第8章〜二人の距離〜
次に僕たちが着いた場所は、深海三千海里。
そういえばこの辺りでもよくパフォーマンスしてたなぁ。クリームちゃんってアイドルになってみたり、手すり使って木琴みたいに演奏したり。すっごく楽しかった。
「ね、星夜くんはこのアトラクションの見所、知ってる?」
「あ、ライト動かせるやつ?」
実際、僕自身このアトラクションには少し知識がある程度。ストーリーとかはほとんど知らないし、深海をポッドに乗って探検するって言う大まかなあらすじしかわからない。
「そうそう!それでね、座った座席の位置によっても見所ってちょっとずつ変わってくるんだけど、ライト、どっちが動かすか先に決めておこうと思って」
真由ちゃん、口ではそう言うけど顔にめっちゃやりたいって書いてある。
きっとそういうの出ちゃうタイプなんだろうなぁ。まぁそれでレバー動かしながら無邪気にはしゃぐ真由ちゃんの姿も見てみたいし。丁度いいか。
「そうだね。じゃあ真由ちゃんやってみたら?僕、真由ちゃんがどうゆうとこに興味があるのか見てみたいし」
「いいの?やったー!」
やっぱり。ここでもはしゃぐ真由ちゃん。
僕のこの裏の思いはつゆ知らず。そして、いよいよ僕たちの順番が周ってくるくる。
あ、また真由ちゃん自分の世界入ってる。
「あ、そろそろ順番回ってくるよ」
「はぁい」
「ねぇ真由ちゃんってさ、アトラクション待機時間とかに時々空中見て何か解説してる感じがするけど、一体誰に向かって話してるの?」
「え?内緒!」
内緒って…。うーん…気になるな…。
「まっ、そんなこと気にしないで乗ろ!」
「うわっ!」
そう言って真由ちゃんは僕をポッドへと手を引いて連れ込む。
ゴツンッ
「あいてっ!」
「あっ、ごめんねっ!」
イタタタ…おでこぶつけた…。このポッド屈まないと入れないのか…。
「へへ、ちょっとぶつけたぐらい大丈夫。気にしないで」
「でも…私が引っ張っちゃったせいだから…ほんと…ごめんなさい…」
「大丈夫だって。僕だってちゃんと気をつけてなかったんだし。そんなに何かお返しが欲しいなら、僕がデコピンでもすれば気晴れる?」
「えっ?」
ウソ。単純にやりたくなっただけ。
「ほーら行くよ。心の準備いい?」
「えっ、あ、うん」
ピシッ!
「イテッ!」
「ぷっ、ふふふ…!はい、これでおあいこ。もう恨みっこ無しね!」
「うん…」
すると、真由ちゃんがちょっと痛みが効いたのか少し涙目で僕の方をほっぺたを膨らましながら見てきた。
あ、痛かったかな?まぁ、恨みっこ無しだから異論はないでしょ。
そしてアトラクションが動き出し、深海へと出発した。するとポッドにルナ船長から無線が入った。
『これから、深海探索を始める。乗組員の諸君は、座席の前のレバーを使い、ライトで気になる所を徹底的に調べてくれ』
『イエッサー!』
その無線の指示通り、真由ちゃんは目を輝かせて点灯したばかりのライトを手元のレバーをカシャカシャと動かして、あちこちと調べ出す。
まるで好奇心旺盛な子供みたいだ。
そのまま暫く進むと、巨大な目のような物が現れた。相変わらず好奇心旺盛な真由ちゃんは興味津々で目のような物の中心部分にライトを当て続ける。
「すごーい、目みたーい!すごーい!動いたー!」
それって、目なんじゃないかな…。
「真由ちゃん、それって目じゃない?」
「え?」
『船長!何か巨大なものに掴まれて動けません!』
やっぱり。
『何!?直ちにモーターをフル稼働させて脱出するのだ!』
『ダメです!逃げられません!!』
「…真由ちゃん、一応シナリオだからね?落ち込まないでね?」
「…うん」
『仕方ない!こうなったら、電流を巨大生物に流し込んで脱出するのだ!』
ビリリリリリリリッッ!!
「真由ちゃん…っ!」
「えっ?」
僕は咄嗟の思いで真由ちゃんに抱きついた。
少しの間続いた耳をつんざくような轟音が止み、目を恐る恐る開くとポッド内は闇に覆われていた。完全に真っ暗、という訳ではないのだが、お互いの表情がやっと確認できる程度。ぎゅっと後ろから抱きしめた真由ちゃんの身体は、恥ずかしいのか、徐々に熱を帯びていっていた。すると、いきなり真由ちゃんが振り向く。僕との顔の距離、僅か一センチあるかないか。
だが、真由ちゃんは慌てて前を向く。
びっくりした…!口から心臓飛び出すかと思った…。
「せっ、星夜くん、どうしたの…?」
「つい…ビックリしたから…。守ってあげたくなって…。ごめんね…」
真由ちゃんは、ドギマギした感じでゆっくりと頷く。やっぱり、嫌だった…かな…。
「ごめん…今離れるね…」
「待って」
「え?」
「もう少しだけ…せめて灯り戻るまでこのままでいたい…」
…もしかして…真由ちゃんも僕と同じ気持ちだった…?今もずっとこうしていたいって思ってくれてる…?
「…もちろん」
僕がそう答えて真由ちゃんをひしと抱きしめる。と同時に灯りが灯る。
ウソ。ウソだ…!
そう思いながらも、僕の身体は自然と真由ちゃんから離れていく。多分、周りに人がいるという恥ずかしさと、僕の前の経歴から来る、見られたら、ということに関するプライドかも。悔しい…あと少し…真由ちゃんとああしていたかったのに…せめて、せめて今日中にもう一度だけでも…!
そんな想いを馳せる中、どんどんアトラクションは進んでいき僕たちはいつの間にか地上に着いていた。展開は良かったものの、僕の気持ち的にはかなりどんより。それを見兼ねた真由ちゃんが心配して僕に聞いてきたけど、それでわちゃわちゃ言ってもカッコ悪いし、適当にはぐらかしてしまった。
「…もしかしてさっきのまだ引きずってる?」
「……」
バレた。
「仕方ないよ、ここは人いっぱいいるんだし。それに何より忘れちゃいけないのは、まだ私たちは付き合ってないってこと。私も星夜くんのことすっごく大好きだけど、そんな早くには人の本質なんてわからないでしょ?だからまだ、お友達」
「…うん」
お友達…だって。お互いのこと好きなのに。それでもどうしてお友達でいなくちゃいけないんだろう?僕には真由ちゃんの本質なんてわかるのに…。例え、ここでくっつくことはできなくてもカレカノになることぐらいはしたいのに…。
「ね、いつまでもそんな暗い顔してたら折角のトラスト楽しめなくなっちゃうよ?だからさ、ポップコーンでも食べながらバーニクル・インサーション行こう?」
すると、真由ちゃんは少し微笑みながら僕にポップコーンを差し出してきた。そういえば…なんやかんやでポップコーン真由ちゃんが持ってくれてたな…。僕がやるはずだったコース決めも結局真由ちゃんがサポートしてくれてるし…。……この子いないとダメだなぁ、僕。
真由ちゃんから差し出されたポップコーンを幾つか口に放り込むと、ミルクチョコレートの甘く優しい香りが口の中でふわっと広がった。咀嚼すると、サクッ、サクッという音と共にポップコーンの香ばしい香りと共にミルクチョコレートの柔らかい甘みも広がってくる。僕にとってはその全てが彼女からの優しさのように感じた。
「…甘い、美味しい」
「でしょ?じゃ、一緒に行こ!星夜くん!」
そう言って真由ちゃんはバケットを抱えたまま満面の笑みを浮かべる。
「…うん!」
…やっぱり、僕はこの笑顔には……勝てないや。
そして僕たちはバーニクル・インサーションへと向かった。いざショップへと着くとTHE・潜水艦!って感じの雰囲気を醸し出してる感じが、また僕の心を掻き立てた。
働いてた頃もよくここには通ってたけど、遊びで来るのとパフォーマンスで来るのとじゃ、かなり景色って違って見えてくる。なんか…こっちの方が凄くキラキラして見えるな…。だからってパフォーマンスしてる時に見てたここはどんよりしてた訳じゃないんだけどね?
ショップの中に入ると、様々な商品が並べられていた。キーホルダーのような小物から、マグカップといった小物雑貨まで。品揃えは結構豊富みたい。
「ねぇ、真由ちゃんは何か買うの?」
「えっ?あー…私は…」
真由ちゃんは店内をぐるっと見回すと、お店の奥にあったスーベニアメダルの販売機に目を止めた。
「とりあえずスーベニアメダル一枚作ろうかな。記念に。他はゆっくり周ってみて気に入ったものがあれば買うって感じかな」
「わかった!じゃあ真由ちゃんの次、僕もやらせて〜!」
んー…この感じからすると真由ちゃんは相当なコレクターだな?いつからかはわからないけど、多分ザラザラ持ってそうな予感…。
真由ちゃんがメダルを作った後、僕も百円玉を投入しメダルを作る。
なんと言ってもこのメダル生成機の良いところは、これひとつと同じ形のメダルがこの世に存在しないこと。例え模様とかは一緒でもメダルの落ちるタイミングが〇・〇一秒でも違えば反り具合が微妙に変わってくる。それ以外でも熱された時の気温や湿度によっても状況は少しずつ異なっていく。だからこそ、良い。それは僕たち人間も…同じ。
カラン
メダルが完成し取り出し口に排出される。
たまにはこんなポエム的な論理的な考え事をするのも面白いもんだ。少なくともトラストで考えることではない気がするのだけれど。さてそれじゃあお店見て周ろうかな。何か気に入る物あるかな。
「なぁ、見ろよ。バナナ売ってんだけど。これ、お土産にしたらウケんじゃね?」
「いーねー!」
え?バナナ?
僕は思わず気になってさっき話してた男子高校生と思しき人たちのとこへと行ってみると、本当にバナナがあった。しかもリアル。
「えっ、すごっ、買ってこ…」
純粋にこのスペックが凄い。しかも中に入ってるのキャラメルだって。美味しそうじゃん?でもこれだけ買うのはなんかなーって感じするし…。そうだ。ちょうど今、持ち運び用の筆記セット新しくワンセット欲しいなって思ってたとこだし…ここで買お!
僕は商品棚からノートとペンの筆記セットをワンセット取り、レジへと向かった。
「すみません、これくださーい!」
「あっ、はい、えっと、ぷっ…。八百円です」
ん?この店員さん、ちょっとおどおどしてる感じがする…。どこぞやの僕のマネージャーのカッシーみたい。
「ありがとうございました」
商品を受け取り、真由ちゃんを探そうとお店の奥へと踏み出すと、真由ちゃんに後ろから声をかけられた。
「星夜くん」
あっ、丁度見終わったのかな?良いところに!
「あっ、真由ちゃん!見てみてー!ほらこれっ!バナナ!面白いでしょー、本物みたいでしょー?でも中に入ってるのはね、キャラメルなんだよー!」
「あの、星夜くん、そのバナナ…ウケ狙い?」
あ、そういえば確かにあの学生の子たちもウケとかなんとか言ってたような…。
「え?ウケ?違うよ?単純に面白いなって。それだけ」
「キャストさんに笑われてたけど、気付いてた?」
「えっ!?そうだったの??」
あれおどおどしてるんじゃなくて笑ってるの堪えてるだけだったのか!えー、ちょっとショック〜…。まぁ別に僕が好きで買っただけだから良いんだけど。
「そうゆうとこ、本当星夜くんらしいよね。じゃ、早速次のとこ向かおっか!いざ、マジカル・ヴェース・スクリーンへ!」
「レッツゴー!」
そして僕たちは懐かしき人物との出会いを求めて、再び歩き出した。
今回もお読み頂き、誠にありがとうございました!
今回は胸キュン要素ありましたねぇ〜!しかも巷で話題のバックハグ!
こう…頭の中で想像してみるんですよ。ポッドの一番奥の席で私が真由で…星夜があの人で…。あ、ごめんなさい。自重します。
まぁ、楽しいので是非この機会に色々想像(妄想?)してみてくださいねっ!
それでは、改めて、最後までお読み頂きありがとうございました!




