356.惚気みたいだな?
玉入れの玉を所定の場所に届けた後、隼人と一輝はそれぞれ白泉先輩の指示に従い、球技大会が滞りなく進むよう力を尽くす。とはいえ初めてのことで戸惑うことも多いが、それでも周囲と協力してなんとか裏方作業をこなしていく。
グラウンドや体育館では、手に汗を握る試合が展開され、熱気が渦巻いている。
順調にプログラムは消化されお昼が近付く中、隼人が次の指示を仰ぐべく本部に向かっていると、周囲がやけにピリピリしていることに気付く。
一体どうしたのだろうか? 得点票の数字板が足りないなど多少のアクシデントがあったものの、十分リカバリーできたし、特に問題らしい問題は起こっていないはず。
隼人が首を傾げていると、そわそわした様子の伊織がやってきて寄りかかるように弱々しく隼人の肩を掴み、大きなため息を吐いた。
「はぁ、さすがにオレも緊張してきた」
「そうか? 俺は多少慣れてきて、気を揉むこともなくなってきた感じだけど」
隼人が不思議そうに答えると、伊織は目をぱちくりさせた後、呆れたように笑う。
「おいおい、午前最後のプログラムが何か忘れたか?」
「有志による応援合――あっ」
そこではたとあることに気付いた隼人は、息を呑む。
午前中、最後のプログラムは応援合戦。赤白青黄各組のものに生徒会主導の有志による全員に向けてのものがある。そこで春希が、サプライズで登場するイベントでもあった。
現在、春希はまだ学校に姿を見せていない。
また、生徒たちも春希たちが忙しいということもわかっている。レアキャラなのだ。
しかし球技大会というイベントに、春希の登場を期待している空気があるのも確か。
よくよく思い返せば準備を手伝っている最中も、「例の先輩来るのかな?」「入学式みたいなの頼む!」「来なきゃ嘘だよねっ」といった声を耳にしていた。
隼人は少し気恥ずかしそうに呟く。
「……準備に手いっぱいで、そのことすっかり頭から抜け落ちてたわ」
すると伊織がどこか気の抜けたような様子で、愉快げに隼人の肩を叩く。
「一度目の前のことに夢中になると、他のことが見えなくなる隼人らしいな」
「え、俺ってそんなイメージある?」
心外とばかりにしかめっ面をする隼人に、伊織は呆れたように苦笑い。
「そりゃ二階堂の素性がバレて芸能関係者とかに待ち伏せされてた時、北陸まで連れ出したくらいだし? あ、三岳さんを親父さんと仲直りさせるために新幹線に飛び乗ったこともあったな。他にも――」
「うぐっ……」
身に覚えのあることを指摘され、二の句を告げなくなる隼人。
伊織はくつくつと笑いを堪えながら肩を揺らす。
「ま、オレはそういうところ隼人らしくて好きだけどな」
「そりゃどうも。けどわからんな……陣頭指揮を執ってる白泉先輩たちが緊張するのはわかるけど、なんで伊織まで」
隼人が不貞腐れたように答えると、伊織はやれやれと肩を竦める。
「おいおい、メインはあくまで二階堂だけどそれだけじゃないだろ? ほら、巫女ちゃんが言い出しっぺの」
「あぁ、アレか。それがどうした?」
隼人がいうアレこと生徒会主導有志の応援パフォーマンスは、春希の曲に合わせたダンスだ。振り付けはPVで春希と茉莉が躍っているものに多少のアレンジを加え、大人数でも見栄えのいいものにしたもの。衣装だって、チア服で揃えているのだとか。放課後、運営の有志の面々が集まって、グラウンドの片隅で練習したのを覚えている。
だけど、出るのは全員女子だ。この本部近くでピリピリした空気を醸しているのは、出番を控えた人たちのものだろう。
隼人が首を捻っていると、伊織はごく真面目な顔で不安そうに呟いた。
「いや、恵麻が出るからさ。家に帰ってからもずっと練習付き合ってたし、いざ本番となるとな……」
「なるほど、彼女がちゃんとできるか気になって、と」
「心配なもんは心配なんだよ! 他にも、これを機に恵麻に惹かれて寄ってくる男とかいたらイヤだしっ」
「って、惚気かよ!」
「うるせーっ、前にもあったからしょうがないだろっ!」
「あー、それは……すまん」
隼人はかつて、恵麻が伊織と付き合っていることを知らない男子バスケ部の先輩に告白された件で2人がギクシャクしたことを思い返し、バツの悪い顔で謝る。
すると伊織はむず痒い顔をして「はぁ」と大きな息を吐いた後、揶揄い混じりの声を隼人へ向けた。
「そういう隼人は、巫女ちゃんのことで心配とかないのかよ?」
「ん~、沙紀さんがダンスで失敗する姿なんて想像できないからなぁ。昔から祭りで舞台に立ってるの見てきてるし。どちらかというと、楽しみの方が勝ってるわ」
少しわくわくした様子で返事をする。それは隼人の偽らざる本音だった。
しかし伊織は呆れたように苦笑を零した。
「ふぅん、やけに自慢げというか……そっちも惚気みたいだな?」
「はぁ? なんだよ、それ」
「別にー?」
思わぬ返しに、素っ頓狂な声を上げる隼人。
伊織は何かを見透かしたかのようにニヤニヤしており、隼人はガリガリと頭を掻く。
確かに伊織の言う通り、自慢げといった感情に心当たりがないわけじゃない。
月野瀬でいつも見てきた沙紀の神楽舞は、本当に見事なのだ。沙紀はそれを都会で披露したことがないので、皆はその姿を見たことがないだろう。
きっと沙紀のダンスを見た人たちは、魅入られるはず。
沙紀は神秘的な見た目だけでなく、そうした舞に対する技術も持っている、最近は積極性もよく見せて輝く魅力的な女の子だ。今回の応援合戦のダンスに関しても沙紀の発案である。
そんな沙紀を好ましく思うのは当然だ、1人の人間としても尊敬している。
皆に沙紀の凄さを知って欲しい。そんな気持ちが確かにある。
だからそれを惚気と言われても、複雑な思いがあった。
隼人はむむむと難しい顔を作っていると、その背中を伊織がポンっと叩く。
「っと、呼ばれてるみたいだ。オレたちも行こうぜ」
「あぁ」




















