16.来訪者
Side: 下平兵
驚いた。
自分では気配に敏感だと思っていたが、全く気付かずに後ろを取られていた。
ゆっくりと振り返りながら返事をする。
「怪しいものではありません、下平兵といいます。」
そこには1人の若武者が居た。
「しもひらひょう?下平兵衛と申すか?」
なんか間違えているがまぁいいか、と思い直し。
「獲物を探して猟をしていました、あなたは?」
「俺は武辺新次郎だ、その方の護衛をしている。少し難儀をしていてな、水と食糧を分けて欲しいのだが。」
良いですよ、とお茶とおにぎりを分けてあげた。
武辺は貰ったペットボトルがお茶だと知ると「こぎゃん高かかと良かと?」と驚いていたが、おにぎりは「白米か!」と嬉しそうに食べていた。
「ふぅ、礼を言う、やっと人心地ついた。」
「それでこちらの気を失っている方は?」
「詳しくは言えんが高貴な方でな、足を滑らせて転落したので俺も探していた所なのだ。命は助かったようだが手当てが必要か。」
「それなら私の住処が近くに有ります、そこで手当てをされますか?」
「む、あそこの集落の者か?」
「いえ、山向こうになります。」
「それなら厄介になるか、お願いする。」
気を失っている人は目を覚ましそうにないので、武辺さんがひょいと肩に担いで行く事になった、結構力持ちだ。
所長も現地の人と話がしたいと言っていたので、多分大丈夫だろう。
下平は彼らを配送センターに案内する事にした。
Side: 武辺新次郎
「な、本当にこれがお前の住処か?砦ではないのか?」
下平兵衛なる猟師に誘われてここまで来たが、この砦はなんだ?
周りは柵で囲まれているが、ただ網が張ってあるだけなので守りには向かぬだろう。
しかし、中の建物は山のようにでかい、これはやはり砦と見るべきか?おそらくただの村ではあるまい。
門のような場所に来たところで、下平兵衛が手を耳に当てて、突然一人でしゃべり始めた、何かの作法か?
いったいどうしたのかと下平兵衛の顔を見ていると、門が開いていく、中から門番らしき者達が出て来た。
「武辺さん、中に入りましょう。」
下平兵衛は特に驚いている様子もないので、村人が門を開けてもらう為の決め事か何かだったのだろう。
中に入ると、また珍妙な服を着た者達がいた。
その中の村長らしき者に下平兵衛が話しかけている。
「府谷さん、現地の方達をお連れしました、1人怪我をしているので治療をお願いしたいのですが。」
「下平さん、怪我人は直ぐ医務室へ運ばせましょう。とりあえずご無事での帰還で良かったです。こちらの方は武辺新次郎さんですね、所長の府谷といいます。ようこそ天尊配送センターへ。」
は?なんで此奴は俺の名を知っている?
突然自分の名前を呼ばれて言葉が出なかった。




