352.主のいない秘密基地
昼休み、旧校舎にある秘密基地。
隼人と沙紀、みなもは胸焼けしそうな顔でお昼を食べていた。
その原因は目の前で2人の世界を作り上げている、伊織と恵麻。
「ごめんね、いーちゃん。今日は冷凍ばっかりで」
「オレは恵麻特製のだし巻きさえありゃ、大満足だけどな。うん、この味。うまい」
「ふふっ、いーちゃんの好物だからね。せめてこれだけは、と思って」
「けど、これだけでも結構手間なんじゃないか?」
「でもいーちゃんに喜んで欲しいから」
「恵麻……」
「いーちゃん……」
伊織と恵麻はデレデレした顔で見つめ合う。2人の瞳に隼人たちは映っていない。
高校2年に進級してから、恵麻は伊織の分のお弁当も毎日作ってくるようになった。
別のクラスに別れてしまった分、顔を合わせられるお昼時間をより充実したものにしたくて始めたそうだ。
その効果のほどは見ての通り。交際期間が長い割りに、未だドギマギ緊張してしまうところがあった伊織と恵麻は、周りの目がないこともあってこれまでの2人と比べて一気に距離が縮まっている。ちなみにこのまま放っておくと、最近は高確率で食べさせ合いに発展し、目のやり場に困ってしまう。
隼人としても友人の伊織と恵麻の仲が睦まじいのは喜ばしいことではあるものの、こうも毎日いちゃつかれると、初々しい2人を返してくれと言いたくなるもの。
「「「はぁ……」」」
それは沙紀とみなもも同じの様で、こそばゆくも呆れたため息を重ねる。
よく見ればそれぞれの弁当はあまり減っておらず、顔を見合わせ苦笑い。
その時、本校舎の方からワァッ! という歓声が聞こえてきた。それを合図にして明らかに学校内の空気が変わったのを肌で感じたみなもが、感情の読めない硬い声で呟く。
「どうやら、春希さんが登校してきたようですね」
「そう、みたいですね。今日はお昼休みだから比較的ましといいますか……」
沙紀が困った顔で応え、隼人も眉を顰めて同調する。
そして2人の世界から戻ってきた伊織が、感心したように言う。
「いやぁ、二階堂が来るとわかりやすいよなー。一度授業中に来た時、騒ぎで授業にならなくなったことあったっけ」
「ありましたね。春希さんとしても予想外で、それ以来なるべく休み時間に来るようにしてるって言ってましたし」
沙紀が答えると、みなもが「大変ですね」と肩を竦める。
「ま、うちのクラスにまでわざわざ覗きに来る人がいないのが救いかな。ドル研さまさまだよ」
恵麻がお茶らけたように話を繋げば、皆からなんともいえない笑いが零れる。
そして隼人は少し不貞腐れた顔で、大きく息を吐く。
「春希もお昼くらい、秘密基地で食べたらいいのにな」
「でも春希さんがここへ来ると、秘密にしてるこの場所がバレかねないですから」
すると沙紀が宥めるように言葉を返す。
沙紀の言うことも、もっともだった。
皆の注目を一心に集めている春希は、どこに行っても誰かの目が付いて回る。
興味本位で後を付ける人も多いだろう。追跡を躱すのも難しい。そうなると、この場所がバレてしまう。
隼人は憮然とした顔で呟く。
「やれやれ、人気者も大変だな。春希が見つけた避難場所なのに、避難できないなんて」
他の皆も苦笑する。
するとその時、ガラリと入り口のドアが開いた。
「ごめん、遅れた! 途中、色々つかまっちゃって……」
やってきたのは、購買で手に入れた総菜パンと紙パックの紅茶を抱えた一輝。
半月前、突如MOMOの弟としてモデルデビューをした一輝もまた、校内を騒がす有名人だ。もっともタイミングが春希の入学式と重なったこともあり、一輝本人いわく春希の人気に遠く及ばないとはいえ、特に女子の間で噂になってるのをよく耳にしている。
隼人は少し意地の悪い声で揶揄う。
「どうした一輝、途中でサインや握手でもねだられたか?」
「似たようなもんかな、一緒に写真を撮ってくれって、5人くらいの子のグループに掴まってた」
「……マジか」
ほんの冗談のつもりだったのに、本人から肯定されて驚く隼人。伊織もヒュウっと口笛を鳴らす。
そして一輝の背後からひょいっと、ドヤ顔の白泉先輩が飛び出した。彼女は少し気取ったポーズを決め、芝居がかった口調で嘯く。
「そこを通りかかった私が、ササーッと助けてあげたってわけ!」




















