359.成長
昼休みを迎えた校内は、どこか陶然とした空気の中、熱気が渦巻いていた。
誰も彼もが話題にしているのは、昼休み前に行われたサプライズイベントについて。
伴奏もなしに存在感を見せつけ魅了する春希の歌、それに負けじと惹き付けられる沙紀の舞が作り上げた世界は、見る者全ての心を奪った。今なお皆の意識に鮮烈に焼き付いており、そのことを話さずにはいられないようだ。
春希は一足先に、一緒に出演した沙紀と恵麻と共に、入学式と同じく応接室へ向かったらしい。隼人と一輝、伊織とみなもは、春希たちと少し遅れる形で応接室へ訪れる。
周囲に見られていないことを確認しながら隼人がドアを開けると、そこでは沙紀が興奮気味の恵麻と春希に詰め寄られていた。
「沙紀ちゃん、さっきの何!? めっちゃ凄かったんですけど!」
「ボクも本気で驚いたよ! ボクの全力に返してくれる人なんて芸能界でもめったにいないし、っていうか沙紀ちゃんって、ああいうのも踊れたんだ!?」
「実は春希さんがデビューして以来密かに練習していまして、いつかどこかで驚かせようと思ってたから、うまくいってよかったというか……あ、他の皆さんもやってきたようですよ?」
2人からの称賛を受けて顔を真っ赤にしていた沙紀は、こちらに気付くや否や水を向けてくる。照れ隠しのようだ。春希が沙紀たちとこれまでと同じような、和気藹々とした空気を醸していることに胸を撫で下ろす。
しかし隼人が何て答えるか躊躇っていると、代わりに伊織が片手を上げながら言う。
「いっや~、オレも巫女ちゃんの意外な特技には腰抜かされたよ~」
「はい、私も見とれちゃいましたっ!」
続いてみなもも前のめりになって言葉を続ける。
そして一輝は苦笑しつつ、ある懸念を口にした。
「僕も言葉もなく見入っちゃったよ。けど盛り上がったのはいいけどさ、さっきの絶対誰かが動画に撮ってるだろうし、明日には大騒ぎになってるかも」
確かに一輝の言う通りだ。隼人も困った顔をして「あー」と口の中で母音を転がす。
他の皆も「ありえそう」「てか確実になる」と言いながら、どうするのかと問いかけるような顔を沙紀へと向ける。
当の沙紀はといえば、眉を寄せながら少しピントのズレたことを言う。
「あぁ、春希さん人気者ですもんね」
「いや沙紀さんのダンス、春希よりすごかったから」
「……へ?」
隼人が思わずツッコミのように先ほどの沙紀を評価を口にする。他の皆も同意とばかりにうんうんと何度も頷く。
面食らった様子で目をぱちくりさせる沙紀に、春希もまた少し悔しそうに肯定した。
「うん。こと躍ることにかけて、沙紀ちゃんはボク以上だと思う。確実にSNSとかでバズるんじゃないかな? ボクの傍で躍ってる子は誰だー、って」
「そうですかね?」
「そうだよ。まぁただバズるだけなら、ボクとしては大歓迎なんだけどね」
皆も「まぁそうなるだろうね」「目に見える」と春希に同調している中、沙紀は今ひとつピンと来ていない様子。
隼人は自分のしたことの重大さを理解していない沙紀に苦笑しつつ、心に引っ掛かった春希の言葉を、少し寂し気に口にした。
「バズるのが歓迎って、春希も変わったな」
「そりゃあ、ボクというコンテンツをさっさと消費して飽きられて、一般人に戻りたいってのがあるからね」
しかし春希は隼人の様子を気にした様子もなく、あっけらかんと言って片目を瞑る。
自らの作戦を述べる春希に、隼人は目をぱちくりさせながら相槌を打つ。
「へぇ、なるほど。そうだったんだ」
「他にも手っ取り早く人気になって、お母さんの前に立ちたいって狙いもあるけど」
「それって共演するってこと?」
「うん。それでボクの力を直接認めさせたいんだ」
「…………そっか」
どこか遠くを見るように目を細める春希。
隼人はさらりと反応しつつも、色々なものが腑に落ちた。そしてようやく、なりふり構わずアイドルとして芸能界を突き進む、春希の目的を理解する。
そして春希は視線を沙紀へ戻し、腕を組んで困ったように呟いた。
「それより沙紀ちゃんだよ。桜島……ボクのマネージャーなら確実に目を付けるだろうし、色んなところから声を掛けられるかも」
「あ、それなんですけど春希さんの方で同じ事務所に入るつもりだとか喧伝して、色々誤魔化せたりできませんか?」
「へ? むむむ……できなくは、ない……かも?」
「なら、何とかして下さい。もしこちら話をしてくる人がいたら、春希さんの方に聞いてくださいって言いますからね? これまでずっと連絡取れなかったバツです」
どこか咎めるように言う沙紀に、春希は虚を衝かれたように目を瞬かせた後、しょうがないなと苦笑い。
「わかった、なんとかするよ」
隼人はまたひとつどこか図太くなった沙紀に、何とも言えない曖昧な笑みを向けた。




















