46.狩猟班
Side: 府谷恭平
「いやいやいや、無理無理。まだ社員寮も出来ていないのに。他に回す余裕なんて無いですよ。」
「私も同感です。交易も大事ですけど今は社員寮が最優先だと思います。」
全体集会で峠に道を通すことを提案したが見事に撃沈した。
まさに完敗だ。
一人の賛同者も得られなかった。
社員寮が大事なのは分かる。
俺だって早くマイスィートホームに住みたい。
しかし、島井さんがちまちま運んで来る商品の量には少し不満もある。
なので太宰府まで行って取引がしたい。
いや、いっそのこと博多まで車で乗り付けたい。
あの峠さえ乗り越えれば、センター搬出口で眠っている多くのトラックに活躍の場を与えられるというのに。
俺は傷心を癒す為、門前町の広場に向かった。
ここもかなり賑わって来たなぁ。
広場には多くの屋台が出ていた。
串焼き、焼き魚、お団子、カキ氷、うどん、たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、回転焼など、ほとんどが食べ物屋だ。
そんな中、俺は一つの屋台に向かう。
ラーメン屋だ。
「おやじ、カタ一つ。」
「へい、カタ一丁。」
彼は松原さんと言って、ラーメン屋を開く為に配送の仕事を頑張っていたおじさんだ。
自分が納得出来る味を出す為、出店に時間が掛かっていたそうだ。
ゴトッと出来立てのラーメンが置かれる。
おもむろに細麺を啜る!美味い。
やっぱり豚骨だなぁと思って食べていたら、松原さんの浮かない顔が目に入った。
「浮かない顔ですね。どうしました?」
「ああ、顔に出てましたか。すいません。いえね、豚骨の事を考えていたんですよ。」
「豚骨ですか?」
「はい、材料が手に入らなくて。」
なるほど、当センターに豚はいない。
今ある豚骨も冷凍食材からどうにか捻出したものなんだろう。
ということは現地の物で賄わなければならない。
「猪とかで代用出来ませんか?」
「それが猪も手に入らなくて。」
しまった。狩猟班を立ち上げる事をすっかり忘れていた。
何てこったい。直ぐに下平さんへ連絡だ。
「大丈夫です。松原さん。猪なら何とかしましょう。」
「本当ですか所長!よろしくお願いします。」
そして下平さんに狩猟班立ち上げを打診したところ。
「狩猟班は良いのですが、狩猟経験者が私しかいませんよ。」
下平さんは、ビジネスチャットで狩猟仲間を募集していたらしい。
しかし結果は誰一人反応が無かったとのこと。
「一般会員の方はどうでした?」
「聞いた感じ猟師だった人はいないみたいですね。」
それもそうか、猟が出来ればそもそも難民にならないし。
「仕方ないですね。最初は一般会員から見習いを数名選んでやりますか?」
「そうですね。」
「それで下平さん、狩猟班に対して一つお願いが。」
「なんでしょう。」
「狩猟場を北の峠の方まで広げて欲しいのですが。」
そう、あの辺りは放っておくと、また山賊なんかが溜まってしまうかもしれない。
定期的な見廻りが必要だと感じた。
「うーん、ちょっと遠いですね。取った獲物を抱えてとなると距離があります。何か小屋みたいな拠点が欲しいですね。」
なるほど確かにそうだ、俺だって猪なんかを抱えて4kmも歩きたくない。
「分かりました。使えそうな物が無いか調べてみます。」
という事で選んだのがコレだ。
シャッターガレージ。
中は車2台が停められる広さになっている。
明り取り用の小さな窓が上の方に2箇所ある。
床はコンクリートだけ、天井にはライトが灯してあるだけの空間だ。
「これはいいですね。」
下平さんも分かってくれたらしい。
ガレージは男のロマンだ。
きっと、この何も無い空間にはいろんな物が見えている事だろう。
「トラックが入れる場所がここ迄だったので、焼野原になったとこからは500mほど手前になります。」
「丁度、峠の入口くらいになるのですね。」
「はい、裏手に川が流れているので水も使えます。なので給水機を取り付ける予定です。」
「それは有り難いですね。」
「あと通信設備を整えてあります。スマホが使えますよ。」
「了解です。」
♢ ♢ ♢
それから狩猟で得た猪や鹿、雉なんかが供給される様になった。
食糧問題も少しは改善したといえよう。
「それにしても下平さん。肉の供給量が多くないですか?」
「ええ、実は。」
なんと山賊達の生き残りに山で襲われたらしい。
返り討ちにしたら、配下にして欲しいと言われたので狩猟の手伝いをさせているとのこと。
「彼らも好きで人を襲っていた訳ではないみたいですね。ちゃんと食べられるなら大人しいもんですよ。」
米や酒などと喜んで獲物を交換してくれるらしい。
彼らも伊達に山で生き延びていないので狩猟は結構な腕前だそうだ。
「とりあえず、元山賊達には人を襲わないように徹底させて下さい。」
「分かりました。」
山賊問題も解決したみたいだし、道路問題も早く解決出来ればいいな。




