[独白]不器用な僕だから、最後くらいは笑顔にしたい。
5000字程度の短編(初挑戦)
胸糞注意です。
一部加筆しました。
子供は、恋人がいるだけで人生勝ち組な気分になってくるものだ。
僕、常里 一道は取り柄のない高校生だった。特別運動ができるわけでもなく、特別勉強ができるわけでもなく、また特別容姿が優れているわけでもない、自分で言っていてかなしいくらいに"つまらない"人間だった。
そんななか、一応ではあるが、なんと僕にも彼女みたいな人がいた。だが、僕は決して勝ち組にはなれない。僕は見かけだけ勝ち組の、本当は誰よりも負け組な人間なんだ。
「ねぇ、叶絵。よかったら今週末にさ、久しぶりに遊びに行かない?」
「ごめんなさい。その日は用事があるの。それより、あの日・・・忘れないで」
「・・・そっか、うん。わかってる。また、同じ場所だったよね。あと、急に誘ってごめんね」
意を決した誘いも、すげなく断られてしまう。
高2の夏、最近は一緒に遊ぶことも少なくなった彼女。高梨 叶絵という僕の彼女とは、ちょうど1年間の付き合いだった。
高校入学直後の頃、クラスに知り合いがいなかった僕は、教室の隅で一人おとなしく座っていることが多かった。誰も話しかけてこないし、僕から話しかける勇気もない。ただのヘタレの陰キャの僕がそこにいた。
そんなある日、僕が暇つぶしにラノベを読んでいた時。
『なに読んでるの?』
叶絵が話しかけてきた。
陰キャに金でもねだるつもりだろうか。そう思いながら顔をあげて、僕は硬直した。多分、一目惚れってやつだった。目があっただけで心臓がバクバクとうるさいくらいに動き出し、緊張でまともに声が出なかった。
『だ、大丈夫?顔、真っ赤だよ?』
わざと言っているのかと思ったが、彼女はキョトンとしている。とても純粋な子。それが第一印象となった。
それから僕と彼女の交流が始まった。
僕と会話する中で彼女はラノベに興味を持ったらしく、オススメを渡すと翌日には読んできて感想を語り合えるくらいの仲になっていった。
僕は、そんな何気ない会話がこの上なく楽しかった。いや、会話じゃない。話している時の彼女の声が、動作が、そして何よりその笑顔が大好きだった。そんな彼女に惹かれていったのは、自然なことではないだろうか。
夏休み前のある日。
僕は人気の少ない場所に彼女を呼び出した。
告白が、したかった。
今までの関係が壊れるのは怖かった。でも、この思いを伝えぬまま終わるのはもっとずっと怖かったんだ。
『えっと、話したいことって、何かな?』
『っ!あの、その・・・』
上手く口が動かない。でも、ここで挫けちゃだめだ!
『ぼ、僕と!付き合ってください!』
『・・・え?その、ごめんね?私、常里くんのこと、友達としかおもってなくて・・・』
現実は残酷だった。でも、諦められなかった。諦めきれなかった。
『ならっ!あ、改めて友達から、じゃ、駄目かな・・・』
自分に自信が持てなかった。だが、僅かに希望は残っていた。
『・・・わかった。なら、条件を出すよ。これから1年間で、私を惚れさせて?その時は、今度こそ本当に恋人になろう』
嬉しかった。拒絶されるんじゃないかって、そう思ってたから。
それから、僕は彼女に積極的にアプローチをするようになった。買い物に誘ってみたり。サプライズでプレゼントを贈ってみたり。一緒にアニメのイベントに行かないかと聞いてみたり。
実家暮らしの僕は、バイトをしてお金を貯めた。親の小遣いだけでは、彼女を喜ばせられないと思ったからだ。頑張って働いて、遊ぶのに余裕のあるお金が稼げるようになった。以前に何か欲しい物はあるかと聞くと、「アクセサリーかな」と言われたので、そのお金で買って渡したりした。
だが、1ヶ月くらいして夏休みが終わった頃、彼女の笑顔が少し陰っているように感じた。僕の好きな笑顔じゃなかった。
そうして振り返って、わかった。
僕は強引すぎたんだろう。気を引きたい一心で、彼女を振り回してしまったんだろう。
だから僕はもう少し落ち着いて接することにした。
振り回したことを謝ると、彼女はまたにっこり笑って
『気づいてくれたなら大丈夫だよ』
と言ってくれた。
それからはその反省を活かし、以前のような日常の中に、たまに誘うくらいにするようにした。また彼女のあの笑顔が帰ってきて、僕は安心した。
叶絵とこの関係をはじめて半年くらいした冬の日。
最近また、彼女の笑顔がおかしくなってきた。
今度は思い返しても心当たりがない。きっと、今の僕では気付けないことなんだろう。だから、思い切って正面から聞いた。
『僕、叶絵に何か気に食わないことした?』
『・・・ううん、なんでもないの。気にしないで?』
どこか遠慮がちにそう言われた。
やっぱり、自分で理解できないから駄目なのか?
僕の模索はしばらく続きそうだった。
だが、模索はそこまで長くはならなかった。
見つけたのだ。原因を。
それは、別の"男"だった。
日曜日。
その日は、何か贈り物をしようと、ショッピングモールに来ていた。何を買おうか迷いながら歩いていると、スイーツショップの中に見覚えのある2つの姿を見つけた。
片方は叶絵だった。パフェを頬張りながら幸せそうに頬を緩めている。
もう片方は、知らない男性だった。見覚えがあるのに、誰だか理解できなかった。記憶をたどって、思い当たる。そうだ。彼とは、アニメのイベントで何度か会っている。爽やかな笑顔が似合う、いかにもモテそうなお兄さんだった。
理解が、できなかった。
なんだよ、あれ。
なんでそんなに嬉しそうなんだよ。
ほっぺたに付いたクリームをとってもらって、なんでそんなに照れくさそうにしてるんだよ・・・!
何気ない会話をしているだけだろうに、なんでそんなに幸せそうにしてるんだよ・・・!!
なんで、なんで僕といるより、その笑顔が輝いてるんだよっ!!!
その日僕は帰ってから、体調を崩して寝込んでしまった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
朝。
彼が学校にいなかった。
いつも決まって私を待っている彼がいなかった。
私に「おはよう」と笑う、彼がいなかった。
1限の授業が終わっても来ない。2限も、3限も、4限が終わっても、来ることはなかった。
我慢しきれずに先生に聞いたら、
『あぁ、体調悪くなったから大事をとって休むってよ。お前ら仲良さそうだったのに、聞いてなかったのか』
と言われた。
そうだ。なんで彼はまっさきに私に連絡をくれなかったのだろう?
私はそうやって誤魔化した。このモヤモヤとした罪悪感を。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ピロリン♪
僕のスマホがメールの着信を告げる。
叶絵からだった。
《体調はどう?お見舞い行こうか?》
簡素な文を見て、白々しいと思った。でも、
《大丈夫だよ。明日には学校にも戻るから》
あたかも、まだ仲のいいように取り繕った。
憎たらしいことに、僕は他人を心の底から嫌うことができなかった。表面で嫌っていても、本当は、せめて友達のままでいたいと、そう思ってしまう。
ほんと、こんな自分が嫌になる。
どうやら、僕が嫌えるのは僕だけらしい。
あの日をさかいに、僕は彼女との接触を控えるようになった。
時折「なんで」と聞いてくるが僕は「なんでもない」と返す。そのたびに彼女が寂しそうな表情をするのが、僕の心を締め付けた。
僕はまだ、バイトは続けていている。もう意味ないだろって、自分でも思うけど、バイトをしている時だけが、全て忘れて楽になれた。
1年の約束の期日まで、あと1ヶ月をきった頃。
僕はある行動を起こした。それは、あの男の人について調べることだ。別に彼女を取り返そうってわけじゃない。どうせなら、僕に、これなら取られても仕方がないと、そう思わせて諦めさせてもらいたかったからだ。
偶然にもSNSを漁って彼の大学が判明し、いざ乗り込もう―――としたが、不法侵入になりそうだったのでやめておいた。てか、あの人大学生やったんかい。
仕方なく、不審者よろしく学校前をうろついていると、突然、見知らぬ男の人に声をかけられた。
「君、どうしたんだ?もしかして、うちの入学希望者だったり?」
「いえ、そうではなくて―――――」
気がつくと、全て話していた。我ながら口が軽すぎる。
「そっか・・・君は強いな」
「いえ、弱いですよ。めちゃくちゃ、弱いです」
「君がそういうなら、それでいいよ。で、その男の調査だっけ?どんなやつかはわかる?」
「この写真の男です」
以前、街中を歩いているのを発見して撮ったスマホの画像を見せる。・・・あれ?なんだかこれじゃあ・・・
「君、もしかしてストーカー・・・?」
「その気はなかった筈なのに・・・」
項垂れる僕を見て、男の人は笑った。
「まぁ、とにかく、その調査は俺に任せてくれ!君の代わりにやってきてやるよ!」
「え・・・?」
「そうだな・・・一週間後の昼に、そこのカフェに来てくれ。それまでになんとかする。」
「なんで、そこまで・・・?」
「見てられないんだよ、今の君。すぐにでも、消えてなくなりそうだった」
そうか、今の僕は、消えちゃいそうなのか。
「俺は新井だ。よろしくな」
「僕は常里です」
その日、ピッタリ正午に、新井さんはやってきた。
「待たせてたか。すまんな」
「いえ、お気になさらず。それで彼のことは・・・」
「あぁ、あいつな、まったく悪い噂もなかった。テンプレだと、決まって真っ黒なんだがなぁ・・・」
「むしろ、真っ白で安心しました。これなら、彼女も心配ありません」
「ほんとによかったのか?」
無言で頷く。良いも悪いもない。もう、決めたことだ。
「あ、新井さん。これ、心ばかりですけど・・・」
僕は用意していた封筒を渡す。
「ん?って、これ、こんなにもらっちゃ悪いって!」
「気にしないでください。ただのお礼ですから」
封筒の中身は、僕のバイト代1ヶ月分。それを押し付けて席を立った。
新井さんには感謝しかないな。
帰り道、意外な人物からコンタクトがあった。
「常里 一道くん、だね?」
「あなたは・・・」
つい数刻前まで話題に出していた、叶絵の相手だった。
「彼女の、叶絵のことで話がした「結構です。あなたがいい人だってことはわかりました。あなたなら、彼女のこと、幸せにしてくれるんですよね?」ああ。もちろん。けど、いいのかい?仮にも、君は彼女がすきだったんだろう?」
わざわざ、考えないようにしていたことを思い出させないでくれ。
「彼女が幸せなら。それで十分です」
「・・・そうか」
思い残すことがあるかと聞かれれば、あるに決まっている。
そうだ、"あれ"、まだかばんに入ってたかな・・・。
「一つだけ、お願いしてもいいですか?」
「ああ」
「今月がおわったら。これを、渡して欲しいんです」
「ねぇ、叶絵。よかったら今週末にさ、久しぶりに遊びに行かない?」
「ごめんなさい。その日は用事があるの。それより、あの日・・・忘れないで」
「・・・そっか、うん。わかってる。また、同じ場所だったよね。あと、急に誘ってごめんね」
やはり、最後のデートの誘いも断られた。もう、僕には気がないんだなって実感する。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今日、久しぶりに彼が誘ってきた。正直に言えば嬉しくはあった。でも、久しぶり過ぎて、どんな顔でいればいいのか、わからなかった。
結局私は、彼をあしらうことでしか、その場を切り抜けることができなかった。
彼はやっぱり、いい友達だ。でも、それ以上には何故か届かない。誠心誠意向き合ってくれているのは、痛いほどわかる。なのに私は、正面から向き合おうとせず、いつも避けて、躱して、逃げている。負い目があるのも理由の一つだけれど、どうしても、素直に話ができなくなっていた。
ねぇ、私はなんで、こんなに誤魔化してばかりなの・・・?
もう、自分がわからないよ・・・。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして、約束の日。
あの時と同じ場所で。
「あの、1年で惚れさせたらって約束だけど・・・」
「言わなくていい」
「え・・・?」
「僕に気がないのは、半年前からわかってたよ。今まで、つまらない僕に付き合ってくれて、ほんとにありがとう。これからは、彼氏さんと、末永くお幸せにね」
ちゃんと、笑えていただろうか。
そういえば、君は最後の最後まで、ちゃんと僕の名前を呼んではくれなかったね―――――
こうして、不器用な僕の、1年にわたる恋は幕をおろした。
残念ながら、あれから彼女と話す機会は極端なまでになくなっていった。
久しぶりに、あの頃に戻った気分だった。取り柄がなく、いつも一人で過ごしていた、あの陰キャの頃に。
ただ、いくつか変わったこともあった。
例えば、バイト。あれからもずっと、これは続けている。将来に向けて、少しずつ貯金を増やしている。
あとは・・・そうだな。たまに話しかけてくるやつができた。はっきり言って、かなり嬉しい。これでボッチは完全卒業だな。
ただ、話しかけてくるやつらは、みんなはじめにこう言うんだ。
「男の癖に、妙に儚げな笑顔が似合う」
ってね。
あれから、僕が彼にお願いしたことは、やってくれたのかな。
せめて僕の置き土産が、最後に彼女を笑顔にできたなら嬉しく思う。
二人の行く末に、沢山の幸せがありますように。
面白かったら、評価お願いします。
日間ランキングを見てたらなんか入ってて驚愕です・・・ありがとうございます!あと、感想も感謝です!
まさか昨日一日でかきあげた作品がこんなになるとは・・・
なんか4位(4/1 21:30時点)とかに見えたけど、きっと錯覚ですよね。ハハハハハハ・・・
マ?
続編のエンドを複数パターン書こうかなと思うので、欲しい展開の募集をします!ご希望があれば、私の活動報告の方か、感想に書いていただければ幸いです。
続編1→https://ncode.syosetu.com/n7841gw/