第12章〜夢から目覚めて〜
溢れ出る涙が治まってくると、僕はこの抑えきれない気持ちをどうにか紛らわすためにカッシーに電話した。
「あ、もしもし?カッシー?あの…僕だけどさ、今って暇?」
「え?あぁ…はい。どうかしました?」
「あのね…さっき真由ちゃん帰っちゃったんだけど…僕…寂しくて…。本当は真由ちゃんに電話したかったんだけど、きっとまだ電車の中だろうからカッシーに…。迷惑だったらごめんね。僕の話…聞いてくれる…?」
「…えぇ。いいですよ。それで、私が帰った後は真由さんと何してたんですか?」
「うん、あのね…」
そして僕は、カッシーにカッシーが帰った後の出来事を話した。
先ずは、rinを交換したこと。次に、弟さんを紹介してもらったけど、その弟さんが実はめちゃくちゃイケメンで、内心かなり嫉妬していたこと、真由ちゃんのアイコン用として撮った写真がにゃんポーズで、めちゃくちゃ可愛かったこと、など。
真由ちゃんが帰るまでの経緯を順を追って全部話した。
「なるほど。だからこそ、唐突に来た別れの時間が寂しい、と?」
「うん…」
「そうですか…。…あ。そう言えば、真由さんって何のお仕事してるとかって…聞いてますか?」
「え…?飲食の仕事してるって…聞いてるけど…どうして?」
「やっぱり…。私、真由さんの職場知ってるかも知れません」
「え!?」
そう言うと、カッシーは僕に一回頭を下げてから僕の部屋を後にした。
カッシーが…真由ちゃんの職場を知っている…?一体…どう言うこと…?
俺は星夜さんの部屋を後にすると、早速最寄りの駅へ行き、いつもの喫茶店へ急いだ。俺の記憶が正しければ、確かあの喫茶店で真由さんが勤めてたはず。
でも一つ思う所があるとするならば、多分あの星夜さんに対して真由さんが対等に分かり合えるのは、あの喫茶店で働いているからだと思う。客の俺がこんなことを言っていいのかどうかはわからないが、少なくともあそこのオーナーを含めた店員たちはみんな、キャラが濃すぎる。
だから、あんな自由奔放な星夜さんにもついていけてるのかも知れない。
それから電車を乗り継ぎ、やっと俺の目的地の喫茶店「ふぉれすと えすぷれっそ」に到着すると、コーヒーの芳醇な香りが漂ってきた。
いつも通りだ。
けど、この胸の鼓動はいつも通りじゃない。
いつもは星夜さんに公開処刑されたり、ミスして落ち込んだりした時とかに癒されたくてここに来てるけど…。今日は真由さんかどうかを確かめるため…。確信は持てるけど、どんな顔をすれば良いんだ…?「今日も来させて頂きました」…?「こんにちは」…?どれも全部違う気がする。
でも、ここでいつまでも悩んでても仕方ない。早く入って、コーヒー頼んで仕事してるフリをすればきっとやり過ごせる。きっと…気づかれない。大丈夫。
「いらっしゃいませ」
「カフェ・オ・レ一つとたまごサンド一つお願いします」
「かしこまりました」
ほら、見てみろ。そもそも真由さん本人すらいなかったじゃないか。やっぱりただの俺の思い過ごしだ。
いないとなったらもう何も怖くない。ゆったりと仕事をして、この時間を満喫するだけだ。
だが、現状はそんなに甘くは無かった。
「お、お待たせしました…。カフェ・オ・レとたまごサンドです。ごゆっくりどうぞ…」
本人いたーーー!?
あ、えっ!?嘘!!さっきいなかったよな!?え、それに何、まさか真由さんも動揺してる…?俺と同じなの…?じゃあ…声かけるなら今しかない訳?う、うん、そうか…。よし、いくぞ…。
「あれ?もしかして、真由さん…?」
「…え、なんで私の名前を?」
「その…実は真由さんが帰った後、星夜さんが大変寂しがって、私に電話してきたんです。それでその時に真由さんの名前を覚えさせていただきました」
「カッシーさんに…?…もしかして星夜くん、話してる途中号泣してたりしました?」
「…はい」
「やっぱり!なんだか嬉しいなぁ〜!」
「それにしても、真由さんここで働いてたんですね…。私もここ疲れた時とかよく利用させてもらってるんですよ。お財布にも優しいですし、味も美味しいですし、雰囲気も落ち着いてますし。私、このお店大好きです。これからも応援してますね」
「ですって!オーナー!」
すると真由さんは振り返り、オーナーの方を向く。
確かにこれは正直な感想だけど、これを言ったところで別に俺に対してどうこうなるとかは特にない。一応これからも真由さんと仕事上での関係を築いてくことにはなりそうだから言うだけ言っておこうっていう考え。
「んん、嬉しいねぇ。じゃあ嬉しいからちょっとまけてあげるぅ。今回は特別に、たまごサンドタダ。今回だけだからねぇ」
「えっ、いいんですか…?」
「うんうん、いいのいいのぉ。真由がお世話になってるみたいだから、少しぐらいはじぃちゃんからも協力させてくれや」
嘘だろ…。俺の適当な考えが金銭面のサポートに繋がった…!?もしかして世の中の女性たちがよくやっているお世辞とかも、こう言う意味も込めてやっているのか…?
俺は真由さんに感謝しつつ、そんな女性でもある真由さんに対して敬意の眼差しを送った。
「じゃ、じゃあ、冷めない内にお召し上がりください。ごゆっくりどうぞ」
それだけ言うと、真由さんは厨房へと戻っていった。
それから俺は一時間ほど喫茶店でゆっくりした後、星夜さんへrinを入れた。
『星夜さん。やっぱりそうでした。真由さんの職場、私の行きつけの喫茶店でした』
送信ボタンを押した途端に既読がつく。
こりゃ多分、ずっとrin開いて待ってたパターンだな。
『本当!?どこ!?』
『ふぉれすと えすぷれっそ、ってとこです。キャラの濃い店員さんたちが特徴的な喫茶店ですよ。外見は落ち着いてるんですけどね』
『なるほど』
『そこで提案があるんですけど』
『何!?』
お、食いついてきたな…。
『今度の真由さんとの打ち合わせ。私が提案したって理由でそこにしたらどうでしょうか?星夜さんも、真由さんと職場の人たちとの人間関係多少は知れるでしょうし』
『なるほど…。うん、いいと思う!僕、真由ちゃんにその話持ちかけてみるよ!』
『はい。それでは、幸運を祈ってます』
そして俺は、そっとrinを閉じて家へと向かった。
何にせよ、二人の関係がいい方向に向かってくれればただそれだけでいい。
星夜さんのストレスの吐き出し口がいい意味で真由さんに向かってくれれば、俺にとっても、真由さんにとってもウィンウィンな訳だし。
きたーっ!カッシーたまにはいい仕事してくれるじゃん!なるほどね、真由ちゃんは「ふぉれすと えすぷれっそ」ってとこで働いてる、と。それでキャラが濃すぎる人たちが一緒、と。なるほどなるほど。
で、えっ、今度は僕が真由ちゃんの職場に…?なるほどね。偵察、ってことか。うん。面白そう。やってみようかな。そうと決まれば、早速真由ちゃんにrinだ!
『真由ちゃん、ちゃんと家着けた?もし時間に余裕があったら、電話ちょうだい』
『星夜くんごめん(>人<;)家着いたよ!ただ、今外にいるから家戻ったら直ぐ電話するね!』
『わかった!待ってるね!』
…ん?外にいるってことは…やっぱり今まで職場にいたってことなのかな…?でもなんで…?今日お休みだったからお昼近くまで僕のお家にいたんじゃないのかな…?なんで職場に行ったんだろう…。お土産早く渡したかった…とかかな?
それから暫く待っていると、真由ちゃんから電話がかかってきた。
「あ、もしもし真由ちゃん?」
「星夜くん!さっきはrin入れ忘れちゃってごめんね…。もう別れた悲しさとか寂しさとかで全部忘れちゃってて…」
「ふふ、大丈夫だよ〜僕もだから。それよりもさ、真由ちゃん今度いつ空いてる?」
「明日空いてるよ」
「わかった。じゃあ明日、カッシー行きつけの喫茶店で来月の定期公演の打ち合わせ、軽くしない?」
「えっ?それって…なんて名前の喫茶店…?」
動揺したってことは…やっぱり、カッシーと職場で会ったのかな。
「えっと…確かふぉれすと…なんとかってとこ。ちょっと癖のある店長さんなんだけど、落ち着いた雰囲気が素敵なんだって」
「そ、そうなんだ。折角カッシーさんが選んでくれたならそこにしよっか…」
「うん!僕も食レポで調べてみたんだけど、結構レビューも高いみたいだし。店員さんたちも個性豊かで面白いんだって」
って感じで、僕はネットで調べた以外は知りませんよアピールをする。
本当は真由ちゃんがそこで働いてることも知ってるんだけどね。
「へぇ…。じゃあ明日楽しみにしてるね。えっと、何か持ってくものとかある?」
「えーと、ノートと筆記用具。出来れば、これからどんどん新しい知識も増えてくるだろうから、新しいノートの方がいいかも」
「わかった!」
「それじゃ、僕は明日のことについて色々まとめとくからこれで。わからないこととかまたあったらいつでもrin入れてね!じゃ、バイバイ!」
「うん!また明日〜」
rinの通話を切ると、なんだかだんだんとやってやった感が湧いてきた。
明日は真由ちゃんの職場に行って、そして然も偶然だったかのように振る舞う。
戸惑う真由ちゃんの姿が目に浮かぶなぁ…。明日が待ちきれない…!早く明日になって欲しいな…!
今回もお読み頂き、誠にありがとうございました!
もう何日ぶりの投稿です…。
そんな投稿なので、以前のとは少し違った書き方にしてみました。星夜目線…だけではなく、他のキャラクター目線も混ぜるという。(それが理由で投稿が遅れたわけではありません)
男子陣の策略…結構すごいですね。
次回は、ちゃんと二日後には投稿できそうですので温かい目で見ていただけると嬉しいです…。
それでは改めて、最後までお読み頂きありがとうございました!