349.〝運命くん〟
これでもかと目を大きく見開き、驚愕の声を上げる春希。
一輝は飄々とした表情でにこりと微笑む。
いきなり現れた一輝に、彼は驚きつつも訝しみ、茉莉は状況がよく呑み込めず目をぱちくりさせている。
そしてすぐさま我に返った彼は不機嫌さを隠そうともせず、一輝の肩を掴んだ。
「おい、誰だよお前っ。見たことない顔だな? マネージャー……にしては慣れなれしすぎやしないか?」
「彼女とは同じ高校の友人でね。皆からも頼まれてるんだ。変な虫が付かないようにって」
「なっ」
彼は一輝からの変な虫という言葉にカチンときたのか、あからさまに顔を不機嫌に歪める。
それもそうだろう。人気絶頂のアイドルの、たかがクラスメイトごときが自分の行動を妨げられれば、プライドを刺激されるというもの。
みるみる顔を赤くした彼が一輝に掴みかかろうとしたその時、横から明るい声を掛けられた。
「やほー、はるぴ!」
「姉さん」
「MOMOっ……え、姉……っ!?」
声の方へと目を向ければ機嫌良さそうに手を振りながらこちらへやってくる、美貌では春希以上の華やかさがを誇る一輝の姉でもある、カリスマモデルMOMOこと百花。
「もぅ待ってください、ももっち先輩!」
「まったく、あの子は落ち着きがないんだから」
続いて百花の後ろからやってくるのは同じく人気モデルの佐藤愛梨、そして最近女優としても売り出している逢地羽衣。皆、彼と同じく10代女子に支持されるモデルに女優たちだ。そして彼とは比べ物にならないほどの人気を誇っている。
彼もそのことはわかっているのだろう。思いもよらぬ3人の登場に虚を衝かれ頬を引き攣らせ、固まってしまっている。茉莉だって信じられないと、口に手を当てあわあわしていた。
そんな彼に一輝がにこりと爽やかな笑みを浮かべ挨拶をする。
「初めまして僕はKAZU、MOMOの弟です。今度デビューする新参者なのでよろしくお願いしますね、先輩。ええっとお名前は――」
「え、あぁオレは――」
彼は一輝、正確にはその背後にいるMOMOや愛梨、羽衣に気圧されながら答えようとしたその時、百花が「あ!」と大きな声を上げた。
「思い出した! この人、〝運命くん〟じゃね?」
「運命くん?」
一輝がよくわからないなといった疑問を投げかけると、百花は嫌悪を露わにして言う。
「こいつさ、うちらの後輩の子たちに手を出しまくってんだよね。その時の口説き文句が『もしかしてキミ、オレの運命の人だったりしない?』。それでついたあだ名が運命くん。だよね、あいりん?」
「ですね。私も相談受けたことありますし」
「あぁ、運命くん。私も聞いたことあるわ。新人の子で断り切れなくて泣き寝入り……なんてこともあったとか。その辺のこと、いい機会だからぜひ、お話したいわね」
「そ、それは……っ」
どうやら彼は、多方面で色々とやらかしているようだった。
彼は百花、愛梨、羽衣という自分よりも人気を誇る3人から詰め寄られ、顔面蒼白。
一輝はこの隙を見逃さず春希と茉莉の手を取り、すかさずこの場を離れようと促した。
「行こう、二階堂さん。それから……えっと、茉莉ちゃんも」
「わっ!」「ぇ、はいっ!」
やがて一輝に連れられる形で、春希たちはホールへとやってくる。
ここまでくると、彼を問い詰める声も随分と小さい。
それに周囲の目もないことを確認し、ホッと胸を撫で下ろす。
一輝はエレベーターの降りボタンを押しながら、明るい声で言う。
「さっきは災難だったね」
するとその言葉で気を取り直した茉莉が、たどたどしく一輝に礼を述べる。
「あ、ありがとう、ござい、ました……っ」
「ふふっ、どういたしまして。ま、なんとかしたのはほとんど姉さんたちだけどね」
「そのえっと、あのMOMOの弟さん、なんですかっ!?」
「そうだよ。といっても、僕自身は何のとりえもないけど。完全に姉さんのコネ案件」
前のめりになって訊ねてくる茉莉に、一輝は苦笑しながら肩を竦める。
ちょうどその時、エレベーターが到着を告げた。
一輝に中へ促されたところでようやく我に返った春希が、怪訝な顔をして呟いた。
「……海童、どういうこと?」




















