13.調理場と浴場
Side: 府谷恭平
朝食の際に調理場の準備具合を調理班に聞く。
今は暫定的に新館のエントランスで食事をしているが、旧館に調理場を作り食堂を開設する予定だ。
調理場の部屋自体は建設班に任せてあるが、中で使う調理器具や食器、棚の選定を行って貰っている。
要は新規オープンする飲食店の内装を決めるようなイメージか。
班長の馬猪さんも『お店を持つのが夢だったの』と言っているので楽しい一時なのだろう。
但し、少ない人数で回さなければならないので工夫は必要だ。
例えば食器の洗浄などだ、人手が掛けられないので食洗機の導入が不可欠となる。
ということは食器の規格化が必要だ。
「そうなんですよね、もっといろんな可愛い食器を使いたかったんですけど。」
馬猪さんがちょっとため息を吐く、今回は彼女の趣味より効率を重視してもらった形だ。
本来は森の洋食屋さんを夢見ていた彼女も、ワンオペでもやれる牛丼チェーン店になりつつある現実を受け入れている最中なのだ。
下手に刺激するのはやめておこう。
ガスが使えないので全て電化製品になるが、希望する調理家電はなるべく揃える方向でいる頑張って欲しい。
メニューについては少し注文を付けさせて貰った。
初めは賞味期限の早い食材をメインで使うこと。
暫く後からは調達、又は再生産出来る材料をメインで使うことだ。
これは農業班も係わることなので直ぐに決められないが方向性としては認識して欲しい旨を伝えた。
調理班からも優先的に調達して欲しいものを挙げてもらう、やはり肉、卵、牛乳をリクエストされた、今後の課題だな。
朝飯後、調理場と浴場の出来具合を見に行く、栗井場さんが居たので話しかける。
「こんにちは、栗井場さん、進み具合はどうですか?」
「おう、所長、大分形にはなってきたぜ、呑家の嬢ちゃんに言われた通りに作ったが、これでよかったか?」
先ずは調理場を見せて貰った。
水道の蛇口が数カ所、その上に換気ダクトっぽいのが付いている。
後はコンクリート打ちっぱなしのだだっ広い床があるだけ、乾燥用の大型扇風機がフル回転していてやたらと目立つ。
食堂との境も空いたままだ、電灯は元からあるヤツをそのまま利用とのこと。
今は煮炊きする場所に耐火タイルを貼っているところだそうだ。
「今回は速さが命なので、こんな感じで大丈夫です。」
それから浴場を見に行く、構造的には同じ水回りを使っているため調理場の裏になる。
しかし、そこにたどり着くには大きく回っていかないと行けない。
途中脱衣所があるが結構広い、男性は80人いるので男湯側がこの広さなのは分かるが、女性は8人しかいないにも関わらず男湯の半分くらいだ。
「女湯側の脱衣所は随分と広いんですね。」
「ああ、ここにドラム式の全自動洗濯機を置くんだそうだ。コインランドリーみたいにしたいって言ってたな。排水溝まで排水管を引かされたよ。」
「男湯、女湯別々にですか?」
「別々だ。」
街中のコインランドリーで前に使った人が男か女かなんて考えたことも無かったが、こだわる人は拘るんだな。
浴場自体も見たが、男女比はやはり2:1だ、ポータブル浴槽も男湯8に対し女湯4の配置で水道の蛇口が設置してある。
「凄いですね洗い場まである、しかもシャワー付きだ。」
「初めからシャワー付きの蛇口を渡されたんだ、仕方あるまい。」
浴槽とは別に洗い場用の蛇口も設置してあった。
こかちらも男湯8に対し女湯4だ、何らかの執念を感じる。
「変な話し男は10交代なのに対し、女は2交代で済むんですね。」
「そうなるな。」
どうやら呑家くんに嵌められたらしい、ここまで工事が進んだらやり直すことは出来ない、今回は諦めよう。