見知らぬ世界での目覚め
ポタポタポタ。水の滴る音がアレンをめざませた。
痛い、ひどい頭痛がする。いったいここは?
体を起こし、辺りを見回してみる。少し暗いがどうやらここは牢屋の中、僕はベッドの上で目が覚めたらしい。
どうして僕はこんなところに?
アレンはベッドから立ち上がり、格子の扉の前に近寄った。
どうやら扉の鍵は開いているようだった。ふと自分の手を見て驚愕した。あれだけ変色した皮膚が元に戻っているのだ。
手が元に戻っている。いったいなぜ?
気持ちの整理をしながら、僕は牢屋から出た。
牢屋は僕がいた所以外にもかなりの数があった。しかしそこに生きている人は存在しておらず、中には白骨化した遺体もあった。
きっと何百年の歴史のある監獄なんだろう。
そのまま歩いていると螺旋状の階段を見つけた。その造りはいままで見たことのあるものとは違い、左右で階段の大きさが違った。
右側は人用の大きさだが左側は右側より倍以上大きい、つまり人よりも大きい生物が使う用の大きさになっていた。
確かに通路の幅や天井の高さには違和感を感じたがまさか?
「ドン、ドン、ドン」
階段の下側から一定のリズムで足音が聞こえてきた。どうやら逃げる必要がありそうだ。
アレンは上層を目指して走り出した。最悪な事にそのでかいやつは耳が良いらしい。俺の足音を聞きつけてか急に足音のリズムが早くなった。
この鬼ごっこは絶対に負けられない。
必死に走るアレンだがその差は徐々に詰まり、ついに限界が迫ってきた。
アレンは間一髪で人用の扉に飛び込んだ。おかげさまで全身を強く打ったが、あいつはここへは入ることができないらしく足音が遠ざかっていった。
「危なかったー」
安堵の息を漏らし、アレンは立ち上がった。見たところは倉庫らしく木箱などがたくさん置いてある。雑貨から食糧まであるものは様々だ。
どれも街では見たことのないものばかりだ。……いったいここは?
色々と物色しながら進んでくにつれて芳ばしい香りがしてくる。
奥には厨房があるらしくどうやら絶賛活動中らしい。人が動く慌ただしい音が聞こえてくる。
このままいったら争いは避けられない、なるべく穏便にいこう。
今ではもう懐かしい話、当時まだ12才の頃の僕は仲の良い二人と一緒にいつも行動していた。街では治安維持の目的から専門家以外は魔法学に深入りしてはならないとされ、僕たちが学校で教わっていたのは初歩的でつまらないものばかりだった。
子供の頃はやはり無茶なことをしたがるもので、ある日仲間の一人が夜に図書館に忍び込もうよと言ってきたのだ。
図書館には歴史、動物など様々な種類の本があり当然魔法に関する本もあったが一般の人は立ち入りが禁止されており、僕らがやろうとしていることはもちろん犯罪行為にあたるがそんなことはお構い無しだった。
真夜中に家を抜け出して図書館に向かい、窓を割って侵入するという大人顔負けの事をしつつ、僕たち3人はついにお目当ての魔法書がある部屋にたどり着いた。
当然こんなことをしてばれないはずがなく、すぐに警報がなり響き僕たちは駆けつけた大人たちに捕まり、こっぴどく叱られた。
ただ僕だけは捕まる前に近くにあった本をとり、その数ページを破いてポケットにいれていたので大収穫だった。
もちろんこの事は二人は言わず秘密にしてある。その紙切れには十数個の魔法、しかも強力な効果を持つもののスペルが書かれていた。
もちろんそのスペルは今も忘れてはいない。その中のひとつに今の状況にピッタリのものがある。姿を消す魔法だ。
「アレクション」
小声で唱えた途端、アレンの体は透明になった。
よし、これなら見つかる恐れはない。だが急がなければ、記憶によるとこれの持続時間はせいぜい10分程度のはず。
足音を忍ばせつつアレンは奥の厨房へ向かった。