第9章〜溶けない魔法〜
懐かしいな、この感じ。
よくライゼントさんの手慣れた感じのマジックには驚かせれてたなぁ…。少なからず今の僕がいるのは、ライゼントさんがいたからって言っても過言じゃないと思う。
「間もなくマジカル・ヴェース・スクリーンが開演いたしま〜す。魔法の眼鏡をお持ちの上、座席は前の奥から詰めてお座り下さ〜い」
いよいよだ。ここで僕の腕が試される…!
「えっ、星夜くん、心の準備とか、予行練習とかなんも無しで大丈夫?」
「バッチリだよ!僕の魔法、ちゃんと見ててねっ!」
僕は魔法の眼鏡を一個手に取ると、真由ちゃんの方を見てウィンクして見せた。余裕だ、とアピールして見せたりして。
シアターに入ると、前と変わらずタラーザは鍵を探すような動きをしていた。
ここからが僕の腕と運の見せ所。タラーザが一瞬でも僕の横を通るような動きがあればそこで入れられる…!
実はあの衣装のポケットって、すっごく口が大きいからタイミングさえあえばこのサイズの小さいキーケースぐらい余裕で入る。それに重さも対して無いし、中に汗が蒸れないように彼女がレギンスをもう一枚履いてるのも知ってるから、キーケースが地肌に当たってバレる心配も無い。
さぁ来い…!
僕がゆっくりと座席に向かってあるって行くと、丁度いいタイミングでタラーザが僕の横を通る。
今だ!!
僕はその時が来ると同時に左手で隠し持ってたキーケースをサッとタラーザのポケットに放る。見事ホールイン!すぐさま表情を確認するも、気づいた様子はない。
作戦…成功だ…!
「タイミングは?」
「ふふふっ、もう終わったよ」
「え゛っ!?早ッ!!全然わからなかった…!」
そうそう、瞬間移動マジックってこういう気づかれない内にやるっていうのがポイントのマジックだからねぇ。定番中の定番だけど、やっぱり上手くいくとスカッとする。
「すみませーん!誰かカギ!カギ知りませんかー!?あ、お姉さん!カギ知らない?」
お、始まったみたい。
「あ〜、ごめんね、わからないなぁ」
「そっかぁ…ありがとう」
「ねぇ、誰かカギ知らない?」
よし、いよいよ僕の出番だ…!後は頭の中の台本通りに…!
「ねぇ、僕知ってるよ」
「えっ、本当!?見せッ…ぁ…て!」
僕が声を上げると、タラーザはすぐにこっちを向いた。すると、すぐに彼(彼女)は僕だと気付いたのか、ギョッとした顔をした。が、すぐに元の顔に戻った。それでも、まだ動揺しているのが凄くよくわかる。
まぁ、僕だからよくわかるんだと思うけどね。
「んー、ごめんね、僕は持ってないの。ただ、君が持ってるはずだよ。ポケットの中にね」
「えっ…」
そして僕の頭の中の台本通り、タラーザはポケットの中を弄る。その行動にざわつくお客さん達。
ふふふ。まぁ観ててよ。僕の魔法はすごいんだから。
すると、僕のキーケースが見事出てきた。
「え、なんでっ!?いつの間に!?…あっ、でもこのカギじゃないんだ!協力してくれてありがとう!」
途端に、みんなが一斉に拍手をしだす。それと一緒に、僕の手元に返ってくるキーケース。
よしよし、よくやった。お前のお陰で大成功だ。おぉ…それにしても…。なんだか爽快感と達成感がいつもの倍ぐらいある。なんでかわかんないけど…。
「星夜くん、やったね!」
「ねっ!大成功!真由ちゃんの作戦のお陰だよ。僕も久しぶりにすっごく楽しかった!」
「えへへ、ありがと。でも、それも星夜くんがテクニシャンだから成功したんだけどね?」
「まぁね?」
それは当然。僕はちっちゃい頃から魔法に触れて生きてきたんだから。でも本当に真由ちゃんの作戦も凄かったけどね。「タラーザさんが隣通った時にどうにかして入れてみるのっ!」て言う思い切りの良い作戦。本当は難しいんだからね?
「おいタラーザ、早く準備しろ。俺様のショーが始められなくなるだろ」
「あっ、はい!」
おっ、いよいよだ。久しぶりのライゼントさんのマジック見れる。楽しみだな…!
まず初めに、物を浮遊させると言うマジック。
内容的には、「ライゼント、ダメダメジじゃーん」って、思うかもしれないけど、実はそんなことない。実はめっちゃすごい。僕も十八番のあの泡を使ったマジック。これと全く同じ原理で浮かしてる。やり方言っちゃったら、僕の魔法もライゼントさんの魔法も溶けちゃうから言えないけど、でもそれに加えて失敗に見せた演技をしてるってこと。要するに、プロフェッショナル…!
次は、人体切り離しのマジック…!
おぉ、何度見てもやっぱりこれは…演出の上手さに見惚れる…!因みに、僕がこれを公演でやらないのは、何度も打ち合わせをしたアシスタントさんが必要だから。だから、こう言う系のマジックを披露してる人達は、絶対に凄い息のあった連携が取れる人たちなんだと思う。ここがそうだったようにね。
すると、いつもの定番のアドリブトークでライゼントさんが口を開く。
今回は何言うんだろう。…今一瞬僕の方見た気がするけど。
「数年ぐらい前まではね、ここにミヤサワ・イマジーネ・アークラって言う若造の生意気なマジシャンが居ましてね。ソイツが中々。なっかなかマジックが上手いんですわ。本当ならね、私もそんぐらい上手く行くはずなんですよ」
え?僕?
「それって…」
「星夜くんのこと…だよね?」
嘘!?遠回しに褒めてくれた…!?嬉しい…!ライゼントさんって、僕にとって憧れの人でもあったから…。そう言ってもらえるなんて…。僕、これからももっともっとずっと頑張らなくちゃ…!
その後、ライゼントさんたちのマジックショーは進んでいき、タラーザは無事、友達のシャーザーの救出に成功し、二人は見事、マジックショーを成功へと導いた。
ショー後半は主に、立体映像を中心としたストーリーだったけど、それも凄く楽しかった。
何より迫力あるよね。またいつか、機会があれば来てみようかな。
シアターから外に出て、少し二人で歩いていると携帯から着信音がした。
誰だろう…。今日のこの時間は連絡しないでってカッシーにちゃんと連絡してあるはずなんだけどな…。
少しため息混じりに携帯を取り出して開いてみると、驚きの人から連絡が来ていた。
「どうしたの?」
「あ、あのね…。凄い人からメッセージきた」
僕は、そう言いつつも携帯に表示された画面を真由ちゃんに見せた。多分、アイコンがワンちゃんで名前のとこは井沢由紀だから真由ちゃんからしたら誰だかわからないと思うけど、文面でわかるかも。
『さっきは私たちのショーに来てくれて、どうもありがとうございました!久しぶりに宮澤さんにお会いできて、とても嬉しかったです!相変わらず、宮澤さんの人を笑顔にさせるって言う、モットーは変わってないみたいで安心しました。まだあれから一度も宮澤さんのショーには行けてないけど…。いつか時間を見つけて、必ず伺わせていただきますね!今日はあなたがゲストです!思いっきり楽しんでくださいね!!』
素直に、こう言う連絡とかをしてくれると凄くありがたみを感じる。だって、今タラーザさんもライゼントさんも超短いお手洗い&水飲みタイムだもん。その時間削ってまで僕に費やしてくれてるって凄くありがたいし、嬉しい。
ピロリン
え?今度は誰から?
「あ、ライゼントさんからだ」
『本日は私共のショーに足を運んで頂いた事、誠にお礼申し上げます。開演前の井沢さんとのコラボマジック、非常に感動しました。まさか、今日宮澤さんとあんなにお近くでお会い出来るとは思いもしていなかったです。本当に嬉しかったです。そして、開演中も、ミヤサワ・イマジーネ・アークラとしてご紹介させて頂きましたが、あの様なご紹介になってしまった事、深くお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした…。役柄上、あれ以外方法が無く…。そんな訳ですが、折角宮澤さんも素敵な女性と来園されたみたいですし、トラスト・アクアこの後も存分に楽しんでくださいね!それでは!』
相変わらずの文面。超丁寧。丁寧すぎて、逆に笑っちゃう…!
「えっ、誰!井沢さん?誰!ツッコミ所しか無い!」
「ふふふっ、だよね〜、ギャップあるよね。井沢さんって言うのは、タラーザさんの本名。でもね、悪役って言うのは、礼儀正しい人だからこそ演じられる役でもあるんだよ」
「へぇ!そうなんだ!」
まぁギャップあるってとこ、僕もわかるなぁ。
「じゃ、二人にこれ送信してっと」
僕は、二人に今日の真由ちゃんのベストショットと、「僕の彼女と一緒にめいいっぱい楽しませて貰います!ありがとうございました!」という文章を送った。
「よし、行こう!」
「え?何送ったの?」
「なーいしょ!さっさと行くよー!時間は待ってはくれなーい!」
教えれる訳ないよね、「僕の彼女」なんて豪語しちゃってるんだし、隠し撮りしてるのもバレちゃうし。あ、因みにベストショットだけで十枚、合計で三十枚ぐらいある。
そしてその後、僕たちはアトラクションに乗った。
バイジャック博士のダイヤモンドドクロの冒険って言うやつ。これがまたすっごく楽しくって、終始凄く暴走してるの!もう、それが超楽しくて!アトラクションから出た後、乗ってる最中に撮ったライドショットを真由ちゃんと一緒に見に行くと、二人ともすっごい変な顔してて。すっごく面白かったから、ついつい一枚ずつ買っちゃった。
他にも、ラッフィフレンズ専門店にも行った。
言うまでもないけど、僕も真由ちゃんも、ラッフィ好きだから大はしゃぎ。大の大人なのにね。
真由ちゃんは、ルームウェアとラッフィのぬいぐるみと携帯お裁縫セット買ってて、僕はラッフィのぬいぐるみとハンドタオルと筆箱を買った。
一応これでもね、需要考えて買った方なんだよ?だって、記念じゃん?ここ来たって、記念じゃん?ぬいぐるみって、そういうものじゃない!ね?他のものも、需要あるでしょ?あるよね?
そんなこんなで、時間はどんどん過ぎて行き、気がつくとあっという間に十時近くになっていた。
そりゃあ二人のとこ行ったの八時近かったからそんなもんか…。
「じゃあ、最後に少しメインゲート付近のショップでも見てく?あそこ、パークで一番の品揃えらしいし」
「いいね!最後の締めだね!」
そしてショップに着くと、閉園時間が近いということもあり、人が超沢山いた。
うわーっ、凄い。僕たちキャストのために年に一回開かれるサンキューデーの時も人は多いなって思ってたけど…普段ってこんなに多かったんだ…。
「あ!ラッフィのお姉ちゃんと魔法使いのお兄ちゃん!!」
「え?」
小さな男の子の声がして斜め下を振り返ると、今朝迷子で対応していた男の子がいた。
優介くん、だったかな。
その隣にいたお母さんが優しく微笑み、会釈した。それに対して、僕たちもお辞儀を返す。
「優介くん!まだいたんだね!あの後どうだった?楽しめた?」
「うん!すっごく楽しめたよ!」
良かった〜。迷子になったことでトラストに対して嫌悪感とか抱いてないか心配だったけど…それが知れて安心した。
すると、急にキョトンとした顔で優介くんが僕のことを見上げてきた。
なんだろう?
「ねぇ、お姉ちゃんとお兄ちゃんはカップルなの?」
「「えっ?」」
「こっ、コラっ!優介!急にそんな事聞いたら失礼でしょっ!う、うちの子が突然すみません…」
やっぱり?そう見えちゃうのかな??超嬉しい…!この際、そうゆうことにしちゃってもいいよね!
「うん、そうだよ!」
僕がそう答えると今度は真由ちゃんが驚く。
まぁ無理ないよね。本当は付き合ってないんだし。
「じゃあお兄ちゃん、これ、あげる!」
そう言うと、優介くんはトラストの袋から何やら小さなプラスチックの箱を取り出した。中には、二つで一つのハートの形になるというペアキーホルダーが入っていた。見た感じ、未開封。
優介くん曰く、学校の好きな子にあげようと思って買ってもらったけど、もう少し準備してからにするから僕に譲ってくれるとのこと。
「えっ?本当にいいの?」
「うん。きっと、お兄ちゃんたちの方が僕よりも似合うから」
すごい、なんかこの子将来めっちゃロマンチストになってそう。この性格生かした仕事について欲しいな…。ホスト以外で。
「ありがとう…!」
「どういたしまして!」
「じゃあ優介。そろそろ閉まっちゃうから行くわよ。お兄さんとお姉さんにバイバイして」
「うん。じゃぁね!バイバーイ!また会おうねー」
「またねー!」
「バイバーイ!」
そして、優介くんと優介ママは去って行った。優介くんは、去り際もずっと僕たちのことが見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれた。その光景を見ていると、なんだか胸が凄く熱くなった。
ふと真由ちゃんの方を見ると、なんだか凄く名残惜しいようなそんな表情をしていた。
きっと、真由ちゃんも別れが寂しいのかもしれない。
「…きっと、いつか会えるよ。いつになるかはわからないけど、きっとその内に…。じゃ、お土産、買おう」
僕たちは一度その場で分かれてそれぞれのお土産を買いに行った。
僕は…夜に作業することが多いから、眠気覚ましでコーヒーと、そのお供でチョコレートとかいいかも。…あとはみんなにお菓子でも買ってこうかな。
僕のお会計が丁度終わると同時に、真由ちゃんがお会計している所が目に止まった。
おー、タイミングピッタリ!
僕は、真由ちゃんが買い終わったタイミングを見計らうと、真由ちゃん元へと向かった。
「真由ちゃん、買い終わった?」
「うん。星夜くんは?」
「僕も丁度終わった所。じゃあ、そろそろお店出よっか。邪魔になっちゃうし」
「うん」
「折角だし、閉園時間までブルー・アースの前でゆっくり時間潰そうか。あと十分くらいだし」
僕たちはショップを出て、ゆっくりと二人並んで歩く。
ブルー・アースに着くと、そこでは写真撮影をするカップルやグループが何組もあった。…じゃあ、僕たちも撮る他ないよね?
「撮る?」
「いんじゃない?」
真由ちゃんがスマホを掲げ、僕はいつも通りポーズを取る。あ、クレッセント・ムーンじゃない方。けど、映えるやつ。すると、真由ちゃんもポーズを取る。
あれ?意外と真由ちゃんカメラ慣れしてる。
「いくよー、はい、チーズ!」
パシャリ
撮った写真を見てみても、やっぱりカメラ慣れしてる。さりげなくウィンクしてるとことかも若さ引き出せてていい感じ。
「わー、真由ちゃん、意外とカメラ慣れしてるねー!どこでそんなに慣れたの?」
「えー、どこなんて特にないよー、ちょっと頑張っただけ。…でも、ありがと…」
「え?あ、うん」
照れてる照れてる。この感じ、好き。
そして、僕たちは閉園時間五分前まで他愛も無い会話をした。
「ねぇ、あのさ、真由ちゃん…今日このあとって…空いてる?」
「え?まぁ空いてるけど…」
「あの…よかったら僕の家来ない?ここのすぐ近くにあるの。車で来てるんだけど、二十分ぐらいの距離なんだ」
できるのであれば、もう少し真由ちゃんとの時間を楽しみたい…。
「ねぇ、いいでしょ?お願ぁ〜…」
もし、いけるんであればこの手を使えば絶対通るはず。
「やめて!!」
真由ちゃんはそう叫ぶと、僕を制止した。
…なんだろう、そんなにまずかったかな?
「せめて、行って何するのかどうするのか教えて?」
「えっ…と、僕としては真由ちゃんとお泊まり会したいなって考えてる。もう夜も遅くなってきたから、これから帰ると更に遅くなっちゃうだろうし…だったら僕のお家泊めてあけたいなって」
「…なるほどね…ベッドは分けられる?」
「え?あ、うん!」
「部屋は?」
「頑張れば」
凄い聞いてくるな…。
「それなら…お言葉に甘えようかな…」
おっ!?やっと許可降りた!
「そうと決まれば、早速向かおうか。僕のお家」
よし、真由ちゃんからの承諾も得たことだし、そろそろ帰るか!これからは今よりもずっと、僕の夢、濃くなっていくぞ…!
今回もお読み頂き、誠にありがとうございました!
まず初めに、投稿日が一日遅れてしまったこと、深くお詫びさせていただきます。本当に申し訳ありませんでした…。
そして、そのことに関する報告としてこの場を借りて皆様にお伝えしておきたいことがございます。
第20章投稿後のことなのですが、このようなことが続かないよう、少し書き溜めしたいということで一週間程お休みを取らせて頂きたいと思っております。
楽しみにしてくだっている皆様には申し訳ございませんが、どうかご了承ください…。
最後に、次回はちょっと大人でムード漂う内容になっております。お楽しみに!
それでは、改めて、最後までお読み頂きありがとうございました!