光の中へ
アレンとエルが屋敷の玄関に差し掛かった瞬間、突如発生した後方からの爆風に二人は吹き飛ばされ、地面に強く体を打ちつけた。
痛い アレンの全身を激痛が襲う。
今のはいったい?でも体はなんとか動きそうだ。
体を起こし、後ろを振り返るとそこには残酷な光景が広がっていた。
屋敷は全壊し、逃げ遅れた人の物であろう血や肉片、骨が散乱していた。そして最悪な事にその中心に見覚えのある怪物、街の上空を旋回していたあの竜が立っていた。
なんとか立ち上がり、辺りを見回すとエルの姿がない。とはいえ僕には探す時間は無かった。突然竜が暴れだしたからだ。
竜の体は街で見た個体よりさらにグロテスクな状態でもはや皮膚が溶け出していた。
さっきの男が原因なのか?
まだ未成熟とも見えるその体を使い、竜は周囲にある残りの家屋や人々を手当たり次第破壊していた。
ゲートは諦めて逃げるしかない。
アレンはさっき屋敷に来る途中に見た馬小屋を思い出し、その方向に向かって走り出した。
その瞬間、アレンは後ろに熱気を感じ少し後ろを振り返った。
驚いたことに、あの竜が炎を吐いていた。
街の火事の原因はあれだったのか。
戦慄を感じながら馬小屋にたどり着き、乗る馬を探していると運良くまだ逃げ出していない馬を一頭見つけた。
これに乗って逃げ出そう。
馬の拘束を解こうとすると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「アレン、どこへ行くんだい?」
この声はエルの声だ。 そう思い振り返り、愕然とした。
エルの体は血まみれになっていて、手足や頭部が損傷しており目の焦点が定まっていないようだった。
「うわぁーー」
僕は叫び、馬に乗って逃げ出そうとした。
「アレン、僕だよエルだよ。怖がる必要はないよ。一緒に戻ろう。
今ならまだ間に合うから」
口調や声すらも普段のエルとは違う。こいつは偽物?それとも…
アレンは馬に乗り、馬小屋を後にした。後ろからは怒ったような声がしばらく聞こえてきた。
この辺りの地理に詳しくないアレンは馬に行く道のりを任せていた。馬はまるで何かに導かれるようにある方角を目指して走っている。
時間が過ぎ、遂に日の出が見え始めた頃、周囲の景色が開けてある光景が見え出した。
一面に広がる草原、その中央に小さな湖があり周りを美しい花畑が囲んでいた。
今日見てきた血生臭い光景とは対照的な幻想的な空間にアレンは魅了された。
なんて綺麗な場所なんだ。
アレンは馬から降り、湖に向かって歩き出した。
街の方を見ると火の手は激しくなり、あの怪物の数も増えていた。
俺がやられるのも時間の問題だ。
近くまで来て見てみると橋が掛かっており、それが湖の中央まで続いていた。
行ってみよう。
度重なる悲劇により精神は磨り減っており、半ば無意識にアレンは橋を渡り始めた。
湖の水は日の出の光を反射して光輝いていた。ふと湖に反射して映っている自分の姿をみて、アレンは自身に残された時間が残り僅かだと言うことに気づいた。体が変異し始めていたのだ。
これが俺の体なのか?
手はすでに蝕まれ始めており、皮膚の色が黒く変色し爪も肥大化していた。
意識ももうろうとしてきた。急がなければ。
アレンは力を振り絞り、遂に端に到達した。
そこにはまるでそこだけがくり貫かれたかのように穴が空いていて、湖の水が穴の底へ向かって流れ出していた。
身を乗り出して見てみても底など見えず、まるで無限に穴が続いているようだった。
これは神の導きなのか?
アレンは蝕まれる最中、あるひとつの願いを抱いた。人として最後を迎えたいというささやかな願いを。
あぁ、こんなに綺麗な場所なんだ。穴を抜けると天国が、楽園があるはず、きっとみんな待ってるんだ。
最後の力を振り絞り、アレンは自分の身を投げ、穴の底へ沈んでいった。