11.初陣
Side: 府谷恭平
朝5時のエントランス、ちゃんと皆んな集まったようだ。
実は皆の時計に時差が無かったので失念していたが、今この場所と自分達の時計が合っているか疑問があった。
が、夜明け前なので無問題だ。
建設班の搬送担当には資材積み込みの為、搬出口に向かって貰った。
偵察班の豊令さんはドローンの動作確認中だ。
「ドローンの操作は問題ないですか?」
「そうですね、問題ないです。」
この後、皆にビジネスチャットでドローンの映像を共有するように設定方法を説明する。
「ほー、これは便利だ。」
舟酒さんが関心している、彼には警備員を率いて近接戦闘を担当して貰う予定だ。
「結局、夜中に襲撃は無かったすね。」
夜番担当の死村くんが呟く。
下平さんの他に夜番としてセンターメンバーの与田くんと縛尾くんにやって貰った。
眠いだろうがもう一踏ん張り頑張って欲しい。
早番としては、所長である俺と、センターメンバーの呑家くん、大苺くん、安里川くんの4人だ。
人を殺すかも知れないと思うとドキドキしてくる、平常心でいよう。
その他、防御要員の方々には盾を配った。
ポリカーボネート製の透明なヤツで機動隊でも使っているものだ。
本当は全員に連射弓を装備させたかったが、現状8つしか出来ていない、今回は割り切ろう。
栗井場さん達建設班と最終確認を行う、ドローンで偵察し、敵が潜んで無ければGOだ。
空が白み始めた、ドローンを飛ばす。
段々と高度を上げながら川原の映像を映し出す、あたりに敵は潜んでいなさそうだ。
川を越えてさらに周辺を偵察する、誰も居なさそうと思った瞬間人影が目に入る。
というか人影が次々に目に入る、農作業をしている人達が結構いるみたいだ。
「なんでこんな朝早く起きているんだ?」
「当てが外れましたなぁ、所長、どうします?」
舟酒さんが訊ねる。
どうしよう、このパターンは想定していなかった。
それにしても農家の朝は早いなぁ。
「おや?農作業をやめて走って行きますね。」
おそらく家に武器を取りに行ったんだろう、結構な人数が、集まりそうだな。
「なんか蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったふうに見えましたが。」
本当だ、家に入ったまま誰も出てこない。
これはもしかしてドローンにビックリして逃げたパターン?
確かに薄暗い空に変なものがふわふわ飛んでいたら俺だって逃げ出すかもしれない。
よし、行こう!作戦決行だ!
「皆さん、一先ず直ぐに襲って来そうな敵は居なさそうです。作戦を始めましょう。」
資材を乗せたトラックを先頭に建設班が走って行く。
周りを警戒しながら他の皆も続く。
豊令さんもドローンを操作しながら付いて来る、器用な人だ。
川沿いに最初の1本の杭が立った、そこを起点に川の上流側、下流側に別れて2m間隔で杭を打って広げて行く、暫くすると有刺鉄線が張られていく。
連射弓を持った迎撃要員と警備員は無人の川向こうを見ながらボーと立っているだけだ。時々ドローンの映像に目を遣りながら暇な時間を潰す事になる。
盾を持った防御要員はしっかり仕事をしているが意味はない。
「誰も来ませんね。」
呑家くんがポツリと言う。
「安全に給水機を設置するのが目的なので、戦闘は無いに越したことはないさ。」
自分の中でもかなり想定外だったが、ここは強がっておく。
川沿いの柵が完成し、センター側へ柵を延ばし始めた頃に、チラホラと家屋から顔を出す人が出始めた。
川沿いに柵が作られているのに気付くと大声で何かを触れ回っているようだ。
対岸に槍や鎌を持った現地住民が集まって来た、15人ほどだ。
石を投げて来た、何かを言っているが距離が遠く良く聞こえない、恐らく罵声だろう。
防弾チョッキやヘルメット、プロテクターで固めているので、石が当たっても問題無いのだが鬱陶しくはある。
コチラもあまり人殺しはしたく無いので、川に入った人からが攻撃対象と決めていた、誰か入ってくれないかなぁ。
そうこうする内に槍を持った人を先頭に何人か川に入って来た、先頭の人を狙って連射する。
次々と矢が刺さって針ネズミみたいになる、皆も躊躇せずに矢を放ったらしい、少し怖いなと思った。
他に川に入っている人を狙って次々と撃っていく。
4人ほどが針ネズミになって流されて行くのを見て、現地住民の人達は我先にと逃げ出した。
「終わったぜ。」
ふと横を見ると栗井場さんがいた、柵が完成したらしい。
「お疲れ様です。」
「それにしても凄まじいなぁ、その弓は。」
「ええ、思った以上に使えますね。唐西さんに感謝です。」
「それにしても、こんな状況だと女の方が強いのかもしれんな、あのお嬢ちゃんなんか笑いながら撃っていたぜ。」
あぁ、安里川くんですね、どちらかというと恍惚とした表情で打っていたんだろうな。
「とにかく、怪我人が出なくて良かったです。後は給水機だけですか?」
「そうだな、水を汲み上げるのはいいがその後はどうする?そのままじゃ飲めないぜ。」
「大丈夫です、浄水施設を作ろうと思っています。」