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転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件【2026年アニメ化決定】  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第9章

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377.伝えたい人


◇◇◇


 春希が去った後の楽屋裏では、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。

 各所でスタッフたちの怒号が飛び交っている。


「直前にプログラムの大幅な変更って!」「音響はまだマシだろうけど!」「照明、どうするんだよ!」「ていうか主役出てこなくて暴動起きたらどうなるんだよ!」


 それらの声をBGMにしながら、急遽色々と仕様が変更されたライブの準備も進んでいく。沙紀だって、直前まで茉莉との最終確認に余念がない。

 誰もが上を下へのおおわらわ。そんな中、陣頭指揮を執っているのが清司だった。

 清司はまるでこうなることを予期していたかのように、指示に淀みがない。次々と持ち込まれるトラブルを適切に捌いている。その顔はやけに楽しそうだった。

 やがてライブの開演時刻が近付いてくる。

 アイドル衣装に身を包み、スタイリストに髪やメイクをセットしてもらった沙紀は、まるで自分じゃないみたいだった。まさにプロの技でいつもより体感5割増しに可愛くなった姿を、隼人に直接見せられないことを残念に思いながら、舞台袖から会場を覗く。

 眼前には一面の人、人、人。

 視界に映る端から端までライブを観に来た客で溢れている。あまりにもの人の多さにどこか現実味がなく、感激から「わぁ」と小さな声を上げてしまうほど。

 そして沙紀は隣の茉莉に、少しのんびりした声で呟いた。


「さすがにこの大人数になると、少しい緊張しますね~」

「はぁ!? いやいやいや、少しどころじゃないから。ていう何この人の多さ!? あぁもぅ、練習したとはいえ、修正したのとかぶっつけ本番になっちゃったしさ!」

「あはは、でもやれるって大見得切っちゃったし、大変ですね~」

「っていうか、沙紀も大概肝座ってる、てかただの一般人だよね?」

「ただの田舎の巫女ですね」

「ある程度場慣れしてる私でさえ、この人数にビビってるよ。しかもほとんどはおばさん目当てに来てる人だっていうのに、その期待以上のものを出さなきゃいけない。緊張するなってほうが無理っ!」

「まぁ私はもし失敗しても、失うものがないっていうのがあるかも」

「ぐぬぬ……」


 茉莉は歯軋りしながら睨んでくるも、沙紀は苦笑を返すのみ。

 そして少し考えた後、しみじみといった感じで言う。


「あはは、そういう風に考えると確かにそうですね」

「……どういうこと?」


 胡乱なジト目を向けてくる茉莉に、沙紀は胸に手を当て目を瞑る。

 今までいろんな春希の動画を見てきた。どれも素晴らしいものばかりだ。

 だけど、その中で一番心を震わせた春希の歌がなにかと聞かれれば、文化祭で隼人への想いを唄ったものだと上げられる。あれを直接聞いたものなら、同じようにアレだと答える人も多いだろう。

 あれほどに周囲の人でなく、誰かを想った歌が心を響かせるなんて初めてだった。


「簡単な話です。今日は別に、目の前の人たちに舞うわけじゃない。春希さんに向けてればいいだけなんです」

「おばさんに?」

「そうです。春希さんなんてちょっと器用で賢く立ち回れるだけで、全然大したことないよって、私でも代わりを務められるくらいなんだから、ちょっとは頼ってね、って」


 かつて何のために、誰のために神楽を舞っていたのかわからないことがあった。これが何の役に立つのかとも。

 だけど、今ならわかる。

 きっとこの日、友達を助けるためだったのだろう。

 それもこれも幼いあの日、自分の拙い神楽を綺麗でカッコいいと褒めてくれた隼人のおかげだ。隼人によりよい自分を見せたくて、研鑽してきたのだ。

 茉莉が呆れたように盛大なため息を吐く。


「なるほどね、沙紀の言う通りかも。確かにこれっておばさんに舐めるな、私一人でも問題ないって、認めさせるものだし!」

「うん、そうです」

「それからアイツに――隼人に向けても、伝えなきゃだね」

「――……え?」


 いきなり隼人の名前を出され同意を求められ、沙紀は硬い声を返す。

 茉莉は自虐めいた笑みを浮かべて言葉を続ける。


「アイツってさ、ホント変なやつだよね」

「変、ですか?」

「うん、変というか不思議というか。私さ、ずっとおばさんと比べて闇堕ちしかけてたんだ。そんな時にさ、私を捕まえて助けてくれって言われて、なんだこいつって言われて、なんだこいつって思って。でも話してて真っすぐで面白くて、私のいいところとかちゃんと見てくれていて。その証拠にSNSにアレな私の姿を登場してバズらせるし。意識するなっていう方が無理でしょ」

「茉莉ちゃん……」


 そっぽを向きつつも頬を赤く染めている茉莉は、まさに恋する乙女のそれに見えた。

 沙紀の胸が嫌な風に騒めきだすも、しかし茉莉は諦め交じりの声で訊ねてくる。


「嫌でも思い知らされたよ。アイツさ、無自覚に自然体で行き詰ってた私を連れ出してくれた。あぁ、おばさんと沙紀もずっと、こんな感じだったんかなぁって。だから2人共、心の中心にアイツが居座ってる。違う?」

「それは……」


 図星だった。そして正しく、隼人に惹かれたところでもある。

 そして同じように惹かれてしまった茉莉に告白に、沙紀はどうしていいかわからない。

 だけど茉莉は、思いもよらないことを告げる。


「でもアイツさ、沙紀とおばさんしか見てないんだよね」

「え?」

「まったく、初恋だと思ったら即失恋とかほんと笑えない。だからおばさんや沙紀以上のいい女になってやるって唄わなきゃ、やってらんない。だから行くよ、沙紀!」


 そう言って茉莉が、手を差し伸べてくる。

 同時に、ライブの始まりを告げる音楽が流れ出した。

 沙紀は目をぱちくりさせた後、ふにゃりと笑って茉莉の手を掴む。


「はい! お兄さんと春希さんに向けて、全身全霊の舞台を作り上げましょう!」


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― 新着の感想 ―
罪作りな男ですねえ(笑)
あれだけされたら茉莉さんも惚れるのも無理ないですよね。その上で、隼人さんの中にいるのが春希さんと沙紀さんの二人だけだと断言されたのは、沙紀さんにとって励みになったでしょうね。
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