354.疑問
それからというもの、球技大会当日まで隼人たちは、白泉先輩と共に準備に奔走した。
球技大会はクラスごとに赤白青黄の4つの組に別れ、それぞれ得点を競い合う。
競技はソフトボール、バスケ、サッカー、バレーボール、卓球、バドミントンといった普段体育の授業でも行うスポーツだけでなく、玉入れやくす玉割り、大玉転がし、スプーンリレーといったボールを使ったバラエティ色の強いものもある。
ちょっとした体育祭みたいなものだ。
確かに盛り上がり、交流を促し、親睦を深める一助になるだろう。
しかしその分、運営する生徒会と体育委員たちの負担も大きい。
実際手伝い始めると、備品のチェックだけでなく、参加者の申請書類やプログラムの作成、当日の持ち回りなど事務方の仕事も多く、目の回るような忙しさだ。
白泉先輩が声をかけてきた理由がよくわかった。猫の手も借りたいということわざの意味がよくわかるというもの。
そして慌ただしさに追われているうちに、あっという間に球技大会当日が訪れた。
空はからりと晴れ渡り、雲ひとつない晴天。
頬を撫でる風も心地よく、過ごしやすい陽気。
まさに行楽日和、球技大会に申し分ない天気。
『それでは、今年度の球技大会を始めま~すっ!』
白泉先輩のやけに軽い調子の開会の宣言を発端に、球技大会が始まった。
早速各所から歓声が上がり、白熱した試合が繰り広げられている。
誰もが競技に夢中だ。
その様子を見て、隼人は相好を崩す。準備に駆け回った甲斐があったというもの。
とはいえ球技大会は始まったばかり、当日もやることは多い。隼人が次のプログラムの準備のため旧校舎にある資材置き場へ足を向けると、背中に声をかけられた。
「僕も手伝うよ、隼人くん! 何をすればいい?」
振り返ると、手を上げながら駆け寄ってくる一輝の姿。
「いいのか? 俺としては助かる。玉入れようの玉を取りに行くところだったんだ、運ぶの手伝ってくれ」
「オッケー。準備の時は手伝えなかったから、これくらいはね」
「しょうがない。一輝はデビューしたてで、結構忙しいんだろ?」
「まぁね」
困ったように眉根を寄せる一輝。隼人も「だよな」と鼻を鳴らす。
2人で人気のない通路を歩く。
今まで通りのやり取り。まるで何も変わっていないと錯覚してしまう。
しかし先日、一輝はモデルデビューを果たした。MOMOの弟ということで、世間でもそれなりに話題になっている。
校内でも春希の人気に隠れてはいるものの、最近は1年の女子たちやファッションやオシャレに敏感な人たちを中心に、姉のMOMOと関連付けて話題に上ることも多い。そのことでやきもきした高倉柚朱先輩が、隼人たちのクラスにちょくちょく様子を見に来るほどだ。
学校ではこれまでと変わらず登校し、授業を受けている一輝だが、放課後になるとすぐに帰る。モデルとしても仕事があるからだ。
そのことがあるからサッカー部も辞めたし、御菓子司しろの手伝いも来られなくなった。休日一緒に遊ぶのも、当分の間は無理とのこと。
ゆっくりと、だが確実に一輝との関係も変わりつつあることを感じている。
一輝のモデルの話を聞いた時は寝耳に水、話を持ってきた姫子も相当驚いていた。
あの時はすぐさま一輝に電話をかけてどういうことかと訊ねるも、百花や羽衣の伝手とコネでやることになった、学業優先だからこれまでと変わらないと、やけに軽い感じで返されただけ。そしてすぐさま春希の情報を集められるかもと言われれば、意識はそっちの方に持っていかれた。
色々、そのあたり誤魔化されている感覚はある。
やがて旧校舎が近付くにつれ、球技大会の喧騒が遠くなっていく。
ちらりと横を見れば、一輝は相変わらず涼し気な顔をしている。
しかしここ最近、一輝は時折今まで見せたことのない、やけに思い悩むような、真剣な顔を見せることにも気付いた。モデルの仕事を始めてからと時期が重なれば、そこと紐付けて考えるのもごく自然なことだろう。
これまで春希のことでいっぱいいっぱいで気に掛ける余裕はなかったが、少し余裕が出来て一度気になってくると、モヤモヤが湧いてくるというもの。
旧校舎の資材置き場に着き、玉がどこにあるのかを捜し始めたタイミングで、隼人は思い切って一輝に訊ねてみた。
「あのさ、何で急にモデルなんて始めたんだ?」




















