40.門前町
S ide: 府谷恭平
モニターに20人分のアイコンが並ぶ、ビジネスチャットによるオンライン会議だ。
本当は88人参加しているはずだが、スクロールしないと残りの人は見えない。
「増えすぎた入学希望者が発端ではあるが、新市街地を作りたいと思っている。皆んなの意見が聞きたい。」
「良いですかい所長。ウチは孤児院じゃないんですぜ。そもそも作る必要はあるんですか?」
トップバッターは舟酒さんだ。
どストレートな正論を言ってくる。
「俺はあると思っている。理由は3つある、1つ目は労働力の確保だ。今後を考えるとさらに開発する必要がある。今回多数の応募者があったことはチャンスだと思う。」
「まあ、それは分からないでも無いですがね。」
「2つ目は用地確保だ、今後を見据えて作らなければならない施設が多々あるが、センター内にはそのスペースがない。たとえば大浴場やイベントホール、飲食街、諸々の商業施設や工業施設だ。」
「確かに今の風呂じゃあこの人数を賄うのは無理ですが、人数を増やさなければいい問題なのでは?」
「そして3つ目だが…、俺は普通の家に住みたい!もうカプセルホテルみたいな部屋は嫌なんだ。普通に風呂トイレのある自分がくつろげる家で暮らしたい!」
目に血の涙を浮かべて訴えた。
これには皆んな真っ先に賛成してくれた。
この後、何を作るかで多少揉めはしたが、新市街地を作ることは全会一致で可決した。
「所長、調理班より今日の炊き出しは終わったとの連絡が来ました。」
呑家くんが報告を上げてきた。
「そうか、先ずお腹を満たして貰わないとな、倒れそうな顔の人もいっぱいいたしね。」
「それでこれからどうします?」
「とりあえずは、柵の外に難民キャンプよろしくテント村を作って、そこで寝泊まりしてもらおう。それから、成人男性は木材の切り出しや建物の建設を手伝って貰う。」
「女性や子供はどうしますか?」
「女性は調理や掃除の手伝い、適性がある人は建設に伴う軽作業に携わって貰おうかな。」
「子供は学校ですか?」
「基本そう思っているけど、家族で来ている人もいるしね。親と違う生活をさせるのはもう少し後がいいかな。新市街地が出来るまでは雑用を手伝って貰おうか。」
それよりも、もっと根本的なことを決めないと。
「彼らの扱いをどうするかだよなぁ、子供なら教育でどうにかなると思ってたけど、此方の常識が染み込んでいる大人は教育でどうこうは無理だよね。」
「どういう事です?所長。」
「侍が偉いと無条件に信じてる。なので、選択を迫られた場合必ず此方を裏切る。」
例えるならイスラム圏で社員を雇ったはいいが『今日、ジハードなんで会社休みます。』なんて感じだろうか。常識が合わないと必ず上手くいかない。
「ああ、確かにそうでしょうね。」
「そこをクリアしないと危なくて使えないんだよね。」
「それじゃ、こちらの常識に私達が合わせてあげるのはどうですか?」
「どういうこと?」
「武辺さん情報では、神仏は此方にもいるみたいだったので、宗教的な縛りを掛けたらどうですか?」
「なるほど、侍より上の権威を使うのか。」
なんかいけそうな気がしてきた。
「それより所長、新市街地って言ってますけど、正式な名前は何にします?」
「うーん、門の前につくる町だから『門前町』っていうのはどう?」




