41.天尊教
Side: 府谷恭平
センター東側柵内の100m × 300mに新市街地を作る事にした。
名前はセンター正門の前に作るので『門前町』だ。
だがその前に彼ら、入学希望というより、ただ助けを求めて集まってきた人達に言うべき事がある。
府谷は告げる。ちょっと法皇様っぽい衣装を着て。
「お前たちよく聞け!神から啓示があった。お前達を助けよと。よってこの地にお前達を住まわせる為の建物を建てる事にした。」
ここで区切って、一旦周りの様子を見る。
自分達が助けて貰えそうだと理解したのだろう、こちらの方を食い入るように見ている。
「神は仰られた、我を信じ尽くす者には恩恵を与えよと。なのでお前達に問いたい、お前たちは神を信じるか?信じる者には入信を許す。信じぬ者は即刻立ち去れ!」
ここで少し騒つくが、立ち去る者は1人もいない。
もとより行く当てが無くてここに集まって来た人々だ。
「皆を信者として迎え入れる。ようこそ『天尊教』へ。」
それから彼らを一般会員としてアカウント登録して行った。
認証は指紋と顔での認証とし、名前と年齢、性別、家族構成を登録して行く。
まぁ年齢なんてハッキリ分からないから大体だな。
今後、天尊で受けられるサービスは主に指紋認証で行い、顔認証は犯罪行為の摘発に使用する予定だ。
サービスの最たるものは食事だ、今は炊き出しだが食堂が出来ればそちらへ移行する。
アカウントが無いと使えない施設は食堂、大浴場、売店などほぼ全ての予定。
アカウントの失効は生活の全てを失う仕組みだ。
それから一般会員に対しては、天尊ポイントは神への功績が数値で表されると教え、功徳(功績)を積めば、神から恩恵品が下げ渡されることも告げた。
功徳は天尊教への貢献度によりより多く付与される。
つまり、仕事を多く手伝えばポイントも増える仕組みだ。(まんま給料だよね。)
ポイント数の確認は中央広場に礼拝所を設け、ATMみたいな機械で指紋認証すれば画面に表示される。
死村くんが悪ノリして、沢山ポイントが増えた人には『よく頑張った、これからも精進するが良い。』や、ポイント増が無い人には『もっと功徳を積むように。』のメッセージを出すようにしてた。
初めは文字が読めなくて意味が分からなかった人も、読めるようになると理解して、神はいつも自分の事を見守ってくれていると感じるようになり、徐々に信仰心も上がっていったように思われる。
工事は順調に進んだ。
大半の作業が木材の切り出しや資材の運搬など単純なものが多く、なんのスキルも無い人でも十分対応出来たからだ。
センター南側と西側の柵内にある木は全て伐採された。
西側の空地に製材所を作りどんどん木材に加工していく。
加工された木材を使って、一般会員達の住居などを建てていく。
本当は乾燥させた方がいいのだろうがそこは無視した。
栗井場さんは渋い顔をしていた。
門前町の大まかな作りは3ブロックに分かれる。
中央のブロックには広場を設け、いろいろなイベントに使う予定だ。
広場の南側ブロックは住民達の居住区、広場の北側ブロックは商業区にした。
大浴場や食堂は居住区、売店などの商業施設は商業区になる。
水回りに付いては、配送センターから引いて来るので問題ないのだが、下水に関しては作る余裕も無いので、雨水などは排水溝を設けて川に流すようにした。
問題はトイレだ、これはセンターにコンポストトイレがあったので、これで対処することにした。
最初に作ったのは大浴場だった。
住民の衛生面からもっとも優先すべきと思ったからだ。
併せて食堂も併設された、主に女性たちが働くようになる。
そして一般会員用の住居『長屋』の建設が始まる。
長屋は5部屋が並ぶ構造で、向かい合って10部屋、これが2階建の合計20部屋で1棟となる。
各階にはトイレが4つ設置してあり共同となる。
部屋のレイアウトは10畳の板張り床と土間、流台だけだ。
ガラス窓があり、光の入り具合は悪くない。
内装はとりあえず被災者用に準備していたものから幾つか見繕って配布しようと思う。
ふとん代わりに断熱床マットや毛布、シーツ、枕の類だ。
この長屋が10棟建った頃合いで、住民の入居が始まる。
1家族に付き1部屋の割り当てだ、中には8人になる家族も居たが1部屋で変わらない。
特に不満も上がらなかったが。
部屋に電気は無いが、長屋の廊下はLEDライトで照らされている。
これは屋外も一緒で街灯が整備されていた。
理由は監視カメラを付けているからで、スパイ対策がメインだが、犯罪行為を行なったものを見せしめで吊し上げる為の証拠集めにも使う。
売店が出来た事により、功徳に対する恩恵品の下賜が始まった。
システムは幼年学校の駄菓子屋と同じで、残高以上の買い物が出来ないようになっている。
一般会員は、カード会員のように信用貸はされない。
残高がマイナスの状態で売店を出ようとすると『破門』にするぞと警告される。
無理矢理出れば『破門』となり、アカウントが停止され天尊のサービスは一切受けられなくなる。
破門者は広場で告知され、長期間続くと追放される。(破門を解くには所長の許しが必要。)
恩恵品は酒や駄菓子、せんべい等、無人商店街の1階に置いてある商品が多いが日用雑貨や日常系の衣服なんかもある。
また靴も人気であるが買える人はまだ少ないみたいだ。
恩恵品効果により、より熱心に作業を手伝う人が増えた。




