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第28話 神も悪魔も友人も――

「うえ!? ふぁ、ファルガについて……ですかい?」


 モヒカン男は動揺して俺から視線を逸らす。

 だが、その態度は予想通りと言っていい。


「答えられないとは言わないよな?」

「そそそそそれは……」


 微笑を浮かべる俺に、モヒカーンが汗をだらだらと流す。

 それを見て、闇の獣が「ウウウウウウウウッ!!」と、低い唸り声をあげる。


「わわわわわわかった! だ、だがもう一つ約束してくれ」

「なんだ?」

「も、もしファルガが俺を殺そうとしてきたら、守ってくれねえか!? じゃ、邪神が相手だ。無茶なことを言ってるのはわかってるが――」

「いいぞ」

「へ?」


 モヒカーンは口をぽっかりと開いた。


「だからいいぞ」


 聞こえなかったのかと思い、もう一度返事をする。

 だが、空いた口がさらに大きく開いた。

 そんな間抜けな顔をさせるようなこと言っただろうか?


「ちょちょちょちょちょっと待ってくれよ旦那!」

「なんだ?」

「頼んだ俺様が言うのもなんだが、そんな簡単に安受け合いしていいのかよ!?」

「いいんじゃないか?」

「じゃないかって――邪神だぞ! 相手は邪神!」

「だから?」

「クッソ恐ろしい化物だぞ!」


 邪神とはいえ、神を化物扱いとは中々に命知らずな奴だ。

 だが今の言葉で理解した。


「直接、顔を合わせたことがあるわけだ」

「ぁ……」


 しまった……という顔をして、軽率な男が自身の口を慌てて覆う。


「今の聞かれてたら邪神は怒り狂うかもな」

「て、テメェ、は、ハメやがったな!」

「テメェ?」

「あ、じゃなくて、旦那様でございます!」


 微笑を向けてやると、モヒカン男が直立不動の姿勢となり、下手な敬語を口にした。

 全く飽きさせない奴だ。


「ファルガの情報を話せ。そうすればお前を助けてやる」

「あ、あんた、邪神に勝つつもりかよ?」

「勝つつもり? まあ、勝負にならないだろうな」

「だろ? なあ、旦那……無茶なことはするもんじゃない」

「お前、勘違いしてないか?」

「へ?」

「相手が弱すぎて勝負にならないと言ってるんだ」

「はああああああああっ!?」


 そんなに驚かれるなんて、俺は随分と舐められたものだ。

 だが、対峙する相手の力を理解できないというのは、未熟な者にはありがちなことだろう。


「――ぁ……」

「ど、どうしたんだ!? なにかあったか!? ファルガの呪いでも受けたのか!?」

「違う。お前、もう話さなくてもいいぞ」

「ぇ……?」

「見つけたから」


 俺はモヒカーンと話しながら、ある作業をしていた。

 それは召喚された闇の獣から――召喚者の魔力を特定すること。


「長嶺、転移するぞ」

「急にどうしたの?」

「ファルガの居場所がわかった」

「もう!?」


 声を裏返した長嶺に、俺は頷き返す。

 そして、片手でモヒカーンを抱え上げて牢屋を出た。


「ちょ、ええ!? だ、旦那、お、俺様に何するつもりですか!?」

「お前も邪神のところに連れていく」

「はあああああっ!? なななななに言ってんだよ!?」

「見届けさせてやるよ。勝負にならない戦いを」

「はあ? わ、わけがわからねえ!」

「衛兵さん、少し借りてくから。直ぐに戻る」

「は、はぁ……」


 衛兵は戸惑っていたが、俺は構うことなく。

 左手で長嶺の手を取ると、召喚者を特定した位置まで転移した。




          ※




「消えた……? あの人間、オレの居場所がわかったと言っていたが、まさか……」

「よう」


 俺は目の前に立っていた闇の巨人に挨拶した。


「ぎゃあああああああああああああふぁ、ファルガアアアアアっ!?」


 抱え上げていたモヒカン男が絶叫した。

 うるさかったので、その場に落とすと「ぎゃふん」と、倒れ込んだ。


「この巨人が……ファルガなんだ」


 長嶺は思って以上に冷静だった。

 代わりに俺の手をぎゅっと握っている。

 それが安心感に繋がっているのだろう。


「……本当にオレを見つけ出すとはな」

「少し時間がかかった。気配がないからもしかしたらと思ってたが、まさか異空間にいるなんてな」


 今俺がいる場所はハルケニア大陸ではない。

 次元の中にある異空間に俺は転移したのだ。


「……お前は何者だ? ただの人間が神の管理する異空間に来られるはずがない」

「見たままの、ただの人間だよ」

「答えるつもりはないか」

「いや、答えただろ」

「嘘を言うな。オレはわかっている。お前は、管理局の女神が俺を消す為に送った新たな神なのだろ?」

「いやいや、そりゃ見当違いだ」


 なぜそう思った。

 というか、管理局の存在は知ってるんだな。


『ふむ……この者が管理局を知っているとはな……』

『アルも意外なのか?』

『我が名前を聞いたこともない下位神が、管理局を知っているというのは少々違和感を覚えるよ』


 少しだけアルの中でファルガに対する興味が芽生えたらしい。

 それでも限りなく小さいといった感じだが。


「まあ、事実を口にすることはできないだろうな」

「いや、俺も信じないならそれでもいいけどさ。で、一応聞いておきたいんだが……この世界を管理していた神は?」


 折角、顔を合わせたのだから聞いておこう。


「力を奪って異空間から追い出した。今頃、大陸のどこかにいるんじゃないか? 力を奪われた以上、ただの人間以下の力なき存在になっているだろうがな」


 どうやらこの世界を管理していた神と、ファルガとの間で戦いがあったのは間違いないらしい。


「オレは力を手に入れた。もう悪魔ファルガではない。オレを罵った神の力を奪い――悪魔を超え、オレは邪神となった!」

「ああ、やっぱり悪魔ファルガだったのか」


 つまり神と神が戦ったのではなく、神が悪魔に負けて力を奪われたと。

 確かにアルも、悪魔が神に挑んでくることがあるというようなことを言ってたな。


『悪魔如きにやられるとは……』


 確かに神と悪魔では力に大きな差がある。

 まあ、下位神と最上位悪魔であれば、いい勝負くらいだろうか?


「いつかは神の頂点に立ってみせる!」

『ほう……不敬であるな』


 不敬と口にした割にはアルはおかしそうだった。

 道化の笑い話程度に捉えているのだろう。


「ちなみに神の頂点というのは、なんて奴なんだ?」

「そんなもの超神ベアルに決まっているだろ」


 ベアルという神がいるのか。


『知ってる?』

『あ~ちょっと待て……』


 多分、アルは確認を取ったのだろう。


『うむ、どうやら下位神の中の頂点らしい』

『あ……』


 もうそれしか言えなかった。

 ファルガ、ちょっと可哀想な子だな。


『面白そうだったので、ここに呼んだぞ』

『は?』

『下位神のツケは下位神に取らせるとしよう』


 アルが言った途端――眩い光が異空間を満たした。

 それは神々の力を感じさせる聖なる光だった。

 光が消えると、真っ白な両翼を生やした人型の神が立っていた。

 神というよりは見た目は天使という感じだが……これが超神ベアルか。


「なっ!? なんだ!?」


 闇の巨人が動揺を示す。

 俺が来た時より明らかに驚いているのが切ない。


「私は超神ベアル。ラブリー神様に命じられて来てみれば……貴様がここの管理を奪ったという悪魔か?」

「べ、ベアルだと!? ま、まさか――」

「力を奪い悪魔に戻せと言われた。命令を実行する」


 言ってベアルは右手を伸ばした。

 するとファルガの身体から、猛烈な勢いで魔力が吸い取られていく。


「なっ!? やめろ! やめてくれぇ……か、神から奪った力が、オレの万能が――」

「終わりだ」


 そして力の吸収は一瞬で終わっていた。

 闇の巨人であったファルガの見た目が、今は小さな子供の姿に変わっている。 


「命令は完了した。これより元の管理者に力を戻――」

「いや、待てよ」

「ん?」


 俺はベアルを引き止めた。


「そいつが努力して奪った力だろ? お前が勝手に持ってくんじゃねえ」

「人間の子よ……なぜここにいるのかわからないが――私を誰か理解して口を開いているのか?」

「そうだ。その力――ファルガに返せ」

「ええええええっ!? は、狭間くん、いいの!? それでいいの!?」

「いい」


 他人の努力を一瞬で否定していいわけがない。

 たとえそれがぶっ倒さなくちゃならない悪魔だとしても――俺はそれを許さない。


「ふむ……全く。人とはわけのわからないことをする生き物だ。……歯向かうというのなら消えよ」


 言ってファルガに向けていた右手を、俺に向ける。

 が――


「お前が消えろ」


 俺も右手を伸ばした。

 瞬間――ブオオオオオオオオオオオオオッ!


「なっ……!? 馬鹿な!?」


 今度は俺がベアルから力を吸い取ってやった。


「や、やややややめろ! やめるんだ! こ、このままでは、私の神の力がああっ!」

『ふはははははっ! 下位神とはいえ神の力を吸い出そうとは、巡よ――貴様は本当に面白いな』


 アルは今日一番の大爆笑だった。


「わ、わかった。ファルガの力は戻す! 戻すから許せえええっ!」

「……約束だぞ? 破ったらお前をデコピンで吹き飛ばすからな?」

「ややややや約束だ! 管理局の女神であるラブリー様に誓う!」

「よし」


 俺はパチン――と指を鳴らす。

 瞬間、吸い取ったベアルの力は全て元に戻ったのか、再び巨人の姿になっていた。

 そして、膝を突きながら、超神が俺の顔を見上げて。


「あ、ああああ、あなた様は……一体……?」

「ただの人間だ」


 んなわけあるか! と、神や悪魔や友人やモヒカンも含め、この場にいる全員のツッコミが、俺の心に届いたのだった。

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第一部完結しました。
『勇気を出してよ皆友くん!』
もしよろしければ、ご一読ください。
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