第19話 次の世界へ
※
『異世界転移者が見つかった』
アルから転移者の詳細を確認したあと、俺は恋と詩音に念話を送った。
『っ!? え、な、何これ……!?』
『頭の中に直接、声が……』
突然のことで二人を激しく動揺させてしまったらしい。
『すまない。連絡だけはしておこうと思って……』
『起きてはいたけど……これ、念話?』
『ま、魔法の電話みたいなものですか? 少し変な感じですね。頭に直接響くというか……』
俺にとっては当たり前のことだが……確かに慣れるまでは違和感があるかもしれない。
『念話だと少し話しづらいか。なら――』
パチン――俺は魔法を切り替えた。
今使ったのは念写会話と言って、リアルタイムで自身の姿を映す魔法だ。
顔を見ながら会話が出来るので便利な力なのだが――
『ぇ……?』
『なぁ!?』
『ぁ……』
失敗した。
完全に使うタイミングをミスった。
なぜなら――俺の視界にはシャワーを浴びる二人の姿が映し出されていたから。
『きゃあああああああああああああああああっ!!』
『先輩のえっちいいいいいいいっ!!!!』
『す、すまん!』
映像を慌てて落とす。
直前、シャンプーやら石鹸を俺に向けて投げる二人が見えた。
『ふはははは! 中々笑わせてくれるではないか』
『笑いごとじゃねえ!』
『ふむ……小娘かと思えば二人とも中々良く育っているではないか』
直ぐに目を逸らしたが二人の柔肌を見てしまったのは事実だ。
度重なる転移と転生を繰り返してきた俺だが、女性の裸は見慣れてはいない。
というか現代に戻る為に時間の全てを注ぎ込んで来た為、そういった経験は皆無だ。
繰り返される人生の中で、誰かに深い情を持ちたくなかった。
(……ど、どうする?)
こういう時、どうしたらいい?
いや、まずは素直に謝るべきだろう。
俺は念話を送った。
『あ~そ、その……すまない』
『……ったく、もういいわよ。わざとじゃないんでしょ? それに巡になら……』
『え?』
『な、なんでもないわよ! とにかく、次にあの魔法を使う時は先に言って』
『約束する』
もっと怒られると思ったが、恋は直ぐに俺を許してくれた。
だが詩音は何も口にしない。
『し、詩音、怒ってるよな?』
『……先輩』
俺を呼ぶ詩音の声は泣きそうだった。
やばりショックを与えてしまっ――
『責任、取ってくださいね』
『えっ!?』
予想外の発言に俺は思わず口を噤んでいた。
責任というのは、つまりそういうことで――
『ちょ、し、詩音、あんたなに言ってんのよ!』
『あははっ、冗談です。驚きました?』
泣きそうな声から一転、詩音は明るい口調に変わった。
どうやら俺たちを驚かそうとしたらしい。
だがこのくらいの悪戯なら可愛いものだ。
『そういう冗談、笑えないわよ』
『でも半分は本気です。男性に裸を見られるの初めてでしたから……』
『そ、そんなこと言ったら、あたしだって……』
『なら二人一緒に責任を取ってもらっちゃいます?』
『はああっ!? なななななに言ってんのよ! ふ、二人でなんて、だ、ダメに決まってんでしょ!』
『あ~恋さん、嫉妬してるんですか? 慌てちゃって可愛いです』
俺を置いて姦しい会話が繰り広げられている。
どうやら二人とも怒ってはいないようだ。
はぁ……俺は胸をなでおろした。
『恋も詩音も、本当にすまない』
『べ、別にいいって言ってんでしょ』
『先輩だから特別ですよ』
とりあえず許してもらえたようだ。
素直に謝っておいて正解だったな。
だが……二度とこういうことがないように気を付けよう。
『少し話がずれたが本題に入らせてもらう。次の転移者が見つかった。異世ハルケニア大陸――転移者は長嶺美悠だ』
『長嶺さんか……あまり交流はなかったけど、大人しい感じの子だったわよね』
『だとしたら……いきなり異世界に飛ばされて、すごく心細いかもしれませんね』
不安にならない者なんていない。
俺も初めはそうだった。
わけのわからない世界でたった一人……言葉すら通じなかった。
だからこそ、
『直ぐに救出に向かう』
『なら、あたしも連れて行って』
『それはできない』
『どうしてよ! 一人よりも二人のほうが――』
『足手まといだ』
『っ……』
恋の気持ちは嬉しい。
彼女も当然、みんなを助けたいと思っている。
それに俺を手伝いたいと考えてくれたことは間違いない。
『恋、ありがとう。だけどお前を危険に晒したくないんだ』
『……わかったわ』
少しの間はあったが恋は納得してくれた。
『だけど必ず無事に帰ってきなさいよ!』
『先輩、待っているほうもつらいんですからね。でも、信じてますから』
『ああ必ず長嶺を連れて戻ってくる。……そうだ。念話が出来る魔法道具を置いていくから、もし何かあればこれを使ってくれ』
収納魔法で魔法道具を取り出して、俺はベッドの上に置いた。
再び現代で大規模な転移が起こるとは思えないが……一応の用心だ。
『それじゃ行ってくる』
『ええ。気を付けなさいよ』
『あまりは無理はしないでくださいね』
二人に返事をした直後、俺はハルケニア大陸に転移したのだった。