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3.入社式

Side: 園田満

天尊配送センターの搬出口では出入りの配送業者が荷物の受け取りを行なっていた。

園田満もその1人だ、待合室で知り合いの唐西甲夫に声を掛けられる。

「園田さん、今日は鹿児島迄でしたっけ、相変わらずハードですよね。」

「ああ、唐西さん、こんにちは、今日はどちらまで?」

「私は小倉の方ですね、それよりさっき大きな地震がありませんでした?」

「ありましたね、でも配送センターも普通に動いてますし大丈夫なんでは?」

「それが、事業所に連絡したところ繋がらなかったんですよ。園田さんの方は繋がりますか?」

「気になりますね、ちょっと連絡してみますね…」

と事業所に連絡を入れてみるが繋がらない。

「どうでした?」

「ウチも繋がらないみたいです。地震の件を配送センターに聞いてみますか。」


Side: 府谷恭平

ガチャとドアを開ける音がして、センター管理室に若い女性が入って来る。

「所長ぉー、配送業者の方から地震についての問い合わせが上がってますけどぉ。」

「あぁ、安里川くんか、いいところに来てくれた、ちょっと地震の事で話があってね、センター内にいる業者の方をエントランスに集めて欲しいんだ。」

「分かりましたぁ、他の社員の方はいいんですか?」

「社員にはビジネスチャットで集まるように流してあるよ、入ってなかった?」

「あ、えへっ、見てませんでしたぁ。業者さんに伝えて来ますね。」タタタッと安里川くんが駆けて行く、相変わらず逃げ足は素早い。

「ふぅ、準備も出来たしそろそろ私も行くとするか。」


エントランスは割と大きめで100人が余裕で入れる広さだ。

そして正面の目立つ位置には大きめのモニタがあり、そこには

「地震発生後に通信回線が繋がらない件について説明を行います。」

と表示されていた。


「皆さん、所長の府谷です。集まって頂いてありがとうございます。」

「アンタが所長か、それにしてもどうなっているんだ、今の状況は?」

「えーと、あなたは?」

「旧館取り壊し作業で来た栗井場だ、現場監督をやっている。」

「それでは栗井場さん、皆さん、説明の前にこの映像を見てください。ドローンで撮った外の風景です。」


センターから上空に上がっていく映像が映るがセンターの周りが明らかにおかしい、まるでカット&ペーストしたみたいに道路が無くなって、一面の緑が広がっている。

「これはっ!いやセンターが有るのは分かるがいつの映像だ?」

「今しがた撮影したものです。街も道路も無いので明らかにセンター周辺の環境が変わっています、地震の影響で崩壊したにしては長閑な田園風景が広がっています。」

「こんなの信じられるか!」

「そう思われるのも仕方ないと思います、それならばご自分の目で確かめて下さい、外に出れば直ぐに確かめられます。」


「これって異世界転移ですか?」

誰かの声が上がる。

「いえ、筑後川と脊振山を確認したので場所は変わってないと推察します。」

「すいません、園田と申します、質問いいですか?」

「どうぞ園田さん。」

「通信が繋がらない理由は理解しました、周りの環境が変わったからということでしょうか。それで私達をここに集めた理由はそれだけですか?」


「先ず一つ目は、帰宅困難なこの状況を震災と認定しました。よって皆さんを被災者として受け入れる用意があります。それから、二つ目ですが先にこの映像をご覧下さい。」

ちょっと遠目ではあるが刀や槍を持った無数の人々が殺し合いをしている映像が流れる。

「これも先ほど撮影した映像です、場所は方角からして吉野ヶ里あたりでしょうか。」

「こっから20kmも離れてないんじゃね?」誰かが呟く。

「話しを戻します、二つ目は協力要請です。被災者として救助を待つというのも一つの手ですが、あまりにも環境が変わりすぎて救助が来ない可能性が高いと考えます、なので、救助を待つのではなく、我々のコミュニティに加わって欲しいと思います。」


「あのー、いいですか?」

「はい、どうぞ。」

「唐西です、あれって合戦ですよね。ということはここは戦国時代かなんかでは?」

「詳しくは私にもわかりません、ですが、ああゆう武装集団がいるということは自衛の努力も必要になると思います。」

「そうですか!そうですよね!」

府谷は思う、なんでこの人嬉しそうなんだろう。


「いいかい所長、被災者と協力者では待遇にどんな違いが出るんだ。」

「はい、栗井場さん、被災者には規定で定められた被災者支援を行います、規定で定められた避難場所にて救助を待って頂くことになります。」

「協力者の方は?」

「衣食住全て足りていません、足りないなら作る、仕事しろということです。相互補助の共同組合と考えて頂ければと思います。」

「働くのは良いがタダ働きは好きじゃねぇ、その辺の不公平感はどうするんだい。」


「先ず我が社へ入社して頂きます、社員には住居と食事を保障します、また天尊アカウントを登録して貰い、天尊ポイントで給料を支払います、スマホで天尊のサイトから買い物ができます。ポイントの月額基本給は一律ですが、役職や能力により上乗せします。」

「ネットは繋がらないいんじゃ?」と誰かがポツリ。

「センターの敷地内なら社内ネットワークが使えます、なのでWi-Fiで天尊サイトにアクセス可能です。」

「月の基本給はいくらですか?」

こちらも誰か分からないが食い付いて来てるのはいい傾向だ。

「10万円です。役職と能力給はコミュニティ内で決めて行きたいと思います。」


「住居と食事って当てはあるのかい?」

当然、気になりますよね、栗井場さん。

「住居については旧館を使おうかと思います、幸い取り壊し前なので電気、空調、水回りが使えます、但し電気を供給する必要があります。なので太陽光パネル等の発電設備の設置が必要です。」

「それは俺たちの出番だな。」

「はい、是非とも栗井場さん達にお願いしたいです。後、水も断水しているので川に給水機の設置をお願いします。」

建設会社の面々が力強く頷く。


「それから食事についてですが、保存が効かない生鮮食品を所長権限で放出します。これらの材料を使って食事を作る調理担当が必要です。」

「あの、馬猪といいます、お料理得意です。」

と女性の宅配業者が控えめに手を上げる。

「ありがとうございます、馬猪さん、よろしくお願いします。それから、生鮮食品で冷凍保存用に加工する為の人手も必要です。時間との勝負な面もあります、皆さん協力して頂けないでしょうか?」

ある者は考え込む感じで、ある者は納得した表情で少し自分に言い聞かせた後に賛意を示して来た。

人数を確認したところ、社員16人、配送業者48人、建設会社24人の合計88人だった。

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