52.公衆衛生
Side: 府谷恭平
門前町にはある問題がある。
街中排便問題だ。
やはりというか元難民の人達はアウトドア生活が長かったせいか、今でもオープン派の人がちょくちょくいる。
移民を受け入れる際に、排泄はトイレで行うことを十分説明した筈なんだが。
「死村くん、どうしたらいいと思う?」
「なんで僕に・・・、まあ、いいですけど。」
死村くんは街中監視カメラの動画をチェックし始め、ある決定的なシーンで動画を止めた。
「このシーンの動画パターンがアラート対象として検知されるように設定します。顔認証の画像解析で犯人を特定出来ますので、後は所長の方で何とかして下さい。」
「何とかと言ってもどうすれば?」
「海外ではペット犬の野外排泄問題を解決するのに、ブツを飼い主まで宅配したそうですよ。」
そんなデリバリーを自分が受け取る事を想像すると、確かにショックがデカい。
効果的かもしれないと思った。
「ただ此方の常識がよく分からないので、他に何らかの明確なペナルティを与えた方がいいかもしれません。」
確かに街中で排泄なんて、何かのプレイじゃないと自分の常識ではやらないと思う。
しかし、常識が違うと行動も変わってくる。
なので死村くんが言うことももっともだと思った。
「分かった。その方針で行こう。ペナルティは1日サービス停止にしよう。」
それからトイレ以外での排泄は、ペナルティとして1日破門にする旨を皆に周知したが、問題の行動は無くならなかった。
Side: とある対象者
コンコン。
ん、扉を叩く音がする。誰だろう。
「はい、おや?あゆちゃん?どうしたんだい?」
「宅便デリバリーです。」
なんだろう?と渡された箱を開けると。
「うわ!@#&☆*%」
「神様から伝言です。おじさんはそれをトイレでしなかった罪により、今日一日破門になります。」
俺が固まっていると、あゆちゃんはそう告げて去って行った。
最初はよく分からなかったが、食堂に行っても、大浴場に行っても入れて貰えなかったし、屋台での買い物も出来なかった。
本当に破門されたようだ。
俺は神に祈った。
「神様、もうトイレ以外ではしないのでお許し下さい。野外で排泄するのがこんなに罪深い事だとは思わなかったんです。」
明くる日、俺の祈りが通じたのか破門は解けていた。
それからの俺は生まれ変わったようにトイレで用を足すようになった。
Side: 府谷恭平
宅便デリバリーは効果があったみたいで、あれからパッタリと街中でそれを見ることは無くなった。
やはり綺麗な街はいい、歩いてて楽しくなる。
今日俺は図書館に向かっている。
門前町の識字率を上げる為の施設だ。
幼年学校へ通えない大人達への識字率対策として、先ずは映画館を作った。
もちろん無料だ。
ここでは【天尊動画】の作品を上映するだけだが、娯楽が少ないせいで多くの人に人気となった。
一応これらの話はフィクション(神の国の話)であると断りを入れてあるが理解して貰えただろうか?
そして図書館を作ったことにより、文字に興味がある人たちに学べる環境を提示した。
元々彼らは入社試験を受けに来たはずなので、50音くらいはマスターして欲しい。
「いらっしゃいませ。」
図書館の内装は某有名コーヒーチェーン店をモチーフにしてある。
コーヒーショップが入っているので、コーヒー片手に本が読める環境だ。
本の貸し出しは受付カウンターで指紋認証を行う、勿論こちらも無料だ。
本はタブレットで【天尊書籍】のコンテンツが読み放題だ。
俺は注文したコーヒーを受け取ると、半分寝そべれる程ゆったりしたソファで読書を始める。
このまったりとした一時に心が癒される。
ひとしきり本を読んだ後、周りを見渡すとやはり社員が多いな。
一般会員だとまだ文字が読める人がほとんどいないので仕方ないことなのだが。
そんな事を考えていたら縫野先生に話しかけられた。
「もしかしたら梅毒患者がいるかもしれないわ。一度全員を検査した方がいいと思うの。」
なんですとー!
なんでも、気になるアザがある一般会員を縫野先生が見かけたのがきっかけだったそうだ。
「感染症なので手遅れになる前に対処した方がいいわね。」
「検査って何をすれば良いんですか?」
「確かセンターに検査キットがあったので、それを使えば検査出来るわ。」
そして検査した結果、以外と患者が多い事が判明した。
しかも社員にもいるらしい。
「ちょっと困ったわねぇ。治療薬が足りないわ。」
「治療薬ですか?天尊サイトに有りませんか?」
「ペニシリンは天尊サイトでは扱ってないのよ。」
「ペニシリンですか。」
「医務室には数人分はあるので、重症者には優先して投与すべきだと思うの。」
「はい。足りない分は作れたりしないのですか?」
「おそらく作れるはずね。材料はミカンに生えた青カビよ。ミカンってまだあったかしら?」
俺は大急ぎで調理班の元へ行き、ミカンがあることを確認した。
それも青カビ塗れの腐ったミカンが。
「すいません、ミカンをこんなに腐らせて。」
馬猪さんがしきりに謝ってくる。
今回に関してはグッジョブだ、深くは追求しない。
「縫野先生、青カビミカンは有りました。他に何が必要ですか?」
「いろいろあるけど、先ずは手伝ってくれる人が欲しいわね。」
「人か、お手伝いと言えば彼女達しか。」
「所長。何を考えているんですか!何でもかんでもあゆちゃん達に頼まないで下さい。」
呑家くんに怒られた。
仕方ない。今回は梅毒にかかった社員達に手伝わせよう。
それからお手伝いの社員達は、ひたすら青カビを培養してその量を増やしていった。
縫野先生が『ここから先はあまり詳しく無いんだけど。』と言った時はちょっと焦ったけど、天尊の収集データで検索したら、ちゃんと作り方が載ってた。
ふむふむ。要はこの大量の青カビ溶液を活性炭に吸着させ、酸性溶液で洗い流して精製するということか。
「とりあえず出来たものを検証してみるわね。」
縫野先生は、予め患者の膿から採取したブドウ球菌をなすりつけた寒天培地に、少しずつ出来た液体を垂らしていった。
「蓋をして数日待てば結果が分かるわ。」
そして待つこと数日。
「成功よ。」
どうやら成功したらしい。
この後、診断で陽性だった人達に投与していった。
重症の人には治療薬だと言うと涙を流して喜んでいたが、初期症状の人はあまり関心が無さそうだった。
人は痛い目に会わなければ自覚するのは難しいのだろう。
それでもお手伝いの社員達は大喜びだった。
このまま医療班を立ち上げて、ペニシリンを大量生産してもらうのもアリかもしれない。




