21.化学班
Side: 府谷恭平
「大苺くんは確か、大学時代の研究テーマがハーバーボッシュ法だったよね。」
「正確には触媒の方ですけどね。それが何か?」
「無煙火薬を作りたいんだけど、作れる?」
「まぁ、材料が揃っていれば作れますが、作るんですか?」
「先ずはセンター内の物資で作れないかな?」
「材料は硝酸と硫酸と綿なので、多分出来ますね。」
それから、兵器班の唐西さんを呼んで、大苺くんに無煙火薬を作って貰った。
「硝酸 4に対し、硫酸 6を混ぜます。発熱しますのでビーカーは水で冷やしながらゆっくりかき混ぜます。これを脱脂綿に吸わせれば出来上がりです。」
試しに出来た脱脂綿を少しちぎり、シャーレの上で火を付けると一瞬でボッ!と燃えて無くなった。
唐西さんは素晴らしいと感動しているようだ。
「問題はここからだな、硝酸も硫酸もそう大量にあるわけじゃない。外部から調達した材料で作らないといけないが。そうなると何が必要になるかな?大苺くん。」
「硫黄ですね、それと石炭ですか。」
「え!そんなもんで出来るの?」
「ええ、先ず硫酸ですが硫黄を燃やした物に触媒の酸化バナジウムを使って元になる気体を作ります、この気体を水に溶かせば硫酸です。」
「ふむふむ」
「次に硝酸を作る為には先ずアンモニアを作る必要があり、それには石炭を使います。ハーバーボッシュ法でアンモニアを生成し、白金触媒で硝酸を作ります。」
「硫酸は比較的簡単に出来そうだね。因みに酸化バナジウムというのは?」
「センターにある物で作れますし、触媒なので減ることもありません。」
「やはり問題はハーバーボッシュ法か。400気圧だっけ、凄い装置を作らないとないいけないんだろ。」
「それについてなんですが、10気圧でもアンモニア合成が可能な触媒があります。ルテニウムを基にしたものなんですが。」
「えっ!ということは簡単に作れちゃう?」
「ええ割と。効率の面で多少問題はありますが、アンモニアを生成することは可能です。」
「因みにその触媒は作れるの?」
「おそらく作れます、確かルテニウムは万年筆のペン先とかで使っているはずなので。」
唐西さんと顔を見合わせて、"いけるね"、"いけるね"と頷き合う。
「それじゃ大苺くん、正式に化学班を立ち上げて欲しい。目的は無煙火薬の生産だ。先ずは実験室レベルでいいので生産設備を整えて貰えるかな?」
「えー!センター業務はどうなるんですか?」
「そちらも兼務で。」
「所長、結構ブラックですね。」
「そのかわり、化学班自体にも予算が付くから片手間に好きな研究をするのは構わないよ。それに化学班の研究室として会議室を1つ進呈しよう、装置の製造や運用に人が必要なら化学班のメンバーとして集めてもいいし。」
「むむむ、職能給も付けて貰えるんですよね。」
「もちろん。」
「それならいいでしょう、お受けします。」
なんとか大苺くんの同意を得られたので、次の課題について考える。
「それでは硫黄と石炭の調達先を探さないとだなぁ。あと綿もどうするか。」
「当てはあるんですか?」唐西さんが聞いてくる。
「とりあえず武辺さんに相談ですかね。他に知り合いも居ないし。」
Side: 大苺奈那
無煙火薬を作れと言われました。
そんな物は材料さえあれば誰でも作れるのでどうでもいいですが、化学班立ち上げに伴い予算が付くそうです。
部屋も会議室が貰えます、これは結構大きいです。
正直、今のカーテンで仕切られた部屋だといまいちプライベート感が無いですし、お給料も少ないので大したものも買えません。
今から部屋のレイアウトを考えるのが楽しみです。
先ず冷蔵庫を買いましょう、好きなワインも数本揃えて。
皆さん気付いて無いようですけどセンターにあるものには限りがあります。
後でいくらポイントを貰ってもモノが無ければ買えません、価値ある物は早い物勝ちです。
他の人に先駆けて、このタイミングでお買い物が出来るのは良いことです。
買う物を色々とリストアップしなくては。
無煙火薬作りは自分でやるのもダルいので、ハード系に強い彼を引き込みましょう。
彼に任せれば全自動で無煙火薬を作成する機械を作ってくれるはずです。




