367.テスト結果
この日、中間テストの成績票が配られるや否や、教室には悲喜交々の声が広がった。
そんな中、隼人は受け取った成績票を見て、密かにガッツポーズをする。
251人中、28位。これまで平均点あたりだったことを考えると、大躍進だ。勉強に力を入れるようになったのは、姫子の受験結果に触発されたというのも大きいだろう。兄として、妹に負けていられない。それに来年は受験だ。成績が良ければ、それだけ選べる大学の幅が広がる。選択肢は多い方がいい。
隼人が自分の席に戻ると、やけに機嫌のいい伊織がやってきた。
「聞いてくれ、オレ今回赤点無しだったぜ!」
そう言って得意気に見せてきた伊織の成績票を見ると、173位の数字。
隼人は目を丸め、感心したように言う。
「すごいな伊織、順位もかなり上がってるじゃないか」
「おうよ、いつも下から30番以内だったからな!」
「それは威張れることじゃないだろ」
「ははっ。で、隼人はどうだ――え、うそ!?」
隼人の手からひょいっと取り上げた成績票を見て、伊織は驚愕の目を向けてくる。
それに対し、隼人はにやりと笑う。
「俺もちょっと、勉強に本腰を入れようと思ってな」
「ぐぬぬ」
伊織が悔しそうに歯軋りをしていると、通りかかったみなもが声をかけてくる。
「隼人さんに森さんも、成績を伸ばして何よりです。私は少し下げてしまいまして……」
「お、三岳さんはどうだったんだ?」
「えっと、これです……」
下がったという言葉を聞いて、どこか嬉しそうな顔をする伊織。隼人は伊織のやついい性格だなと思いつつ一緒になって、みなもがおずおずと差し出してきた成績票を覗き込み、そして感嘆の声を上げた。
「へぇ、39位。下がってこれってことは、いつもは?」
「一応、ずっと30位以内をキープしていましたので、内心ちょっとショックでした。けど隼人さんと森さんが頑張ってるのを聞いたら、私も負けてられませんねっ!」
そう言ってむんっと胸の前に両手で握りこぶしを作るみなもに、隼人は挑発的な笑みを浮かべて言う。
「じゃ、俺は次回も勝てるように頑張らないとな」
「ふふっ、今度は負けませんよ」
「くっそー、隼人も三岳さんも雲の上の会話をしやがって……ってあれ、一輝?」
隼人とみなもが闘志を燃やす隣で、少し疎外感を覚えた伊織が拗ねたように悔しがっていると、ふいに怪訝な声を上げた。一体どうしたことかと思って伊織の視線を追えば、成績票を手に固まる一輝の姿。
それを見たみなもが、不思議そうに呟く。
「あれ、一輝さんどうしたんでしょう?」
「さぁ? とりあえず面白い顔をしてるから、写真に撮っとこ」
隼人は反射的にすかさずスマホを構え、パシャリと鳴らす。
一方、一輝の普段は見せない姿を怪しんだ伊織は、近寄って気遣わし気に肩を叩く。
「おーい、どうしたんだ一輝?」
「っ! あぁ伊織くん。なんでもないよ、なんでも、うん」
すると我に返った一輝は慌てながら成績票を後ろ手に隠す。
それを見た伊織の目が、きらりと光る。
「へぇ、なんでもない、ね。で、成績の方はどうだったんだ?」
「うん、特になにもないから。いつも通り?」
「なら見せてくれよ」
「い、いやぁ、ちょっと恥ずかしいというか……」
のらりくらりと言い訳を口にして、じりじりと伊織から距離をとる一輝。
伊織はにやにやしながらにじり寄り、隼人とみなもは顔を見合わせ苦笑い。
一輝は明らかにまずいといった表情をしている。いつもはどこか飄々としているのに、ここまで感情を露わにするのも珍しい。少しばかりの興味と悪戯心も湧くというもの。
隼人はみなもの少し困ったような視線を受けつつ、伊織に注意が向いている一輝の背後にこっそり忍びより、ひょいっと成績票を取り上げた。
「隙ありっ」
「は、隼人くんっ!?」
「どれどれ…………え?」
そして中身を確認した隼人も、一輝同様まずったなといった表情で固まってしまう。
隼人の反応を見た伊織とみなもやってきてその手元を覗き込み、2人もまた、頬を引き攣らせて言葉をなくす。具体的な数字を口にするのも憚られるほど、散々な結果だった。
一輝は羞恥で顔を赤く染め、目を逸らしている。
気まずい沈黙の中、隼人は気を使いながらも言葉を選ぶ。
「あーその、モデルの仕事がそんなに忙しかったか?」
「そ、そうだね。思いの外、仕事で覚えることが多くて、手が回らなくなって」
「お、おぅ。けどなんていうか、補習まみれになるとモデルの仕事に支障でないか?」
「うぐっ」
痛いところを衝かれ、二の句を告げなくなる一輝。なんだかんだ、高校生の本文は勉強なのだ。一輝もそれがわかっていたからこそ、先ほどの反応なのだろう。
如何ともしがたい空気の中、みなもが流れを変えようとポンっと手を叩き、明るい声を上げた。
「そ、そんな忙しい中、勉強の方もしっかり結果を出してる春希さんって、すごいですよね」
「確かに。1年3学期の時も、1位掻っ攫ってたしなぁ」
伊織もまた、感心した声で答える。するとみなもも、しみじみといったふうに呟く。
「今回もきっと1位なんでしょうね」
「ははっ、芸能仕事と両立するコツがあったら教えて欲しいね」
そこへ一輝が肩を竦めながら呟くと、隼人はごく自然な感じで提案した。
「なら、これから直接本人に聞きに行こうぜ」




















