第31話 消滅
「楠木……一応、説明しておくとだな……」
「うん?」
俺は彼女に、使命を果たさなければ元の世界に送還できないことを伝えた。
「え……じゃあ、あたし絶対に帰れないってことじゃん!」
「いや、なんとかするって言ったろ。大丈夫だよ」
「大丈夫って……実際、世界の終わりを見届けるなんてどうするの?」
「たとえばの話だが異世界を――この惑星を消滅させてしまうのは手だ」
「はい? そんなことできるわけ……」
あり得ないと戸惑う楠木。
だが、
「多分、狭間くんならやれちゃうと思う」
「ええ……長嶺ちゃん、なにを言ってるの?」
「ボクも普通ならあり得ないって思うよ。だけどね、楠木さん……考えてみてほしいの。そこにいるファルガやベアルが、狭間くんに従順な理由を……」
「そういえば……」
邪神と超神――二人の神を楠木は交互に見る。
「……もしかして、狭間くんってすごい人?」
「すごくはないが……まあ、本当に惑星程度なら一瞬で消滅できるぞ」
「いや、それ凄すぎるでしょ! 神様にでもならないと、そんなのできないよ!」
惑星を破壊するレベルの力を得るには、それなりの訓練は必要だろう。
だが、
「楠木も頑張れば星の一つや二つ壊せるぞ」
「頑張っても無理よ!」
「諦めなければできる! 信じる心だ!」
「いやいやいや、そもそも星を壊すような事態にならないわよ!」
「今が正にだろ?」
「例外すぎ! それに……もし出来る力はあっても、そんなことしたくないよ」
「まあ……そりゃそうだわな」
この星にも生きている人がいる。
その人たちの命を奪うなんてこと、絶対にしていいわけがない。
だから俺は平和的に楠木に使命を果たさせる。
「だが、使命を果たさなければお前を送還することはできない」
俺は親指と中指を合わせて、パチン――と、指を鳴らした。
「なっ!? こ、ここって……」
「ぼ、ボクたち、宇宙にいるの!?」
「ああ、転移でこの異世界――惑星が見える場所まで飛んだ。ちなみに呼吸も問題なくできる」
「と、飛んだって、あ、あんたの力なの!?」
「そうだな」
答えると楠木はしゃがみ込み頭を抱えた。
一見、モデルのように美しい彼女が百面相しているのは、見ていて退屈しない。
「そういえば楠木は演劇をやってたよな?」
「きゅ、急に何よ……?」
「いや、ふと思い出してな」
演劇部で活動している彼女の舞台を、恋たちに誘われて見たことがあった。
「楠木――お前、今からいい経験ができるぞ」
「いい経験って……まあ、宇宙に来れたのは、確かに……」
「――それだけじゃない」
「え?」
「舞台に活かせるかはわからないけどな。惑星が消し飛ぶところが見れるなんて、早々できる経験じゃない」
「な、なに言って――」
「え~と……惑星一つを爆発させるくらいの力だと……こんなもんか」
俺は惑星に向けて手を伸ばして、無詠唱で魔法を放った。
小さなボール程度のサイズの円球が惑星に向かって落ちて――暫くして……着弾した。
――ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
宇宙空間であるにも関わらず轟く爆音。
それは宇宙の構造を歪めるほどの大爆発。
当然、惑星は跡形もなく消滅していた。
「……ぁ……う、嘘……」
「これでハルケニア大陸は消滅した。お前は世界の最後を目撃したわけだ」
「……ぁ……ぁ……あたしの、せいで……」
「送還が始まるようだな」
今、楠木が立っている場所に魔法陣が展開された。
だがショックを受け過ぎてしまったのか、真っ青になっている。
正直、かなり申し訳なくなってくる。
が、敵を騙すにはまずは味方からだからな。
「楠木……帰る前に一言だけ」
「……」
「これ全部、幻覚だから」
「は……?」
送還される直前、俺はパチン――と、指を鳴らして幻覚を解いた。
そして楠木の視界には元の世界が広がったのだろう。
彼女が目を見開き安堵の表情を見せたのと同時に――送還は完了していた。
「……狭間くん、今のって……」
「楠木に幻覚を見せたんだ。そして――世界の終わりを見届けさせた」
少なくともあの惑星の消滅で楠木は世界は終わったと確信したのだ。
だからこそ送還は始まった。
「狭間くんが、あんな酷いことするわけないと思ってたけど……本当にびっくりちゃったよ……」
「悪いな。敵を騙すにはまず味方からだ」
「……楠木さんを送還させる為なのはわかるけど……ボクたちを騙すようなことは、これからはしちゃやだよ? 約束だよ」
言って長嶺は俺に小指を向けた。
「……わかった。約束だ」
「ん……それと元の世界に戻ったら、楠木さんにも一言、謝ってね」
楠木を元の世界に戻す為とはいえ、俺が彼女を傷付けてしまったことに違いはない。
だから、その責任は取る必要があるだろう。
「それは最初からそのつもりだよ」
俺がそう口にすると、長嶺は微笑を浮かべたのだった。
「さて……あとは長嶺のほうだな」
「うん。元の神様……ガブリンの捜索はどうしよう?」
「簡単に見つかればいいが……新しい神を立てて逃げ出してるってことは、そう簡単には捕まらないだろうな。だろ、ベアル?」
俺は超神に話を振る。
「す、既に捜索を開始したのですが……申し訳ありません……上手くいっていません。昔からサボることにかけては、どの神よりも上手かったので……」
自称二―ト神は伊達じゃないということか。
「なら仕方ない。ファルガ――」
「は、はい!」
「お前が今日からこの世界を管理しろ」
「そ、それは構わないのですが……た、ただ……使命は大丈夫なんでしょうか?」
長嶺の使命は、この世界の支配を目論む悪魔ファルガの討伐。
既に世界を支配するつもりはないとはいえ、ファルガがこの世界に生き残っている事実は変わらない。
だから、
「お前、俺と契約しろ。そうすれば、新しい名を俺が付けてやる」
「よ、よろしいんですか!?」
強者と契約を結び、名を貰うということには大きな意味がある。
契約者の力の一部を借りることが可能になるからだ。
許可された範囲内ではあるが、名付け親が強者であればあるほどにメリットは大きい。
「ああ、ファルガという名を捨てれば長嶺の使命も完了だ。俺と契約を結べばお前は全く別の存在に進化することができる」
「ぜ、是非、お願いいたします! 悪魔にとってこれほど光栄なことはありません!」
深々と頭を下げるファルガ。
「じゃあお前の名前は……」
少し逡巡する。
この世界の管理を任せるのだから……。
「オーダー」
「オーダー! 威厳のある素晴らしい名前です!」
するとファルガ――もといオーダーは俺が付けた名前を受け入れた。
瞬間、闇の巨人の姿が変化して通常の人間に近い見た目に変化する。
唯一の違いは闇を凝縮したような黒い一本角が生えていることだろう。
それがオーダーにとって、残された悪魔の証なのかもしれない。
「秩序の管理者という意味を込めた」
「ありがとうございます! うおおおおおっ! し、信じらないほどの力が漲っていく!? こ、これで本当にほんの一部だというのか!?」
「ああ……お前に許可した力は限りなく一部だけだ」
「し、信じられません……あ、あなた様は……一体……」
「ただの人間だ」
「い、いや、それは……」
無茶がある。
本日二度目のそんな顔を皆にされた。
「ぁ……」
「おっ、始まったな」
悪魔ファルガが消えて、新しい管理者が生まれた。
そのことで長嶺の使命は達成されたのだ。
「これでボクも日本に帰れるんだね」
「ああ、時間がかかって済まなかった」
「全然……狭間くんが来てくれなかったら、ボク……どうなってかもわからないもん」
言って長嶺は微笑する。
「狭間くん、帰ったら改めてお礼……言わせてね」
「ああ、少しゆっくり話をしよう」
「うん! 約束、だよ」
嬉しそうな笑顔を残して、長嶺の転移は完了した。
「さて、オーダー」
「はっ!」
「この世界を頼んだぞ」
「かしこまりました!」
「うん。何かあればいつでも連絡しろ」
「お手を煩わせるようなことがないようご対応させていただきます!」
オーダーは、まるで別人みたいに真面目になっていた。
「あとベアル」
「は、はい!」
「助かった。もう戻って大丈夫だ」
「わ、わかりました。何もお役に立てず……」
「そんなことない。お前のお陰で楠木に会えたんだからな」
「た、多少でも役立てたなら良かったのですが……」
「役立ったさ。管理局の女神たちにも言っておく」
「や、やはり、あなた様はラブリー様たちとも繋がりがあるのですね」
「まあ、な」
「かしこまりました。今後とも何かありましたらいつでもお呼びください」
深い事情を聞くことはなく、ベアルはその場で一礼して去っていった。
さて、
『じゃあ俺たちも行くか』
『うむ。そこそこ楽しめたな』
楽しめたかは別として、長嶺と楠木――二人の生徒を助けれたのは良かった。
『次もこの調子でいきたいものだな』
座標を確かめて――俺は日本に転移するのだった。
※
〇戦績
ステージ2:ハルケニア大陸――攻略達成
エンド:TURE END
異世界救出:長嶺 美悠
奴隷として売られかけていたところを助けられる。
巡に想いを寄せている彼女。
果たしてこの先、恋の戦争の行方は……?
異世界救出:楠木 夢美
先に日本に送還されたクラスメイト。
巡に助けられたことにとても感謝している。
が、あれの件はまだ根に持っているようだ。
残り転移者――21名。
ネクストステージ:日本…… → 日本?