表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件【2026年アニメ化決定】  作者: 雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定
第1章 ~俺の前でだけ昔のノリって、いや、ちょっと!~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/350

14.隼人のアホ――ッ!!

5話に、隼人と春希の「貸し」についての補足説明が強化されています。

読まなくても問題ありませんが、読めばより理解が深まると思います。


 ある日の放課後、最寄りのスーパー。

 そこで隼人は最近聞きなれつつある、鈴を振るような声を聞いた。


「あ」

「……よ、よぅ」


 口から洩れるのは、バツの悪そうな返事。

 それもそのはず、隼人は見られたくない姿を晒していた。

 文具や玩具を扱うコーナーの一画で腰をかがめ、一心不乱に物色している姿である。


「……食玩?」

「いやその、これはだな……」


 それはもう、じっくりと吟味している姿だった。

 1つ1つを手に取って目当てのモノがあるかどうか振ってみたり、箱の上から何かわからないかと指で押してみたりと、どこからどう見てもガチの姿である。

 そして、こんな面白いものを見逃す春希でもない。彼女の目は、面白いおもちゃを見つけた子供のようにいい笑顔を作る。慌てるのは隼人だ。


「こ、こんなとこで奇遇だな! 学校の外で出くわすなんて変な感じというか、制服姿ってことは学校帰りか?」

「ふぅん、恐竜の化石と鉱物の原石ね……そういや隼人って変わった石とか集めるの好きだったっけ」

「そ、そうだ、買い物が途中だった! いやぁ、早く買って帰らないとな!」

「ボク、昭和の駄菓子屋シリーズでジオラマ作ったよ」

「……………………マジ?」

「うん、マジ。これ見て」


 そう言って春希はスマホの画面を見せつける。

 木造の掘立小屋みたいな小さな店にコーラの看板が掲げられ、それっぽい駄菓子だけじゃなく、自販機、ガチャガチャ、アイスクリーム冷凍庫に虫取り網まで置かれてる。

 まさにザ・昭和レトロといった感じの駄菓子屋の画がそこにあった。


「って、これ村尾のばーちゃんの店じゃん!」

「そそ、思い出しながら作ったんだよね」

「凄いな、地面とか木とかまで……いったいどうやって?」

「百均。板に石粉ねんどにカラーパウダーといった材料からボンドにテープや筆といった道具まで全部揃うよ」

「すげぇ、百均! 本当にあるのか、都市伝説じゃなかったんだ!」

「駅前のビルにも……って驚くのそっち?!」

「いやその……うん、でも本当に食玩でこういうの作れるんだ……」

「苦労したよ~アイスクリーム冷凍庫が欲しいのにさ、ひたすらベンチばかりがたまっていって……うふふ……確率って何だろうってどれだけ考えたことか……」

「あのその、春希、さん……?」


 春希の目からサァーとハイライトが消えていき、虚ろな表情になる。しかし口元は笑ってる。明らかに尋常じゃない様子だ。

 隼人は本能的に、沼に引きずり込まれる自分を幻視した。背筋に薄ら寒いものを感じる。そっと食玩を棚に戻す。


「どうしたの? 買わないの? この田舎の祭り・屋台シリーズとかすごくそそられない?」

「よ、よーし、買い物! 買い物に戻ろうな、春希! な!」

「ああっ、食玩~っ!」


 そして強引に沼の住人(春希)の背中を押して、この場から引きはがす。

 食玩は沼である。隼人は深く、心に刻んだ。




◇◇◇




 その後、手早く買い物を終えた2人は店を出る。何だかいつも以上に疲れてしまっていた。


「ふぅ、危ない所だった……ボク、もう少しで新しい沼に沈みにいくところだったよ……」

「ほどほどにな……うん?」


 隼人の荷物はさほど多くない。

 今晩の筑前煮に足りない鶏肉やコンニャク、ごぼうの他には、メインに据える鮭の切り身くらいだ。小さな子供でも問題ない量である。

 一方春希は、両手が塞がれるほどに買い込んでいた。何度も荷物を持ち替えて、歩きにくそうにしている。

 だからそれは、隼人にとって当たり前の行動だった。


「ほれ、それ貸せ――って、結構重いな。そっちもな、っと」

「は、隼人?!」

「む? 残りは自分で持てよな」

「え、あ……うん」

「ってこれ、ほとんどが冷凍か。じゃあちょっと急ぐぞ」


 隼人は半ば強引に、だけど自然な感じで春希の荷物を取り上げ、家へと促す。


 春希は驚くと共にひどく困惑していた。

 今まで学校とかで荷物を持ってくれようとした人はいた。ただし、そこには必ず打算や下心が存在していた。今の隼人のように、ただただ困っているから手を差し伸べる――そんな風に接してもらった経験がない。


 事実、隼人にそんなものはなかった。

 もし月野瀬で春希のように荷物に困った人を見過ごせば、たちまち村中で後ろ指さされるようなネタを提供することうけあいだ。田舎の恐ろしいところだ。ただの身に染みた習慣なだけである。


 しかし春希にとってはそうでない。

 初めての経験に胸は驚きと喜び、戸惑いと疑問でない交ぜになってしまい、どうしたって隼人を意識させられてしまった。


「なぁ、いつもこんなに買ってるのか?」

「え、あの、うん。一度に大量買い置き派」

「そっか」

「うん……」

「……」

「……」


 しかしそこで会話が終わってしまう。

 無言のまま昔と同じように肩を並べる。頭1つ分差が出来てしまっている、そんな隼人の顔を、時折チラチラ見てしまう。

 しかし隼人は春希に気にも留めずに歩くだけ。いつもと変わらない横顔が、なんだか憎らしくすらあった。


 春希は何か言いたいけれど、このままでもいいような――そんな複雑な気持ちのまま夕暮れの道を行く。聞こえてくるのは互いの足音のみ。だけど妙に心地よい。


(まぁ、これも隼人だからかな)


 そして、明かりの灯らぬ自宅に到着した。

 この7年、出迎えてくれる人の居ない(・・・)、真っ暗な家だ。そこに隼人と一緒に帰る……なんだか不思議な気分だった。


「着いたな。どこに置けばいい?」

「カギ開けるから、玄関にでも置いといてよ」

「オッケー……じゃ、俺は帰るわ」

「あ、待って!」

「うん?」

「……あーいや、その……」


 それは咄嗟の言葉だった。意識しての言葉じゃなかった。

 しかしそれゆえに本音が混じったものになってしまっており、それが酷く春希を動揺させる。


「番号! そうだ、スマホの番号とか教えてよ! よく考えたらボクたちまだ連絡先交換してなかったよね!」

「あーその……ごめん」

「…………ぇ」


 その動揺を隠すように捲くし立てたものの、返ってきた言葉によって頭が真っ白になってしまった。

 まさか断られるとは思ってもいなかった。頭が状況を理解することを拒否し始め、心の奥に閉じ込めていた孤独が顔を出す。心臓が、張り裂けそうに軋みあげる。

 何か大事な何かが抜け落ちていくかのような錯覚さえあって、だから――


「俺、実はスマホ持ってないんだ……」

「隼人のアホ―――ッ!!」


 その安堵に変化した叫び声は、ひと際大きなものになるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 正しいラブコメディだと思う ラストが朴念仁主人公に対してドキドキしたヒロインの『主人公(なまえ)のアホー!』なんて正しすぎる
[良い点] いやぁ、その内彼女が美少女になっていく過程も描かれていくんでしょうが、深度が深い。 田舎から出てきたばかりの隼人君が変わっていない事との対比が・・・(笑) 最早、ネタで作られた作品では無い…
[一言] ためてるにゃーん?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ