第30話 厄介な使命
「え? が、ガブリンって、あれ? く、楠木さんだよね?」
「やっぱり長嶺ちゃんで間違いないよね!」
どちらからともなく互いに駆け寄って、二人は手を取り喜び合う。
正直、状況が飲み込めない。
「あたし以外にも、こっちの世界に誰かいるかもって思ってたけど……狭間もいるってことは、他のみんなもいるの?」
「わからない……狭間くんとも今日再開したばかりで……」
「そう、なんだ……でも、二人とも元気そうで良かったわ」
俺たちの無事を喜ぶように楠木は微笑を浮かべた。
少し疲れてはいるようだが、彼女も怪我を負っている様子はない。
「ベアル、これはどういうことだ?」
「ど、どういうこと、というのは?」
「なぜ転移者である楠木が神になっている?」
「あ~いや、そ、それは……ぜ、前任者の都合であるかと!」
どうやら、ベアルも状況を把握していないらしい。
元々、ここを管理している神がいないのだから、状況を完璧に把握している者はいないということだろう。
なら、楠木本人に聞くのが一番早いか。
「楠木……再会したばかりで悪いんだが、いくつか確認しなくちゃならない」
「あたしも色々と聞きたいことはあるけど……うん、お先にどうぞ」
「すまない。俺たちは下位神であるガブリンを探していたんだが……」
「あ~……それ、あたしのことみたい……」
特に隠すこともなく、楠木は答えを返した。
「みたいと言うと……?」
「こっちに来ちゃった時にね……あ、転移っていうのを、あたしたちしちゃったみたいなんだけど……」
どうやら、全く状況を理解していないわけではないらしい。
「それは誰に聞いたんだけど?」
「あ~前の、この大陸の神様」
「……なんとなく話が見えた」
つまり楠木は――
「お前は神を継いだんだな」
「!? よくわかったね! なんだか、そういうことらしいの……転移した時にガブリンがいて、それでこの世界の管理を引き継いでくれって言われちゃって……」
俺にも経験はあるが、異世界によっては稀に神と接触することがある。
勿論、最高神――本当の神に辿り着ける者はいないと思うが。
「それでガブリンは?」
「ニートになりたいって言って、力を渡すだけ渡して、いなくなっちゃったのよ」
「神様なのに!?」
長嶺が思わずといった様子で突っ込んだ。
が、その気持ちはわかる。
神のイメージというのは、なんというか荘厳なイメージがあるから。
「……で、以降はニート神は行方不明で、お前が神を継いだと」
「そう……なんだけど、ファルガとかいう悪魔に、力を奪われちゃって」
「あ、そ、その説は申し訳ありません……まさかハザマ様のご友人とは知らず……」
「いえいえ――って、なによこの巨人っ!?」
今気付いたのか……。
楠木は、ぎゅっ――と、長嶺を抱きしめた。
「大丈夫だ。ファルガなら何もしないよ」
「な、何もしないって、え? ファルガ……って、こいつ、あのちっちゃかった悪魔!?」
「あ~……神の力を得て、身体も大きくなりました」
「で、デカくなりすぎでしょ!? あんな小柄な少年風だったのに!? いきなり襲い掛かられて、びっくりしたんだからね!」
ああ、そういえば力を吸い出された時、そんな見た目に変化してたっけ。
「というか、なんで狭間くんたちは平然としてるの?」
「なんでって……変か?」
「変よ!」
「あははっ、ボクも……それが平常な反応だと思う」
即答する楠木。
そして苦笑する長嶺。
「神様になってる同級生に言われたくないぞ」
「っ……それを言われると、何も言い返せないわ……」
「……なんというか、本当に大変なところに来ちゃったよね……」
普通に学生生活を送る。
変化のない日常を楽しむ。
それが当たり前だったのにな。
「……楠木、意志を聞いておきたいんだが、元の世界に帰るつもりはあるか?」
「帰れるの!?」
目を見開き俺にグッと迫って来た。
キラキラと輝いた瞳には確かな希望を映している。
「その様子なら聞くまでもなかったな」
「帰りたいよ! 友達もいなくて、神様になってほんと退屈なんだもん! 便利な力も直ぐに奪われちゃったし……」
じ~っと、楠木は無言の圧力をファルガに送った。
すると闇の巨人は、しゅん……と申し訳なさそうに視線を伏せる。
その殊勝な態度は見た目に似合わず可愛らしい。
「この世界に転移した際、使命を与えられているよな?」
「ああ、うん。ガブリンに言われた」
「内容は?」
「え~と……確か、ここの管理者としてこの世界を見届ける、だったかな?」
「……なるほど」
逡巡のあと、とりあえず一言だけ返した。
「狭間くん……」
長嶺が不安そうに俺を見つめた。
使命を果たさなければ、元の世界に送還はできない。
彼女はそれを知っているから。
「え? な、何か、問題……あり?」
「「まあ、大丈夫だろ。なんとかするよ」」
厄介な使命であることは間違いないが、俺の頭の中にはいくつか問題を解決する手段が浮かんでいた。




