脱獄への一歩
思った通り奥には厨房があった。それもかなり広い。
中では調理人らしき人が4、5人いて忙しなく料理を作っている。
どうやら魔法の効果は確からしく、近くに寄っても姿を見られている様子はない。物音さえたてなければ大丈夫そうだ。
調理人の顔を見ようとしてアレンは驚いた。黒い仮面で素顔を隠しているのだ。
これじゃあ同じ種族なのか判断がつかないぞ。
ガタン、ガタン。 こんどは赤い仮面をつけた使用人と思われる人が出来上がった料理を台車でどこかへ運ぼうとしている。
よし、こいつについていってみよう。
足音に気を付けてつけていくとこんどは食堂らしき大広間に出た。
かなり広く豪華な作りで、シャンデリアなども見られた。
台車はそのまま中央にある大きな食卓に向かっていった。
そこではおそらく地位の高い人たちなのだろうか、黄金に光輝く仮面をつけた人たちが食事をしている。
アレンはそっと食卓の近くまで行き、会話を盗み聞きした。
「……てもついにこの時が来ま………様」
「…年我々にとって目障りだった8階にいるあの少女と…………殺せる口実………
経路は後に調べ…………」
「後は監守長に任せて我々は………に戻りましょう」
「そうだな、……あの連中も…………ることだろう」
周りの喧騒のせいであまり聞こえないが、どうやら今日誰かが殺されるといった内容のようだ。
突然、この監獄に現れた僕みたいなものはこいつらにとっては敵みたいな存在だろう。敵の敵は味方、もし救出できたらその少女たちとは協力関係になれるかもしれない。
というのも僕は見つけたのだ、食卓を囲んでいる一人がテーブルの上に鍵束を置いているのを。
じりじりとアレンは近づいていき、ついに鍵束まであと少しの位置まで来た。
この魔法を使っている間は僕が触れているものは透明になる……残り時間は1分くらいか、奪ったらすぐに逃げる必要があるな。
相手が会話に熱中している隙をついて、アレンは鍵をポケットに入れて足音を気にせずに走り出した。
さっきの螺旋階段のところに戻ろう。だが上と下、どっちに行ったら?
走りながらふとさっき盗んだ鍵をみると鍵には数字が書かれてる。
おそらく書いてある数字が開けることのできる牢屋の階だろう。
1から12まであるがひとまずあいつらが言っていた8階に向かおう。
螺旋階段にたどり着いた瞬間、魔法の効果が切れた。まだ追っ手が来ている様子はないが急ごう。
階段の壁には大きく5という数字が書かれている。 ということは上だ。
先ほど遭遇した怪物の存在はなく、アレンは8階に着いた。
僕が最初にいた牢屋の階とは違いあちこちに人が閉じ込められており、中には見たことのない種族もいる。
走りながら少女を探すがどこにも見当たらない。
囚人たちが騒ぎだしている、こんなの敵を誘きだしているようなものだ。あまり長いはできない。
「おい、坊主」
声に反応して振り向くと牢屋の中に二人の男がいる。
「どうして出歩いている、まさか鍵を持っているのか?」
「ああ、そうだ」
「だったら話は早い、俺達もだしてくれ。そしたら坊主の力になるぜ」
「悪いが信用できない」
そのまま走り去ろうとしたとき。
「待てぇ」
不意にずんと強烈な頭痛がアレンを襲った。 痛っ、動けない。
「止めろハレス、今はそんなことをしている場合じゃない」
「分かったよ」
もうひとりの男の言葉を聞いた途端、痛みが止まった。
なんだ今のは、まさか魔法?
「相方がすまないことをした、だが私たちは決して君の敵じゃないんだ」
「……分かった、話を聞こう」
「いいかい、ここで脱獄したものが居るとトロルという巨人の怪物が来る。君も徘徊しているのを見たことがあるだろう?」
「ああ、ある」 あのでかい足音のやつか。
「やつは強い、おそらく君はひとりだと殺される。だが我々とあと二人の仲間を出してくれたら我々は君が脱獄するのに協力する。
どうだ、手を組まないか?」
言っていることは多分本当、今はひとりでも協力者が欲しい。
「いいぜ、手を組もう」
鍵穴に8と書かれた鍵をさす。 ガチャ。 よし、開いた。
「ありがとよ、坊主。恩に着るぜ」
「よし、後の二人はこっちにいる。走ろう」
3人は囚人の罵声と脱走を知らせる警報の喧騒の中、走り出した。