373.引き寄せられる人々
沙緒莉から借りた二輪車は、女子大生が所持しているものにしては武骨で、まるで刃物を連想させるようなデザインだった。
隼人はナビに従いながら、逸る気持ちを押さえベイエリアの指定された場所を目指す。
ちなみに着替える時間も惜しいと、隼人は御菓子司しろの制服姿のままだ。おっとり刀で駆け付けた沙紀も部屋着のまま。傍から見れば、どう見えるのやら。
都会の車道は、月野瀬とは比較にならないほど交通量が多い。
すぐ隣を走る自動車に圧を感じ、緊張からグリップを握る手に汗が滲む。
しかし、隼人のすぐ後ろには沙紀が乗っているのだ。
沙紀は隼人を信頼し、しがみ付いて身体を預けてくれている。隼人は情けない姿は見せられないなと苦笑し、バイクで都会の空気を切り裂きながら軽口を叩く。
「実は俺、こうやってバイクで外を走るの初めてだから、ちょっとドキドキしてるわ」
「えっ、初めてなんですか!?」
「あぁ、二輪の実技は教習所内だけでだからさ、路上教習とかないし」
「てことは、私がお兄さんがバイクに乗せた初めての相手ってことですねっ」
沙紀はどこか機嫌の良さそうな声を上げ、隼人の腰に回した手に力を籠め、ぎゅっと身体を押し付けてくる。すると必然、沙紀の思いのほか柔らかな感触を味わうことになり、今度は違った意味でドキドキしてしまう。
隼人はそれを誤魔化すように、お茶らけたふうに言葉を続けた。
「あと免許取って1年経ってないから、本当は2人乗りしちゃいけないんだよな。だからそれもあって、二重にドキドキだ」
「あはっ、いけないんだ」
「まぁ沙緒莉さんもわかっていてバイク貸してくれたし、今は緊急事態ってことで。何かあったら春希のせいにしよう」
「そうですね。1人で勝手に行っちゃった先で何かやらかした、春希さんが悪い!」
そう言って隼人と沙紀は愉快気な笑い声を上げる。
目的地が近付くにつれどんどん自動車の数も増え、混雑していく。
それだけ春希のイベント目当ての人たちが集まっているようだった。渋滞している車の列を隙間を縫うようにバイクを走らせる。こういう時、身軽な二輪は便利だ。
ベイエリアを視認できるところまでくると、遠目に黒山の人だかり見えてきた。
多くの人が電車等の公共交通機関を利用しているようで、駅からベイエリアのイベントステージに向かって歩いている。路上には彼らを目当てにした露店がいくつも立ち並び繁盛しており、お祭りさながら。
隼人が今まで見たことのない規模の数だった。ギョっとしてしまうような人の多さだ。一体どれくらいの数がいるのだろうか。
今まで都会に出てきて、人の多さに圧倒されたことは多々あった。
いくつかイベントにも参加し、ある程度慣れたとも思っていた。
しかし、これほどまでの規模のものは初めてだ。
彼らの熱気がまだ離れた車道にいるこちらにまで届き、ごくりと喉を鳴らす。
そして沙紀が少し硬い声色で呟いた。
「あそこにいる人たちって皆、春希さん目当てで来てるんですよね」
「あぁ、そう考えると春希ってすごいんだなって実感する。さすがにここまでの人が集まってるの見るの、初めてだし」
「私もです。月野瀬での神楽や学校とは文字通り人の数が桁違い。しかも皆、お金を払ってまで春希さんを見たいと思っているんですよね」
「それで実際、彼らの期待に応えちゃうってのが春希なんだよなぁ」
「で、その春希さんはトラブルがあって困ってる状況だというのに、私たちに助けを求めてこないと。入学式の時、何かあったら頼ってって言ったのに!」
それまでしみじみと感心したふうに言っていた沙紀だったが、急に拗ねたように唇を尖らせる。
隼人は一瞬、虚を衝かれたように目をぱちくりさせた後、沙紀の言う通りだと、先ほど怖気付いてしまった自分を笑い飛ばす。
「ははっ、そうだよな! こういう時こその、俺たちだろうに!」
「ホントですよ、茉莉ちゃんにも心配かけちゃってさ!」
気を取り直した隼人と沙紀は、茉莉に指定されたイベント会場の裏手に向かう。
するとそこで、警備員と思しきスタッフに誘導灯で制止される。
「止まって。あーその、君たちは?」
「あー……」
返答に困る隼人。
今の自分たちの姿を見なおせば、和菓子屋の店員の格好に、部屋着姿の女子高生。
少なくともイベントスタッフの関係者には見えない。
ましてや春希や茉莉の名前を出しても、信用してくれという方が難しい。
沙紀が慌てて茉莉に連絡を取ろうとしてスマホを取り出したところで、アイドル衣装の上にウィンドブレーカーを羽織った茉莉が現れ、大声を上げた。
「待って! その人たち、私の大事な友達なの!」




















