1.転移
初投稿となります。軽い気持ちで読んで頂けたら幸いです。
「呑家くん、異世界転移ってあると思う?」
府谷恭平はあの時、こんな言葉を口にしなければ良かったと後悔した。
「何の話ですか?変な薬とかやってないですよね、所長。」
府谷恭平は天尊配送センターで所長をやっている、35才の独身だ。
いつものようにギャグのつもりで言った一言の後に大地が揺れた。
その日、世界は突然の地震と共に変わってしまった。
府谷恭平は突然の揺れに対処出来ず、椅子ごと倒れてしまった。
「あ痛たたた、結構大きな揺れだったなぁ、椅子がひっくり返ったよ。」
「所長、そんな呑気なこと言ってないで状況の確認をされた方がいいんじゃないですか?」
「そうだな呑家くん、保守担当へセンターの状態に異常がないか確認をしてくれ。」
「分かりました。」
補佐の呑家初美にシステム保守部へ確認を取るよう指示を出し、自分はパソコンに向かう。
「それじゃ俺はネットで震度と震源を見てみるか。」
とネットを見てみるが繋がらない、いくつかサイトを変えても何処も繋がらなかった。
「あちゃー、回線障害になるほどの地震だったのか?そこまでとは思わなかったが。」
ふと、窓の外を見てみる、ここは九州の高速道路が十字に交わる場所に作られた通販大手【天尊】の配送センター。
そう、かなり田舎なので周りは自然が豊かだ、しかし。
「ちょっ待て、街が消えて森になってる、道路も無くなってる、どうゆう事だ?」
ここまで自然豊かでは無かったはず、と窓から身を乗り出して周りを見るがセンターの周りは見事に森に囲まれていた。
川向こうに集落が見えるがやはり見覚えが無い景色だ。
とここで呑家くんから報告が上がる。
「所長、保守担当に確認したところ、水が断水しています、あと電気が売電先に流れていないそうです。センター内の配送システムには異常は無いそうです。」
「分かった、呑家くんは水道局と電力会社に連絡して対応をお願いしてくれ。」
「了解です。それで私気になったんですけど、外の景色変わってませんか?」
「俺も気になってる、ちょっとドローンで確認してみる。」
府谷恭平は趣味でドローンをやっていて、センターで災害用品を揃える際に強くドローンをねじ込んだ経緯があり、ドローンの操作には慣れていた。
垂直にどんどん高度を上げていき、周りの景色を確認していく、明らかに違う、道路も市街地も無く、田畑と集落が広がるばかりだった。
「おや、あれは?」
遠くに大きな川が見えていた。
「筑後川だよな、あれは。」
逆方向にカメラの視界を向ける。
「こっちの山々は、おそらく脊振山や九千部山だろうな。」
府谷恭平は考える。
「大地震ときたら、異世界転移かと思ったらタイムスリップの方かぁー!」
「所長、何を叫んでいるんですか?」
「呑家くん、もしかしたら大変な事になっているのかも知れない。」
「私の方もそんな感じがします、水道局にも電力会社にも電話が繋がりません、ついでに消防署にもかけてみましたがダメでした。」
「やっぱりかぁ。」
「何か分かったんですか所長?」
「水道局も電力会社も消防署も皆んな無くなってるんじゃないかと思うんだよね、ほら、周辺の景色を空から見たけど街が全部消えているんだよ。」
「な、」
「な?」
「なんじゃこりゃぁああああーっ!」