2.作戦会議
Side: 府谷恭平
モニターに十数人分のアイコンが並ぶ、ビジネスチャットによるオンライン会議だ。
「よし、皆んな集まったかな?」
「所長、安里川さんがまだです。」
「まぁ、時間も無いので始めよう。現状だが緊急事態であることを皆に告げたい。」
「回線が繋がらない件ですか?」
可愛い苺のアイコンが点滅する、大苺奈那ちゃんだ。
「それもあるが…」
といいながらドローン動画を映す。
「世界が激変してしまった、我々は遭難状態にあると言っていいと思う。」
「結構ハードな話ですね、オフィスで遭難するとは思ってもみませんでした。」
彼は与田翼人くん、趣味は素数計算だそうだ、よくわからない。
「与田くんの言う通りだ、想定外のことだが問題は今後についてだ、皆んなの意見を聞きたい。」
「先に所長の考えを聞かせて貰ってもいいですか?」
彼は死村浩幸くん、迂闊な事を言うとすぐに論破されてしまうので注意が必要だ。
「そうだね、先ず君たち社員の生活は保証したい、なので組織は維持したまま、共に生き残ることを目的としたコミュニティを目指したいと思う。」
「具体的には?」
「先ずは最低限の衣食住を確保、次に生活必需品の生産、将来的には生活圏をセンター外に広げる、これらの為にセンターの物資を皆の共有財産として使いたい。」
「基本的にセンターの物資が尽きる前に、センターの物資を使って再生産していくという方針でよろしいですかね?物資の分配はどんな方法になりますか?」
「方針はその通りだ、分配については上手いやり方はないかな?」
「そんなの簡単です、うちは通販会社です、社員に給与として天尊ポイントを付与してサイトで買物してもらえばいいんじゃないでしょうか?」
「それは、いい、それ採用、でも回線繋がらない問題はどうする?」
「今ビジネスチャットで話している通り、社内ネットワークは繋がっています、Wi-Fi経由で天尊サイトにアクセス出来ますよ。」
「天尊のサイトはこのセンターのバックアップデータで動くことになるんだよな、在庫表示に支障が出たりしないか?」
「元々、災害時対応でどこか一つのセンターが生き残ればダウンしないシステムになっているので問題ないかと。在庫もリアルタイムで管理してますし。」
「なら問題ないか。」
「所長、社員はいいとして出入りの業者の方々もこのセンターにはいます、彼らはどうします?」
すぐ隣の席の呑家くんがパソコン越しに私に話しかけて来る。不思議な気分だ。
「協力してくれるなら仲間として迎え入れたいと考えている、動画の後の方で出て来るが、武装勢力の存在も確認されている。防衛を考えると人数は多い方がいい。」
「人数が増えると食糧の問題が出てきます、そこら辺はどうするつもりですか?」
「先ずは賞味期限の短いものから消費することになると思う、それと並行してプランターでも良いから野菜なんかを作らないとね、穀物類は相当量あると思うけど、いずれは自作しないとダメかなと思ってる。詳しい在庫量が知りたいな、大苺くん頼めるかい?」
「了解しました。」
「他に質問はあるかい?」
「所長、とりあえず今夜寝る場所をどうします?あたし、床にゴロ寝は嫌なんですけど。」
と呑家くん、今回はこっちを見ながらの発言だ。
「取り壊し予定の旧館があるのであそこを仮住居に考えている、インフラを少し整えないと使えないけどね。」
「確か、取り壊し作業は今日からですよね、急いで中止させないと。」
「それじゃ、呑家くん、建設会社の人に工事中止を伝えて来てくれるかい、あとエントランスに建設会社の方々を呼んでおいてくれ。」
「という訳で皆んなには協力を要請する、質問が無ければエントランスに集合してくれ、配送業者の方達もエントランスに集まるように伝えて欲しい。」