表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/40

第9話 魔王の居場所

20191103 更新1回目

           ※




 魔法による光の輪で俺は魔人を拘束した。

 受けたダメージも治療して話せる程度には回復させてある。

 ちなみに周囲には人だかりができていて、俺が魔人の一人を倒したことは、あっという間に学内――そして町中に広がってしまったらしい。


「れ、恋さまのお友達が魔人を捕まえたそうだぞ!」

「なんと! あの方は一体、何者なんだ?」

「先程、魔人は真の勇者だと言っていたが……まさかあの方が?」


 見物人が次から次にやってきてはこの状況を見守っている。

 場所を移しても良かったが、魔王の場所を聞き出すだけなので話は直ぐに終わるだろう。


「……お前に聞きたいことがあるんだが……」

「俺が素直に応えると思うか?」

「まぁ、そうなるよな」

「たとえ拷問を受けたとしても、俺は何も言わない」


 どうやら魔王への忠義は厚いらしい。

 何より明らかな実力差を理解して尚、物怖じしない辺りは好感を持てた。


「巡……どうする?

 多分、こいつは何も答えないよ」


 恋も俺と同じことを思っていたらしい。

 だが、相手が話す気がないなら無理に口を割らせる必要はない。


「もう一度確認するが、本当に話すつもりはないんだな?」

「当たり前だ。

 たとえ死ぬほどの苦痛を与えられても、私の魔王様への忠義は変わることはない」

「そうか。

 なら死ぬよりもつらいことになるぞ」

「ふん、その程度の脅しに私が屈するとでも?」


 まるで姫を守る騎士の如く勇ましい。

 これ以上は何を言っても無駄だろう。


「忠告はしたからな――」


 言いながら俺は魔族に心見サトラレの魔法を使った。

 この魔法は相手の心を半径500メートル以内に漏らしてしまう魔法だ。

 今からこいつには死ぬよりもつらい『羞恥』を味わってもらうことになる。


(……魔王様とこの男を合わせるわけにはいかない。

 あの方が負けるとは思えないが……こいつはあまりにも強すぎる……)


 内面もイケメンじゃないか。

 実は口だけで心の中はゲスい奴は大勢いるが、この魔人はそうではないらしい。


「め、巡……何したのよ?

 何か声が聞こえてくるんだけど?」


 怪訝な顔をした恋が、小声で話し掛けてきた。

 俺が何かをしたのは直ぐに理解したらしい。


(……そ、それに、もしこいつに魔王様が負けたら、きっと酷いことをされるに決まっている!)


 は?

 何を言ってるのかなこの魔人は?


(……よく見ると顔も鬼畜っぽい)


 聞こえてないと思って、好き勝手言ってくれるじゃん!?

 というか、顔が鬼畜っぽいってどんなだよ!

 生まれて初めて言われたよ!


「ま、まぁ、あたしはそんなこと思ったことないよ」

「そうか……」


 恋が困惑した笑みを浮かべながら慰めてくれた。


(……人間は強欲な生き物だ。

 きっと魔族の至宝であるあの方の美貌を一目見たら……ああ、想像するだけでもおぞましい!?)


 美貌……か。

 それにこれまでの話しから推測するに、魔王の性別は――。


「なるほど……魔王は女なのか」

「っ!? ――な、なぜそれを、魔王様のお姿を見たことがある人間がいるはず――っ!?」


 しまった……と、魔人が表情を歪める。

 どうやら当たりらしい。


「お前、随分と魔王に心酔してるみたいだな」

「……」


 ノーコメント。

 口を閉ざした魔人だったが……。


(……わ、私が魔王様に心酔!? そ、そんな当たり前のこと聞くな! 心酔しているに決まっているだろうがっ! ああ、魔王様、あなたを思うと私の心は今にも張り裂けそうです。身分の違いは承知していますが、私はあなたを心から愛し――いや、たとえ心の中だとしても、この想いは隠し続けなければ――ああ、ですが、罪な私を許してほしい。あなたを想い過ぎるあまり、夢の中にまで魔王様が現れたのです。そ、そして、わ、私はあろうことか夢の中で魔王様にき、キス――ダメだ、わ、忘れろっ! 忘れろおおおおっ!)


 大興奮だなっ!?

 周囲にいる騎士学校の生徒たちも戸惑いの視線で魔人を見ている。


 ……この魔人、魔王が好きなんだ。

 ……残念系イケメンだ。

 ……イケメンだけど妄想がキモい。


 この場にいる者の多くがこんなことを考えていそうだ。

 当の魔人は心見サトラレの魔法のせいで、自分の妄想を垂れ流していることに気付いていない。


(……夢とは自分の願望を移すという。

 だとしたら私は魔王様にき、キスをしたいと、いや……だが、夢の中ではそれ以上の――ふおおおおおおっ!?)


 いや、落ち着けよ。

 悶えるなよ。


「ああああああ煩悩退散! 煩悩退散!!」


 ガン! ガン! 

 拘束された状態で地面に頭を打ち付け始めるなよ。


『巡よ、魔族とはとんでもない存在だな。

 妄想を垂れ流しながら自傷行為に及んでいるぞ!』

『いや、こいつが特別なだけだ』


 アルの魔族像が歪む前に、即行否定しておいた。


「ああああああ煩悩退散! 煩悩退散!!」


 まだやっている。

 落ち着かせないと話にもならなそうだ。

 ちょっと話し掛けてみよう。


「あ~お前、魔王のことが好きなのか?」

「ふはっ!? ふへほはあ!?」


 いやせめて通じる言葉をしゃべってね!?

 だが魔人は純朴な少年のように顔を真っ赤にしていた。


「ばばばばばばばば馬鹿なことを言うな!

 そ、そんな不敬な想いを私が抱くはずがないだろ!」


 などと口にするが、心の中は違っていた。


(……なななななななな何故バレた!? この秘めた想いが何故バレた!? わ、私が魔王様を愛しているということが何故バレたああああっ!?)


 いや、愛してるまでは言わなかったよね俺……。


「あのさ……さっき俺、死ぬよりもつらいことになるって忠告したよな?」

「そ、それがどうした?」

「いや今ね、魔法でお前が考えてることがこの場にいる奴ら全員に伝わってるんだわ」

「は……?」


 口をぽっかりと開き、魔人は間抜け顔を浮かべた。

 しかも、時が止まってしまったかのように微動だにしない。


「だから、お前が夢で魔王とキスしたとか、魔王を愛してるとか、魔王のことを考えてすげぇ悶えてるのとか……みんなにバレてる。

 ……ごめん」

「……――ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!? もう死ぬ! 私は死ぬ! 魔王様に死んで詫びるううううううううううっ!」

「だから最初に忠告しただろ。

 そんな嘆くなよ」

「嘆くわっ! 貴様は鬼畜すぎるだろおおおおおおっ!」

「流石に反省してる」


 まさかこんな純粋な魔族だと思ってなかった。

 でも、そもそもお前らが喧嘩を撃ってきたのが悪いからね。


「でさ、最初に言ったと思うけど……お前に聞きたいことがあるんだけど……」

「ぐ……は、放さなければ、どうなる……?」

「羞恥プレイ継続だな。

 さて、他にどんな秘密を抱えて――」

「うがあああああああああああああああっ!? やめてえええっ、これ以上はやめてえええええっ! 話す! なんでも話しますからああああああっ!?」


 ということで、俺たちは魔王がいると噂される暗黒大陸についての情報や、魔族たちの情報を仕入れることに成功した。

 だが魔王の居場所については、口外することはなかった。

 まぁ、心は嘘を吐けない為、結局はバレてしまったわけなのだが……それはせめてもの情けとして、この魔人には伝えないでおこう。


「……あたしたちを殺そうと魔族のはずなのに……なんだか不憫に思えてきた」


 恋は魔人を気の毒そうに見下ろしている。

 羞恥心に耐え切れなかったのか頭から煙を吹いてぶっ倒れ気絶しているので、暫くは目を覚ましそうになかった。 

 起きたとしても魔法で四肢を拘束しているので何かできるわけでもない。

 この拘束具は相手の力を封じる効果もあるのだから。


「まぁ、これで魔王の居場所は確定だ。

 早速――暗黒大陸に乗り込むとしよう」

「でも海を渡らなきゃいけないのよね?」

「ああ、だからドラゴンに連れて行ってもらおう」

「え?」


 唖然としながら首を傾げる恋に特に説明はせずに、


「――ミッシェル」


 俺はこの世界で知り合ったエンシェントドラゴンの名を呼んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一部完結しました。
『勇気を出してよ皆友くん!』
もしよろしければ、ご一読ください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ