攻撃し、もう1隊は後方で待機。
前方の隊が攻撃し、上手く釣れたら後方の隊と前後を交代しながら敵を誘導する作戦だ。
実際に上手く行くかは分からない。
「皆んな、馬に乗っている指揮官を狙って行こう。その方が挑発に乗って来ると思う。」
皆んなが無言で頷く。
安里川さんだけが舌舐めずりしながら変な声で笑っている。怖い。
無線で敵のおおよその位置を聞きながら索敵を行う。
ここら辺だとスマホが使え無くてドローンの映像が見れない、不便だ。
遠くにそれらしい集団を見つけたので配置に着く。
敵からは見えにくいように草むらへ伏せて待つことしばし。
先頭が射程距離へ近づいて来たので弓を発射した。
他の皆んなも次々に発砲する。
敵がこちらに気付いたようだ、よし逃げよう。
皆んなに合図を出して一斉に退却する、
距離も100mは離れているし、電動バイクなので先ず追いつかれることも無いと思うが、初めての経験なので心臓がドキドキしている。
無事、後方の部隊の後ろに回った。
双眼鏡で確認すると追っては来ているようだ。
後方の隊と交代し、自分達は更に後方500mくらいの場所にまた兵を伏せて待つか。
これをあと何回繰り返せばいいんだろう、結構疲れる。
Side: 府谷恭平
ドローンの映像で戦況は確認出来ていたが、無事、遊撃隊が敵を誘導して来てくれたようだ。
あまりにも時間が掛かったので、トラックが渡れるくらいの簡易な橋を架けてしまった。
初めからこうすればよかった。
まあ、これで追撃時に連射弓搭載のEVトラックが使えるのは大きい。
他の鉄砲隊や白兵部隊も一応自転車で来ている。
追撃時の大きな助けになるだろう。
敵の隊列は長く伸びきっておそらく2kmくらいになるんじゃないだろうか?
とりあえず先頭の100人ほどを連れて来てくれた。
遊撃隊には、伏せている自分達を通り過ぎてさらに後方へ逃げて貰う。
敵が鉄砲の射程に充分入ったら一斉射撃を行う。
よーく引き付けて。
、、、来たっ!
「撃てっ!」
鉄砲隊200人の斉射で物凄い轟音が響き渡る。
EVトラックも擬装のカバーを外し川へりに姿を表して弓を射掛ける。
とにかく撃ち続けた。
何というかあっという間に100人ほどの敵兵は壊滅した。
あまりにも早く終わってしまったので、引き込んだ人数が少なかったかなと思った。
舟酒さんの顔をみたら『もう少し引き込んだ方が良かったね』と書いてあった。
「とりあえず追撃しますか?」
「そうですな。」
それから追撃に移った。
EVトラックは主要道路しか通れないので真っ直ぐ進み、その後を白兵部隊が続く。
鉄砲隊は脇から攻撃出来るよう、左右に一本づつ道をずらして貰う。
道が無い場合は畦道を進んで貰った。
これは勿論、ドローンで敵の配置が分かっているからこそ出来る事だ。
伏兵がいない事が確認出来ているので、一方的に攻撃出来ると思う。
遊撃隊はさらに別の道を大回りして敵の後方を遮断して貰う。
人使いが荒くて申し訳ない。
まあ後は消化試合だった。
敵に出会って弓や鉄砲を撃ちこむと敵は面白いように逃げていった。
後で分かった事だが、最初の100人に敵の総大将がいたらしい。
なので後ろの方には出兵に消極的な国人達しかいなくて、負け戦らしいと判断すると早々に退却してしまった。
しばらく追撃して、攻撃して来る敵部隊がいなくなったのを確認してから帰投した。
今回もなんとか勝てたようで良かった。




