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転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件【2026年アニメ化決定】  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第9章

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380/380

380.母娘喧嘩


 明らかに歓迎していない空気を醸す真央。

 春希は一瞬身体を強張らせ何かを思案した後、すぐさま毅然とした態度で頭を下げる。


「遅くなって申し訳ありません」

「っ、時間には間に合っているわ」

「新人ですので、一番早く来て準備して、万全の態勢で臨むのが筋かと」

「いい心掛けね。それで、大事な本業(、、)の方よりこちらを優先してよかったのかしら?」

「あちらの方は本日、相棒(、、)の新しいパフォーマンスを披露する予定でしたので。ですから、私が早く来るのが筋だったかと」


 真央の嫌味ともいえる問いかけに、春希はにこりと涼やかな笑みで答える。


「……そう」


 真央は少し目を丸め、感心したように小さく息を吐く。どうやら春希はライブを抜け出してきたわけでなく、最初からライブはそういうことだという体にしたようだ。アイドルでなく、純粋に役者としてやってきたという宣言ともいえる。

 大した機転と胆力だ。

 さながら前哨戦ともいえるような、緊張感を孕んだやり取り。

 あと、母娘の会話としてはあまりに他人行儀だとも。

 まるで会話の仕方がわからないようにも見えた。

 真実、春希にとってはそうなのだろう。もしかしたら真央の方も、春希と会わなかったのは、話し方がわからなかったのかもしれない。そんな風にも思えてきた。

 だとすると、春希も真央も不器用すぎると、隼人は眉を顰める。

 春希と真央が視線を絡ませることしばし。

 隼人は周囲のスタッフたちと同じく、固唾を呑んで2人のいきさつを見守る。

 やがて真央が鼻を鳴らした後、監督の方へと視線を移した。


「撮影はもう、始められるのかしら?」

「っ、あぁ。こちらはいつでもいけるよ」

「そう。なら始めましょうか」


 そう言って真央は踵を返し、所定の位置へと向かう。


「よろしくお願いします」


 春希も少し緊張した声で呟き、移動する。

 そして周囲は監督の指示のもと、カメラ等の機材を持ったスタッフたちが慌ただしく動き回り、撮影の準備がなされていく。

 同時に空気が変わり、春希と真央、監督とスタッフたちが一丸となって、隼人の目の前でこことは違う世界が作られていく。肌がピリピリと粟立つ。


(これが現場の空気……)


 隼人は息をひそめ、ごくりと喉を鳴らす。

 やがて準備が整い、スタッフから合図が出る。

 春希、そして真央は纏う雰囲気を一変させ、撮影が始まった。


「…………」


 真央が入口から花畑へ、懐かしいと目を細めながら歩いてくる。

 ただそれだけだというのに、これまで千尋の歩んできた半生が伝わってくるようだった。復讐を果たしたけど過去は変わらない、故郷にもはや自分の居場所がないということ、そして色んなものが手から零れ落ちていってしまったことによる虚無感――真央の演技力の卓越さに心を鷲掴みにされてしまう。

 千尋(、、)が葛藤しつつも変わらない故郷の風景に懐かしんでいると、ふいに目の前にかつての自分――春希が現れる。

 かつての千尋を演じる春希が、今の千尋に会いたかったとばかりに、にこりと微笑む。

 千尋はいきなり現れたかつて幸せだった頃の、満ち足りていた時の自分を目の前にして、ありえないものを見たかのように動揺し、一歩後ずさる。

 母娘揃って、さすがの演技力だ。隼人だけでなく、監督や撮影スタッフたちも2人が作り出す世界に魅入られている。

 やがて千尋は己がうちの懊悩を呑み込み、目の前の過去の自分と対峙した千尋(、、)は、憎々し気に言い放つ。


「あなた、どうして現れたの!?」


 誰もが凍り付き、息を呑む。それこそ隼人や監督、スタッフだけでなく、演じている春希も。この場の空気がまたも一変する。

 真央のセリフと演技は、台本にはないものだった。

 台本では千尋の目の前に現れたかつての自分に驚き狼狽しつつも、自分が復讐を優先して大切な人たちが離れていってしまったことは、間違ったことだったのかどうかを問うところだ。そして過去の自分との対話を通じ、もし自分がしたことが失敗だったとしても、かつて自分が都会に出て変われたように今からでもやり直せることができる――そんな風に今の自分が過去の自分に肯定してもらい、エンディングへという流れである。

 どうして真央がいきなり、台本にないことをしだしたかわからない。

 だが、その演技は迫真だった。

 なすべきことを遂行した結果なのに、その過去の自分が目の前に現れ今の自分と真逆な無邪気な様子で現れれば、まるで責められているかのように見える。

 また、物語の流れとしても決して不自然じゃない。

 むしろここから過去の自分が今の自分にどう答えるのか、隼人は一観客としてワクワクしてしまっている自分にも気付く。それは監督や他のスタッフたちにとっても同じなのだろう。だからカメラは、依然として回っている。

 当の春希はといえば突然の真央のアドリブに目を丸くして、怒られた幼子のようにビクビクしながら目を逸らし――その時ふいに隼人と目が合った。

 どうすればいいかわからずまるで縋るような目を向けてくる春希に、隼人はやってやれと言わんばかりにニヤリと笑って拳を突きだす。

 するとそれを見た春希は僅かに口元を緩め、迷いが張れたような純真無垢といった表情になって、首を傾げた。


「それはあなたが一番よくわかってると思うわ」

「どういう……」

「私は今のあなたを知るために現れたの」

「っ」


 春希がぐいっと一歩踏み込めば、真央は気圧されたように一歩後ずさる。

 それは初めて見せた、真央の隙でもあった。それを見逃す春希じゃない。春希はなおも前のめりになって、追撃の言葉を浴びせる。


「誰よりも成功して認められて、宿願も果たして、満ち足りているはず……だというのに、どうしてそんな寂しそうな顔をしているの?」

「はっ! 勝手なことを……あなたに何がわかるっていうの!?」

「わかるよ。だって私はあなた自身なんだから」


 真央は一笑に付して話題を切り上げようとするがしかし、春希は映画の役を通じてのセリフでそれを許さない。


「…………っ」

「……――」


 バチバチと、真央と春希の睨み合いが続く。

 手に汗を握らせる撮影だ。

 周囲に有無を言わせず緊迫を強いる。

 しかし隼人には真央と春希が本音をぶつけ合っているように見えた。

 こうした場と役を通じてしかできない、なんとも不器用な2人のやり取り。

 だからこれは、紛うことなく母娘喧嘩だった。


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― 新着の感想 ―
双方、見事な応用力ですね。いやあ、舌を巻く。
演技という形でしか本音をぶつけられない、似たもの同士で不器用な親子ですね。果たしてわかり合うことはできるのでしょうか。
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