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第34話 堕天使の少女

「――よう」


 堕天使の少女は俺を見た。

 その姿は驚くほど美しい。

 これまで見てきた世界の中でも有数の美少女だ。


「……」


 少女は表情一つ変えることなく、ただ俺の様子を窺っている。


「言葉、わからないか?」


 通常――異世界に転移した場合、言葉も翻訳された状態になっている。

 だが世界にエラーが起こっている状態であるなら、その神々が作ったロジックが機能しなくなっている。


「……あなたは強い」


 女は俺を直視する。

 どうやら実力の違いを理解する程度の能力は持っているらしい。


「あなたが……そうなの?」

「……?」


 少女は俺に上目遣いを向ける。

 何かを窺っているみたいだったが……口数が少なく、


「だとしたら――倒す。――いくよ」


 堕天使の姿が消えた。

 かと思えば――俺が浮かんでいる場所のさらに上から、強烈な魔力の波動。

 空を見上げると、両手を俺に向けて突き出している黒い翼の少女の姿が見えた。


「――殺戮破壊光線デストロイ


 少女がそう呟いた瞬間――膨大な魔力を秘めた閃光が射出された。

 莫大な力の渦が生み出されたことで、次元に亀裂が入っていく。

 それは、俺が受け止めなければ地球が崩壊するであろう一撃。


「物騒な魔法だな」


 この速度だと、地表に落下するまで残り1秒というところだろう。

 光速で迫りくる閃光に対しては、魔法解除ディスペルマジックも間に合わない。

 だがそれでも――何ら問題はない。


「あ~ん」


 俺は口を開いた。

 そして「すううううう~~~~~~~」と、大きく息を吸い込む――と、迫りくる閃光が俺の口の中に全て入っていく。

 吸い込まれた莫大な魔力は俺の保有する魔力へ変化していく。


「ごくん――」

「ぁ……」


 元の世界に戻ってから、二つの世界を攻略するまでに消費した魔力を、いい感じに回復できた。


「……私の魔法、食べられた」

「ご馳走様。中々の魔法だったぞ」


 単純な魔力量なら超神ベアルを上回っているだろう。


「まだ続けるか?」

「……私は、あなたに勝てない」


 圧倒的な実力差を理解していながら、堕天使の戦意は全く薄れていない。

 何か理由があるのだろうか?


「だけど――私は戦う。次の一撃に全ての力を込める」

「あれよりも上があるのか」


 なら――その力を完全に受け切り凌駕して勝つとしよう。

 それなら、この少女も敗北を受け入れることができるだろう。

 話をするのはそれからでも遅くない。


「闇よりも暗く、世界を包む――それは絶望の渦」


 少女が詠唱を開始すると、世界は色を変えた。

 雲一つない快晴の空が闇に包まれる。


「光よりも眩しく、世界を照らす――それは燦爛さんらんたる希望の光」


 再び世界は色を変える。


「希望と絶望は交ざり合い――行きつく先は混沌」


 変化する世界に残るのは混沌。

 圧倒的な魔力の波動が、人間の叫び声のように唸りを上げる。


「これで、あなたを終わらせる。――混沌終焉カオス・エンド


 世界に生まれし混沌。

 それは無限に溢れ出し増殖していく。

 これを放置してしまえば、俺だけではなく、地球という惑星自体が消失してしまうだろう。

 その混沌が波のように俺に押し寄せる。

 だが――俺を飲み込もうとした瞬間、動きを止めた。


「ほう……わかるのか」

「……」


 生まれた混沌は言葉を解すわけではない。

 だが、生み出された混沌は本能を持つのだろう。


「消えろ」


 俺の言葉に従うままに――混沌は自身の意志で消滅した。

 そして――世界は色を取り戻す。


「どう、して……」


 何が起こったのか。

 恐らく堕天使の少女はそう思ったのだろう。


「より深い混沌に飲み干されたくなかったんだろ」

「……ははっ」


 少女は、もうどうしようもないと、苦笑した。


「私の負け、だね」

「ああ……でも、悪くはなかったよ」


 少なくとも、こっちに戻ってから戦った中では。


「聞かせてもらっていいか? ここに来ることになった経緯と、なぜ俺を襲ったのかを?」


 質問を受けて、少女は再び俺を直視する。

 その瞳からは複雑な感情が窺えた。

 そして――表情は変えぬまま堕天使は静かに口を開いた。

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第一部完結しました。
『勇気を出してよ皆友くん!』
もしよろしければ、ご一読ください。
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