84.昔と同じノリはボクの前でだけにしてよね、もぅ!
3回更新3回目です
あとがきにお知らせがあります
隼人と共に戻ってきた春希の家は、いつもと同じように明かりも無く暗かった。
「……居ないようだな」
「ま、忙しい人ではあるからね。この前顔を見たときは高校入学の書類関係の事でだし、その更に前は中3初めの修学旅行関連だったかな?」
「そうか……」
それは田倉真央が保護者として、本当に必要最低限の手続きと接触しかしてないということを物語っていた。
明らかにいびつな親子関係である。
どこか痛ましい顔をする隼人とは対照的に、春希はホッとした表情で胸を撫で下ろしてさえいる。事実、春希にとっての母親というものはそういうものだった。
もはや何かをしてもらったり、何かを求めたりする対象ではない。唯一生物学上の母から求められるのは『良い子』で待っていなさいということのみ。春希としてもそれが異常であるという認識はしている。
だけどそれは春希にとって当たり前のことでもあった。いや、それ以外を知らないと言った方がいいのかもしれない。
しかし春希はぬくもりを知ってしまった。
繋がれている右手からは隼人の熱が伝わってくる。
「んっ、今日は色々とありがと」
「……別に、俺が勝手にやったことだし」
そしてどちらからともなく手を離す。
春希は触れ合う部分が喪失すると共に一抹の寂しさを感じてしまい、困った笑いが零れてしまった。
だからこそ思うことがある。思えば知らず、目を背けていたことだ。
春希も月野瀬に居た頃、よく隼人の母にも世話になった記憶がある。隼人に似てちょっと強引でお節介なところがあって――自分の母と違い、子供にしっかりと愛情を注ぐ人の記憶だ。
そんな人が急に倒れ、目の前からいなくなってしまったら……きっと、今春希が感じている右手の喪失感とは比べ物にならないほどのものがあるに違いない。それはつい先ほど、三岳みなもに気付かされたことでもある。
ゆえに春希は隼人のために何かをしたいという気持ちが沸き起こり、自然と笑みが零れてしまう。色々頑張ろうと思う。
「それじゃ、また――」
「待ってくれ、春希」
「――隼人?」
いつものように別れようとしたときの事だった。
隼人は家の扉に手をかけた春希の手を素早く取ったかと思えば、その手の中へと強引に何かを握らせてくる。
一体何かと思って手のひらを見てみれば、そこにあったのはここ最近どこか見覚えのある猫のキーホルダーが付けられたカギ。状況の理解が追い付かない春希は、しきりに手のひらのカギと隼人の顔を交互にみやる。
すると隼人は気恥ずかしいのか、ガリガリと頭を掻いたままそっぽを向いてぶっきらぼうに言い放つ。
「それな、うちの……あーその、合いカギ」
「え……あ、うん……?」
「何て言うかさ、こんな鳥かごみたいな家で1人が嫌になったりしたらさ、その、いつでも気が向いたら俺んとこ来たらいい。朝っぱらでも真夜中でも……その、気にせず来てほしい」
「隼人……わぷっ?!」
そして春希に向き直った隼人は、照れくささを誤魔化すように無理くりその頭を掻き回す。
「も、もぅ、何す――」
「そのさ、何かしてやりたいって思ってるの……春希だけじゃないから」
「――隼、人……?」
なんてことはない、気持ちは同じなのだと。
そんな風に笑みを浮かべる隼人の目は、春希が見た事のない色をしていて、妙に胸をざわつかせる。
「じゃ、またな」
「……………………ぁ」
そして隼人はいつもと同じ笑みを浮かべ、逃げるように去って行く。
春希はその背中を茫然と見送りしばし立ちぼうけていたものの、やがて覚束ない足取りで無言のまま玄関を開ける。
「…………」
灯かりも点けぬまま暗い家の中を、身体に染みついた動きで階段を上がり自分の部屋へと入る。
カーテンの閉められていない窓からは星と外灯の光が差し込み、薄暗い部屋をぼんやりと写し出す。
勉強机の上には鏡とコスメ用品、ベッドの上には今日何を着て行こうかと悩んだ服と背伸びして買った下着、そして床には放り出されたゲーム機や漫画と共に散らばるファッションや女性向け雑誌。それらが暗がりの中で物寂しく、まるで今日という祭りの後のように揺蕩っている。
しかし春希の胸は、未だその祭りの熱が続いているが如く高鳴っていた。
部屋の扉を閉め、そこへ背を預けながらずるずるとへたり込む。
ぺたんとアヒル座りになり、胸の前でぎゅっと右手を、先ほどまで繋がれていた手を包み込む。そして今、その中にあるのは隼人の家の合いカギ。
「……ずるい」
ボクの方が、ボクが隼人の、ボクがもっと――様々などこか批難じみた想いが生まれては、春希の脳裏には隼人の別れ際に見せた困ったようなでも嬉しそうな、かつて月野瀬でもっと遊んでいたいと駄々をこねた時の顔を彷彿とさせ、胸を締め付ける。
それは胸が痛いというのにどこか甘く切なくそして狂おしく、だというのに嫌じゃないと思ってしまう自分が不思議だった。右手に握りしめられたカギがやたらと熱く感じる。
これが隼人というやつなのだ。
きっと今日の一輝のように、昔と同じように何の気なしに他の誰かに手を差し伸べ、その心を掻き乱していくことだろう。
はぁ、と吐き出す熱いため息が暗がりへと溶けていく。
いつもと同じ独りの家。
いつもと同じ暗く独りの部屋。
いつもと同じ独りのはずなのにしかし、春希の胸はいつもとはかけ離れた痛みで淡く疼いていた。
無意識に隼人の住むマンションのある方向へと視線を移す。
そして心の中で声を大にして言いたい言葉があった。
――昔と同じノリはボクの前でだけにしてよね、もぅ!
さて、予定より少々長くなってしまいましたが2章はこれで終わりとなります。いかがだったでしょうか?
そして本作ですが、角川スニーカー文庫様から書籍化することになりました!
これもひとえに、いつも応援してくれている皆様のおかげです! にゃーん!
あ、書籍情報の詳細は後日になります。
というわけで、面白い! よかった! 続きを早く! 書籍化おめでとう!
もしそう思っていただけたら、ご祝儀でブクマして☆☆☆☆☆を★★★★★に塗りつぶしてください! して! ほんとマジで! 切実! れびゅーほちぃ(鳴き声
ここまで読んでくださった読者ならもうお分かりのことでしょう……
お祝いの言葉や感想は、にゃーんと鳴けば作者に伝わります!
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